ルノー・メガーヌGTライン dCi 130

公開 : 2014.01.22 22:00  更新 : 2017.05.29 19:22

■どんなクルマ?

フェイスリフトされた2014年型ルノーメガーヌ・クーペの登場である。

2008年に発表された現行メガーヌは、フォルクスワーゲン・ゴルフフォード・フォーカス、ヴォグゾール・アストラといった競合車と戦いを演じてきた。

それ以来ライバルの多くがフル・モデルチェンジや大幅な改良を受けてきたので、ルノーはすっかり遅れを取ってしまった。そして第2世代のキア・シードといった新たな挑戦者の登場により、メガーヌはこの競争から取り残されたモデルになってしまった。

そこでメガーヌをアップデートしてルノーの他のラインナップに追いつかせるために、ブランドの最新ビジュアル・アイデンティティが与えられたのだ。ノーズにはこれまでよりずっと目を引くルノー・ダイヤモンドがあしらわれ、新型のバンパー、ヘッドライト、グリル、新しくなったボンネットが与えれている。

ルノーが言うには、サスペンションの動力性能を強化しており、そのうえ新開発の1.2ℓTCeガソリン・エンジンがラインナップに加えられるという。純正のRリンクと呼ばれる情報エンターテイメント・システムとともに、多くのテクノロジー・パックも用意されている。

今回テストしたのは1.6ℓのクーペ・モデルでトップ・グレードとなるGTライン・トムトム仕様だ。車両本体価格は£22,945(約350万円)となっている。価格設定はディーゼルのハッチバック・モデルとしては安くはないが、十分な装備により説明がつくというものだ。

標準搭載されるのはクルーズ・コントロール、スピードリミッター、デュアルゾーン式オート・エアコン、リアのパーキング・センサー、GPSナビゲーション、スマート・エントリー、オート・ライトとオート・ワイパー、それにブルートゥースとUSBの接続デバイスである。

GTライン・トムトムにはアップグレードされた意匠が数多く設定され、下位グレードとなるダイナミック・トムトム以下のモデルと差別化が図られている。最も目に付くのは17インチ・ホイール、ダーククロームのエクステリア・トリム、それにルノースポール製のステアリングとツートンカラー・シートである。

こうした差別化は、スポーツ・シャシーと全長の短いサスペンションによって一層引き立てられている。われわれのテストカーは、オプション設定となる£595(約10万円)のメタリック・ペイント、£300(約3万円)のRリンク・マルチメディア・システム、£95(約1万5千円)のスペア・タイヤ、£600(約10万円)のリアビュー・カメラが追加装備され、その他も含めた車両価格は£24,535(約400万円)に達している。

■どんな感じ?

いくつか非常に気に入る点があった。GT仕様は、標準モデルより足まわりが固められているのが、動き出しから早々に分かるのだ。

予想していたことだが、コーナリング中のロールが最大限に抑制されるので、足まわりの印象はこれまでより引き締まっている。不満な点はいくぶん乗り心地が劣る点であろう。そのうえ、ルノーはスムーズな路面においても不安定なままにしたがるし、不整路面ではキャビンまでひんぱんに衝撃が伝わってくる。通勤ルートが長いドライバーは、落ち着きのないクルマのせいで、家を出て早々に疲れを感じるはめになるだろう。

メリットとしては、ステアリングの感触がダイレクトであることが上げられる。路面からのフィードバックが豊富なわけではないが、操舵感は十分な重みがあり、優れたグリップを感じることができる。スポーツ仕様のサスペンションが備わったことで、カントリーロードを走り回ればルノーの高性能ぶりに満足し、それなりの走り甲斐まで感じられるのだ。巧みなコーナリングを実現するために相当な努力が重ねられたのは明らかである。

スロットルとクラッチの操作には正確なレスポンスがあるのだが、ブレーキングについてはいま一つ作り込みが足りていない。ペダル・ストロークが相当あるために、初期制動は非常に柔らかいフィーリングなのだが、ある所から急にペダルが固くなるのだ。素早く減速するためには、これを使いこなすための努力が必要で、ドライバーの中には知らないうちに窮地に追い込まれるものもいるだろう。

6段マニュアル・トランスミッションのギアリングは適切であるが、縦方向のシフト・ストロークが多い。それにシフトチェンジには、いささか耳障りでプラスチッキーな音が伴い、一度気になりだすと気になってしょうがないのである。

動力は定評のある1.6ℓ16バルブ・ディーゼルターボ・エンジンによって生み出される。最高出力は131ps、最大トルクは32.6kg-mとなり、6段マニュアル・トランスミッションを介して前輪へ供給される。

このクルマのエンジンはルノーの多様なモデルと共用されるものだが、メガーヌは十分なパフォーマンスを発揮する。0-100km/h加速は、9.8秒というなかなかの記録で、十分な距離があれば時速200km/hに達するほどの加速を見せる。

エンジンには十分な柔軟性があるので煩わしい思いをせずに済むし、出力特性もドライバーにとって自然なものだ。改良は期待通りのものだが、クルージング中はバルクヘッド越しにディーゼル・エンジンの響きがわずかに伝わってくる。加速時のエンジン音は耳障りにも感じるが、5000rpmから始まるレッドゾーンまで回転を上げることはめったにないだろう。

ルノーの話によると、メガーヌdCi 130の平均的な複合燃費は25km/ℓということだ。それでもテスト中は、平均値を表すインジケーターの数値があっけなく19.1km/ℓまで低下した。CO2排出量は104g/kmという素晴らしい値で、これにより一年間の道路税は£20(約3,400円)となる。

車内については、Rリンク・メディア・システムが搭載されること以外はほとんど違いがない。前席の乗員は広々とした空間が与えられ、シートの調整範囲も適切だ。それにステアリング・コラムにはテレスコピック機構とチルト機構の両方が備わる。

大部分の操作系は、機能的に配置され直感的な操作ができるので、ドライバーが迷うことはない。また、キャビンのたてつけは堅固なもので、がたつきや軋みもなく、素材の質感は許容基準を満たしている。しかし、テールゲート付近からのロードノイズは大きなものだし、それに斜め後方の視界は良好とは言えない。

後席の乗員には、前席ほどの条件が揃っていない。シートの快適性は十分だが、3つあるすべてのヘッドレストは高さの調整幅が不足している。このため身長が180cmほどの乗員は、首のすぐ後ろをヘッドレストによって塞がれてしまう。また、シート間を隔てるアームレストも存在しない。

後席のレッグルームは好ましいのだが、ヘッドルームはほとんど存在しない。さらに小ぶりなウィンドウが後席空間を一層窮屈で狭いものに感じさせている。子どもには問題ないが、大人は短時間の乗車しか耐えられなさそうだ。

多くの人が、間違いなく人間工学上の問題の多さに辟易するだろう。例えば、計器類はドライバーから遠くて斜めに配置されたために、シート・ポジションがいつまでたっても定まらない。グローブボックスは腹立たしいほど小さく、そのうえカップホルダーに到ってはセンター・コンソール上で邪魔になって仕方がないのだ。ただ、ドア・ポケットは実用的なサイズで、少なくともボトルや他の大きなものが収納できる。

クーペについては、思った通りドアが長くなり重量も増している。ドア・ハンドルはヒンジのそばに設置されてしまう。このためドアを開けるのも取り扱うのも困難になり、狭い駐車場やスロープの上では厄介な思いをする。

嬉しいことにルノーのトランクはかなりの広さがあるのだが、開口部が狭くて地面から高い位置にある。結果としてかさばる物や重いものを積み込むのが困難に感じる人もいるだろう。

GTラインの追加装備によって、標準仕様のメガーヌより見た目の印象はずっと洗練される。しかし、17インチ・アロイホイールというのは少々役不足に思える。サイズの大きなホイールにすれば、さらに人々の関心が高まるし、適切に作り込めば乗り心地が犠牲になることもないはずだ。

■「買い」か?

勘違いをしてはいけない。”買い”であるかに絞って考えると、ルノー・メガーヌは悪いクルマではないのだ。主な問題は、今やモデルライフが6年目に達していることだ。数え切れない改良があったにもかかわらず、後席空間の不足や本質的な素質の欠如といった根本的な問題は、未解決のままである。

GTラインのメガーヌは、ちょっとした難問を突きつけている。値段もそこそこの快適なハッチバックで、スタイリングもそれなりに良いクルマなのは確かだ。通勤利用には申し分なく、走りも十分いいのだが、正直なところ値段の安い標準仕様でもそれは同じなのだ。

ほとんどの購入者は、とりわけ使用目的を考慮すると、間違いなくGTライン以外のメガーヌのソフトな乗り心地を好むだろう。結局のところディーゼル・モデルの購入者は最高の動力性能を求めるのではなく、その代わりに乗り心地と使い勝手の両立を望むのだ。

今回のテストカーは、価格面もネックになっている。£24,535(約400万円)という車両価格は、同等スペックのフォード・フォーカス、例えばチタニウムXナビゲーター・グレードの1.6ℓ TDCiエンジン搭載モデルよりも、£2,340(約40万円)も高価なのだ。そのうえ、フォーカスは現代的で素敵なインテリアと、際立った走りの性能を備えている。

アウディA3といった3ドアの選択肢でさえ、安い価格で比較的充実した装備のモデルを用意している。例えば、スポーツ・グレードの2.0ℓ TDI・A3は、GPSナビゲーションを含めて£23,480(約380万円)となり、£1,055(約20万円)を節約できる。

維持費が懸念されるならば、韓国製のモデルを選んだ方がお金の節約になるだろう。シャープなスタイリングのキア・プロシード 3ドア、それもトップモデルであるSE仕様は、1.6ℓディーゼル・エンジン・モデルで£19,595(約320万円)しか掛からない。そのうえ、7年間保障がつき、燃料消費率は23.3km/ℓである。

結局のところルノーには、購入を正当化できる理由がほとんどないのである。たしかに比較的スマートな見た目だし、たしかにいくら走っても高くつくことはない。それに走りが悪いわけでもない。しかし、ライバル勢はさらに燃費に優れ、安価なモデルの多くが存在感のある魅力的なオプションを用意しているのだ。

もしもこのクルマの価格が数千ポンド下がってくれれば、または大幅な値引き交渉に成功すれば、その時になってはじめて検討の価値があると判明するのだ。

しかし、われわれはどうにも他のクルマに目が向いてしまうのだ。

(ルイス・キングストン)

ルノー・メガーヌGTライン dCi 130

価格 £22,945(395万円)
最高速度 200km/h
0-100km/h加速 9.8秒
燃費 25.0km/ℓ
CO2排出量 104g/km
乾燥重量 1320kg
エンジン 直列4気筒1598ccターボ・ディーゼル
最高出力 129ps/4000rpm
最大トルク 32.6kg-m/2000rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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