テスラ・モデルS

公開 : 2014.06.11 23:50  更新 : 2017.05.29 18:47

■どんなクルマ?

型破り、状況を一変させる、先入観を覆す、といった形容がぴったりなテスラモデルSの右ハンドル・モデルが長い月日を経て用意され、いよいよ英国でも購入できる運びとなった。AUTOCARを日常的にご覧になっているならば、昨年ビデオ・レビューとフル・テストを行った際に、文句なく現代の電気自動車の中で最も説得力があるクルマであると結論づけたことを覚えている方も多いだろう。

右ハンドルになった以外にも数点ほど去年のテストから変更を受けた点があるけれど、それらはさして重大な変更点ではない。そのうえ(残念なことではあるのだが)われわれの不満を払拭するに至ってはいない。ただしそんな事よりもむしろ、昨年味わった素晴らしさが色あせてないこと、また間違いなく魅力的なプレミアム・カーであることに変わりないことの方がわれわれにとって喜ばしく感じられた。

■どんな感じ?

先述したとおり、前回テストした車両と大きな変更点はないが、モデルSは元を正せばハッチ・バックに匹敵するトランク容量を持った、ミドル・サイズのエグゼクティブ・サルーンであるが故に、リア・シートの背もたれの更に後方に、後ろ向きのシートを配する形となった。またフロント・ボンネットの下にも良好なサイズのカーペット張りの荷室が用意されており、クルマそのものに全く興味がない乗客でさえも普通のラグジュアリー・カーに抱くものとはどこか違う期待を寄せる事ができるだろう。

モデルSには並外れて大きなリチウムイオン・バッテリーを床下に搭載し、3フェーズ電気モーターをリア・ホイールの間に設ける。標準モデルの価格は£50,000(740万円)からとなり、306psの最高出力を発揮し60kWhのバッテリー容量を持つ。60kWhといえば、現実的な使用において290kmの航続が可能だと考えて頂いてよい。パフォーマンス・バージョンのモデルを購入すれば、これらの数値はそれぞれ£69,000(1,022万円)と422ps、85kWh、354kmまで上昇する。今回借りだした車両は去年テストしたモデルと同等の、更に£14,000(207万円)高価な‘パフォーマンス・プラス’版となり、スポーティネスに振った車高調整エア・サスペンションとパフォーマンス・タイヤなど運動性能を追求したモディファイがなされている。

大容量バッテリーと言うのは、もちろん平均的な航続可能距離を上回る事ができると同時に、満充電になるまでの時間が長くなる事も忘れてはならない。’マネケス’ スタイルの7ピン・ケーブルを接続して充電を行い、英国ではBritish GasかChargemasterが充電設備の設置を請け負う。しかしながらソケットはイギリスでは一般的な3穴のソケットとは異なり、また我々の経験上では満充電になるまで14時間を要した。

英国内に85kWhのバッテリーを1時間以内で充電可能な急速充電設備をロンドンからブリストル、バーミンガム、ドーバーまでの幹線高速道路にを設けることも計画中であるとのことだ。

クルマの話に戻ろう。モデルSには主要なシステムと副次的なシステムに多くののソフトウェア・アップデートが施され、インテリアのディテールも変更されている。

インテリアはわずかに知性的に、そして現代的なデザインになり、新たなトリムが用意され、シートやパネルを覆うレザーのステッチは更に丁寧な仕上がりになった。キャビンは心地よく、あるべき場所にあるべきもがあり、発進や停車、ステアリングやウインカーの操作をしながらでも思うままにコントロールできる大型のタッチスクリーンも健在であるが、グーグル・マップを用いた衛星ナビゲーション・システムは3G回線を用いるために相変わらずこちらがヤキモキするほど遅い。

ナビやオーディオをシンプルな言葉で操作できるRdioと呼ばれる音声コントロール・システムをテスラは導入したが、こちらに関しては全く扱うことが出来なかった。

他にもわずかに我慢ならない欠点がインテリアにある。小物入れは小さく、信じられないことにドア・ポケットは用意されていない。そして、パネルのフィッティングとフィニッシュはぞんざいで、ダッシュボード上部の柔らかな素材はゆっくりと消耗していくことになるだろう。その反面、右ハンドル仕様のペダル配置には全く違和感がなく、中央に鎮座するタッチ・スクリーンもきちんと右ハンドル用に設定しなおされている。

ソフトウェアのアップデートは、テスラ曰くスロットル・レスポンスの改良までに及ぶ。それが必要であったかどうかはわれわれには疑問の余地が残るものの、改良が施されているとしたら信じられない程シャープになっているとも言えるだろう。停止状態であろうと、あるいは市街地での速度であろうとあなたがアクセルを踏み込んでいることを脳が認識するよりも前に、モデルSは後ろから蹴飛ばされるかのような即座の力強い加速を見せてくれる。しかもほとんど無音の状態で、だ。

‘パフォーマンス・プラス’ 版のモデルSはシャシーにおいても、従来の伝統的な枠組みに収まる他のクルマに対抗心を燃やしているようではあるが、ライバルのシャシーよりも優れる点はほんの一部分に留まっている。例えばモデルSに採用されたサスペンションは凹凸の目立つ路面では落ち着きがないし、タイヤ・コントロールも意のままとは言いがたい。それだけには留まらず、電気パワー・ステアリングには一貫性がなく、ステアリングを目一杯切り込んだ時には必要以上に重く感じられる。またセンター付近にも不感帯がある上に、概して引っ掛かるような手応えを感じ、フィードバックにも欠ける。もちろんエア・サスペンションもステアリングも必要十分程度には働いてくれるのだが、このクラスのクルマに相応しい完成度であるかと考えると、そうではない。

これらの短所は、モデル中期のフェイスリフトでは改善される可能性があるが、初期ののフェイスリフトでは改善されないかもしれない。車自体が未完成に感じられるという事実がしばらくの間は残ることになりそうだ。

■「買い」か?

短所に目を瞑れば、モデル Sほど高い運動性能を持ち、ラグジュアリーで、極めて便利で、経済的なクルマは存在しない。オプションも豊富で、日々の煩わしい給油やエンジンから聞こえる騒音、燃費などから開放されたかのように思える。モデルSは涼しげな顔をして、するりと道路を駆け抜けるのだ。

テスラに対しステアリングの明快さを向上させることを望み、読者諸兄にはもうすこしモデルSが熟成されるのを待つことをお勧めする。実のところ、われわれはモデルSにたいしてはBMW M5というよりも、むしろ760iに取って代わる立ち位置を期待しているのである。どちらにしても、もしあなたが最高の動力性能を持った最高の電気自動車を望んでいるならば、モデルSはまだまだ完成形とは言い難い。

(マット・ソーンダース)

テスラ・モデルS

価格 £83,480(1,430万円)
最高速度 209km/h
0-100km/h加速 4.2秒
燃費 300Wh/km
CO2排出量 0g/km
乾燥重量 2108kg
エンジン 3フェーズ・モーター
最高出力 422ps/5000-6700rpm
最大トルク 61.2kg-m/0-5100rpm
ギアボックス シングル・スピード

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