トヨタGT86 vs プジョーRCZ R

公開 : 2014.07.14 23:50  更新 : 2021.01.28 18:11

今回の比較テストに選んだこの2台、実は£7,000(104万円)の価格差がある。

厳密にはトヨタGT86が£24,995(370万円)、プジョーRCZ Rが£31,995(474万円)のプライス・タグを掲げるのだけれど、この2台の何よりの共通点となるのは、そのシャープなハンドリングなのである。

双方のクルマに関して、われわれは幾度となく記事に取り上げてきた。そして、折よく2台ともが英国版AUTOCARの長期テストを受けているのである。RCZ Rの小柄な1.6ℓエンジンはプジョー・スポーツによる増強のおかげで270psを叩き出し、またタービンの拡大により最大トルクはたったの1900rpmで31.1kg-mを発生するに至った。

FFの車体にこれほどまでの馬力が必要なのだろうかと考える読者もいるかもしれない。しかしながら、リミテッド・スリップ・デフがいとも簡単にそんな問題を払拭するのである。

86の場合、先ほど挙げたプジョーのどの数字よりも控えめだ。排気量こそ2.0ℓとプジョーのそれより勝るけれど、ターボによる加給はなされておらず、幾分高回転な7000rpmで’たったの’200psしか発生しない。トルクに関してもあえて記すとすれば、こちらの場合6400rpmまで回してようやく20.9kg-mしか得られないのだ。

しかしながらGT86の乾燥重量は1275kgというのが公表値で、プジョーの場合は1355kg。0-100km/hに要するタイムは、プジョーが優勢の6.1秒、86は7.6秒。ただし忘れてはならないのは86の駆動方式が、LSDつきの後輪駆動だということだ。こうやって、それぞれの情報を並べてみるとガチンコ比較も悪くない、と思えるのは筆者だけではないだろう。

筆者はもちろんのこと、読者諸兄も数字だけでクルマの楽しさが決まることなどあり得ない、というのは周知の事実だ。

キャビンの雰囲気も数字では表せないものの代表格である。こちらに関しては、質感や用いられる素材、またデザインにおいて£7,000(104万円)高価なRCZ Rに軍配が上がる。しかしドライビング・ポジションはGT86の方が低く、リラックスできると筆者は感じた。

後部座席のもつ容量もお互いに十分とは言いがたいけれど、RCZ Rの場合ダブルバブル・ルーフの美しさが内部の実用性を損なうが故にGT86の方が優れた結果になる。

また後部に座った際の膝周りのスペースはどちらも非常に小さいが、短い距離を乗る分には我慢できる。その中でもGT86の方が僅かながらではあるが余裕がある。

文末の結論を最後まで楽しみにしていた読者もいるかもしれないが今回の記事では早めに結論を記そう。結論、GT86の方が運転していて楽しい。というのも、以前このクルマは本誌のロード・テストでも5つ星を獲得しているし、そもそも乗り心地とハンドリング特化しているクルマなのだから結果としては当然とも言えるだろう。

また、この点においてはプジョーだって誇張なしに良いと言える。現代のプジョーのラインナップの中で、最高だと言っても過言ではない。19インチのアロイ・ホイールを履いているにも関わらず乗り心地はしなやかで、かつての106 GTiを含むライオンのエンブレムを鼻先に背負ったプジョーよりもステアリングに正確性がある。

路面の凹凸を鮮やかに抑えこみ、LSDが精巧な仕事をしていることも肌で感じることができる。

サーキットや滑りやすいコースではパワーとトルク、またそれらによって頻発するアンダーステアに呆然とするが、ドライ路面ではうまくやり過ごすことができる。ただしこのクルマの場合、ガス・ペダルの繊細な操作でうまく軌道修正できるからそこまで恐れをなすことはない。

コーナーに向けてアクセルを離しブレーキングを行えば、RCZ Rは信じられないほどテール・ハッピーになる。しかも手に負えない時もあるくらいだ。ただしストレートでは、このパワーとトルクが大いに力を発揮するため、ドライバーはアクセルを必要以上に踏み込みたくなるに違いない。

どちらかと言うとGT86は、精巧に作られた工具に近い印象を与える。我々をそう感じさせるのはRCZ Rよりも軽く、短く、幅も狭いからである。またGT86自身の重量配分が優れている事に加えて、ステアリングが非常になめらかで正確であるからでもある。

RCZ Rはある意味路上では自らの立場を窮地に追いやる一方で、GT86はさらりと一歩先をゆく。ひとたび操舵を行えば、仮にわざと大きくステアリングを振ったとしても、86のそれは思慮深く車輪にフィードバックを与えるのだ。

GT86は、オーバーステアが顔を出しやすいとよく言われる。むしろこれはGT86の誉とも言っていいのだが、そんな名声に対して86は裏切り行為をすることは一切ない。ブレーキを踏み込んで、パワーを与える前に荷重をしっかりとフロントに移してあげたならば、このクルマが世界で最も甘美なハンドリングを持っているということを確信させてくれるだろう。

もっとパワーがあるGT86があればいいのに。そうささやく世間の声は、もはや無視できないレベルになっている。仮に今まで以上にパワーを得ることになると考えると、確かに魅力的ではある。しかしよく考えて欲しい。モア・パワーと、モア・ウェイト、つまりパワーを与えることと重量を増やすことは常に隣り合わせなのである。仮に車重が増加するならば、もっと太いタイヤを履かせねばなるまいし、そうなればこのクルマの持ち味である純潔さは失われる事になるだろう。

従順さ、正確性。GT86の持つこの2つの性質はプジョーだけでなく、手に届く範囲の他のどのクーペよりも上をいく。はっきりと書くが、GT86はRCZ Rよりも優れる。もちろんRCZ Rも洗練されたクルマであるのは間違いないが、この比較試乗を通して学んだのは、周囲のライバルを差し置いてGT86がいかに素晴らしいクルマであるかということである。

(マット・プライヤー)

トヨタGT86

価格 24,995ポンド(304万円)
最高速度 225km/h
0-100km/h加速 7.6秒
燃費 12.8km/l
Co2排出量 160g/km
乾燥重量 1220kg
エンジン 水平対向4気筒1998cc
最高出力 200ps/7000rpm
最大トルク 20.9kg-m/6600rpm
ギアボックス 6速マニュアル

プジョーRCZ-R

価格 £31,995(540万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 6.1秒
燃費 15.9km/ℓ
CO2排出量 145g/km
乾燥重量 1355kg
エンジン 直列4気筒1598ccターボ
最高出力 267ps/6000rpm
最大トルク 33.6kg-m/1900-5500rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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