[アバルト70年の歩み]特別コンテンツ

ホンダS660

2015.03.31

ホンダにとって “エス” の車名は特別な意味を持つ。市販を前提とした新型スポーツカーとして、S360とS500の2台が “全日本自動車ショー” に展示されたのは1962年のこと。結果としてS360の発売は叶わなかったが、S500は1963年10月に発売が開始された。そして翌1964年にはS600へと進化し、1966年にはS800が登場する。

これらS500/600/800は、二輪メーカーであったホンダがT360という軽トラックで四輪車事業に進出した後に手がけた最初のスポーツカーであり、またそのスポーツカーとしての資質が日本国内だけでなく世界中で高い評価を受けたことで、特別な車名として定着することとなった。

その後、ふたたびエスの名を関したモデルが登場したのは1999年のこと。ホンダ創立50周年記念モデルとして開発された、S2000がそれである。開閉式ソフトトップを持つ2シーターのFRオープンスポーツという基本設計はS500/600/800から受け継ぎつつ、初期モデルでは9000rpmを許容する2ℓ直列4気筒エンジンを搭載。自然吸気ユニットとしてはレーシング・エンジンなみの最高出力は250psを誇った。S2000はその後も幾度かのマイナーチェンジを経て、2009年に生産を終了した。

S2000の生産終了から約6年、三たびホンダが “エス” の車名を関したモデルを発売する。原点回帰ともいうべき、軽自動車のパワープラントを用いた小排気量のスポーツカー。それが “S660″ である。ちなみにS660の呼称は、これまでS500/600/800やS2000が数字の読み方をそのまま車名にしてきたものとは異なり、”エスロクロクマル” となる。

車名に “エス” を冠しているとはいえ、S660の基本構成は’91年に発売された軽スポーツのビートに近い。既存車種のパワーユニットを用いてミドシップ・レイアウトのスポーツモデルを設計するというコンセプトは、まさしく同じ。それでいてFRレイアウトやトランスミッション、4輪独立懸架式サスペンションなど専用設計の塊だった “エス” の車名をあえて与えたのは、ホンダ・スポーツの魂を受け継ぐにふさわしいという自信の表れなのだろうか。

ホンダがこれまでに発売してきたスポーツカーの歴史を受け継ぐような存在といっていいS660だが、開発スタッフのリーダーであるラージ・プロジェクト・リーダー(LPL)を26歳という異例の若いスタッフが務めたことでも話題になっている。伝統と革新、まさにホンダらしさの具現化といってもいい1台。それがS660なのである。

エクステリア

S660のスタイリングにおける原点は、2011年の東京モーターショーに出展された “EV-STER” に辿り着く。EV-STERは次世代の電動スモール・スポーツ・コンセプトと発表されたが、当時から次期型ビートのデザイン・スタディとウワサされた。

ドライバー背後にエンジンをマウントするミドシップ・レイアウトを採用したことにより、キャビンがボディの中央にあるサイド・ビューを実現。ボディ・サイドには鋭いキャラクター・ラインが与えられ、躍動感や引き締まったボディ・スタイルを演出。またフロント・フェンダーにはエア・アウトレット、そしてリア・フェンダーにはインテーク・ダクトが設けられ、スポーティな印象を与えている。ボディ・サイズは全長3395×全幅1475×全高1180mm。ホイールベースは2285mmと、車格を考えると長めに設定。安定感のあるハンドリングに寄与している。

ボディ形状は脱着式ソフトトップを備えるオープン・モデルだが、オープン時にもドライバー背後のBピラーが残るタルガ・トップである。ソフトトップは車内のロックを外し、左右から車体中央に向かって転がすように巻いていくことで脱着することが可能。そのため “ロールトップ” と名付けられた。

このロールトップは、フロント・ボンネット下に設けられたユーティリティ・ボックス内に収容することができる。ひとりでもトップの脱着および収納がスムーズに行えるよう各部の設計がなされており、そのためフロント・ボンネットはあえてガス・ダンパーによる開閉とされた。このおかげで外したトップを片手で持っていても、スムーズにボンネットを開けユーティリティ・ボックス内にトップを納めることができる。

後方のエンジン・フードは、運転席/助手席にそのまま繋がるようなコブ状のデザインとされ、オープン時は車体後方側に設けられたヒンジを支点に大きく開く。実質上の先代モデルにあたるビートでは、エンジン・ルームにアプローチすることは難しかったが、S660ではすぐに手が届く設計となっている。エンジンのバルブ・カバーにはHONDAの文字が配され、エンジン・フードに設けられたルーバーの隙間から覗き見ることもできる。

そのほか実車を目の前にして印象的なのは、1180mmという全高の低さとともに踏ん張り感のある個性的なワイド・フォルムだ。S660を車体前後の正面から眺めると、ウェストラインから上方のアッパー・ボディを絞り込み、ワイド感を演出していることが見て取れる。前後のライト類は両サイドと中央部分を繋いだタイプで、前後ともに同じデザイン・コンセプトを持つ。マフラーは逆台形の出口を持つセンター出し仕様とされた。