メルセデス・ベンツS63 AMGクーペ

公開 : 2014.06.28 23:40  更新 : 2017.05.23 16:54

■どんなクルマ?

メルセデス・ベンツS63 AMG クーペはCLクラスを先祖にもつ、Sクラス・クーペの最速版である。

CL63 AMGの後継車種にあたるこのクルマは、ここ英国では9月から£124,000(1,836万円)のプライス・タグを掲げて発売される予定となっており、メルセデスはアストン・マーティン・ヴァンキッシュベントレー・コンチネンタルGT、フェラーリ FFを直接的なライバルとして直接指名している。

このクルマを突き動かす動力源はかつてのCL63 AMGに使用されていたものと同様の、ツインターボ5.5ℓV8ガソリン直噴エンジンで、先代は異なるチューンが施された2種類のエンジンが用意されていたが、このモデルからはセールス戦略を理由に1種類のみに絞られた。

最大出力は584psとなり、先ほど記したCL63 AMGのスタンダード版より32ps、またパフォーマンス・パッケージ版より5psの向上を果たしている。またツイン・ターボ4.7ℓV8ガソリン直噴エンジンを採用するS500クーペと比較して130psの増強がなされていることになる。

乾燥重量2070kgのS63 AMGのパワー・ウエイト・レシオは282ps/トンに達し、2069kgのCL63 AMGのそれよりも1トンあたりで14ps増しとなる。

以前同様に低回転域でのパフォーマンス向上を目的としたトルク・アップにも抜かりはない。その結果、最大トルクは91.7kgmを叩き出し、この値は先述のパフォーマンス・パッケージ版とほとんど変わりがない。しかもそのトルクを2250rpmから3750rpmの間で発生するのである。

これらの並外れたパワーはAMG7速スピードシフト・ギアボックスを介して後輪に伝えられる。この湿式クラッチ・ユニットはメルセデスが標準採用する7速ATを改良したもので、新たなソフトウェアはシフト・アップ時に要するタイムの短縮とさらに直感的なダウン・シフトが可能になることを見据えて開発されたのだ。

いくつかの国では4マチックと呼ばれる四輪駆動版も輸入する予定であるが、英国では4ドアのS63 AMG同様に後輪駆動のみを輸入することに固執しているようだ。

後輪駆動モデルにはフロントにエア・スプリング、リアに油圧シリンダー・ダンパーを組み合わせるマジック・ボディ・コントロールが組み合わされている。

マジック・ボディ・コントロールはフロント・ガラスに備え付けられたステレオ・カメラと地形図を利用して路面状況を常に見極めながらシャシー制御を行うのだ。

■どんな感じ?

Cモードにスイッチをセットして走ってみることにする。この場合のCモードとは実際的には一般のコンフォート・モードを意味するのだけれどAMGの場合は’燃費優先モード’という位置づけになっている。このモードにおいては全世界を代表するラグジュアリー・カーという身分に相応しい極楽な乗り心地と、細部にわたる洗練をみることができる。

ダイアルを回してSモードを選ぶ。即座に全体的な印象が引き締まり、具体的にはスロットル・レスポンスが明確に増し、ステアリングの反応もより鋭くなり、ボディのコントロールを行いやすくなるのだが、全てが硬くなったからと言ってサスペンションが路面の隆起を露骨に拾いだしたと感じることは皆無である。加えてガス・ペダルを深く踏み込んだ時も、またそうでない時にも奏でられる愛おしいV8サウンドが耳に届いてくるようになる。

AMGのエンブレムを冠しているだけに、一連の出来事はエンジンによって支配される。並外れたトルクのおかげで、軽くスロットルを開けるだけで、涼しげに、あるいは宙を舞うようにふわりと市街地を往来することができるだけでなく、燃費やCO2排出量もスタンダードなSクラスよりもほんの僅かに劣る程度に留まっている。

典型的な英国の高速道路に連れ出せば、161km/h程度の速度でも淡々と7速2100rpmをキープしながら、スムーズにそしてストレスなくビートを刻み続ける。

乗り手の心を満たすのは、なにも機械的な洗練だけではない。他にはウインドウ・ノイズもまた最上級のレベルまで抑えこまれており、このクルマの類を見ない静かで落ち着いたイメージ像を作り上げるのに一役買っているのである。最新のSクラス史上、最も静かなモデルだと言われても素直に受け入れるほかないと思う。それくらいS63 AMGの騒音対策は卓越しているのだ。

低いギアをキープしてアクセルを奥まで踏み込めば話は別である。とてもパワーがある、という表現では物足りず、耳で聴いても破壊的な加速を見せつけてくれるのだ。最高速度は通常で250km/h、さらにオプションにて全世界で用意される予定のドライバーズ・パッケージを選べばその速度は300km/hにまで引き上げられる。

また2トンを超える車両にありがちな堂々たる体躯を引きずっている感覚はなく非常に身軽な身のこなしを披露する。静止状態からの立ち上がりも車重を感じさせず、ブレーキに負担のかかる九十九折でも高い安定性を維持し、実際の数値よりも軽く小さいクルマに感じた。

後輪駆動のモデルを計測した結果、0-100km/hに要するタイムは4.2秒。つまり今まで普遍的なベンチマークだとされていたパフォーマンス・パッケージが奢られた先代のCL63 AMGよりも0.2秒早く、標準のS550クーペよりも0.4秒早いのだ。加えて四輪駆動のS63の場合、優れたトラクション・コントロールの恩恵を授かって3.9秒にまで短縮される。ただし4ドア版と同様に右ハンドルのモデルの場合はフロントのドライブ・シャフトが完全にセンターに位置していないことは覚えておかなければならない。

ワインディングを数百メートル走ったところで、CL63 AMGに比べて動力性能が大きく向上したことを感じることができる。フロント・ウインドウに備えられたステレオ・カメラと電子スタビリティ・コントロールを組み合わせた、ハイテク技術が余すことなく取り入れられたおかげで大きなマスを巧妙に隠しこみ、敏捷性とボディ下部の安定感が著しく増加しているのだ。

ロール、ピッチ、サスペンションの伸び縮みの全てにおいて、どんな路面でもこちらが身震いしてしまうほどの落ち着きがある。多岐にわたる運転アシストもまた格別であり、Sモード時は基本的には控えめになり本当に必要とした時のみしか介入してこなくなるのだ。

トレッドが増し、フロント・サスペンションの構造が見直されただけでなく、グリップも増大しスピードに比例する限界点も高くなったためにステアリングの正確性も増しているため、これらのすべてが結果的に先代よりも運転することを楽しくしているのだ。また高張力スチールやアルミニウムを用いる量を多くしたために、ボディ構造の内在的な硬さが増し、その結果、動力上のどの領域でも破綻する気配を見せない仕上がりとなっている。

快適性のための飽くなき探究の結果、最新のAMGモデルにはコーナリング時のボディ制御を司る機能も追加された。マジック・ボディ・コントロールが代表される例で、コーナリング時にインに詰め寄ったとしても、ボディの傾きを制御してくれるおかげでドライバー側に安心感を与えてくれるといった役割も果たしてくれる。そして言うまでもなく高速コーナーでの安定感も高いのである。

インテリアは、スクリーンに表示される細部まで表現されたグラフィックや、スイッチ類などたくさんの要素がS63 AMGサルーンと共有されているため、さほど長い距離を運転せずとも細やかな質感の高さを感じることができるはずだ。

ただし、クーペのために仕立て直されたダッシュボードのデザインや、ドアを閉じるたびにさり気なく差し出されるシートベルト・アームなどを見ると、適切な高級感があらたに加えられていることもわかる。さらに、オプションのヘッド・アップ・ディスプレイやマジック・スカイ・コントロールと呼ばれる、自動的にサンルーフの色の濃淡を変える機能などクーペだけにしかないファンクションも追加されている。

横方向に広さがあるシートはクッション性にも妥協がなく、サイドのサポートと自由度の高い調整幅は、ショーファー・ドリブンのクルマとはまた違った種類の最高レベルの快適性を与える。しかし横幅に余裕のなかった先代に比べて収容能力は大きく躍進しているものの、後部座席に乗った大部分の大人はその狭さに呻き声をあげ、閉所恐怖症になることは間違いない。

またデザインの名目上、トランクの容量も490ℓから400ℓにまで縮小されていることも忘れてはならない。

■「買い」か?

英国内での予定される価格は£124,000(1,836万円)となり、S500より£30,000(444万円)高価になったことになる。しかしながら、一度このクルマに乗ると、その価格が妥当だと思えるようになるはずだ。

このクルマの最も魅力的に感じられるのは、その美しいデザインではなく、2つの対極的なドライビング体験を、両方とも高いレベルで与えてくれるところにある。いかなる環境下でも、研ぎ澄まされたパフォーマンスを発揮し、また運転すること自体を心から愉しめるという点においては今現在最高のクーペだと言えよう。さらにそこに、クラスをけん引する乗り心地と、全方向における洗練、組み付けレベルの高さが加わっているのだ。

CL63 AMGの時代から格段の進化を遂げたのは紛れもない事実であるうえ、ヴァンキッシュやコンチネンタルGT、あるいはフェラーリ・FFの立場を大きく揺さぶるに違いない。

(グレッグ・ケーブル)

メルセデス・ベンツS63 AMGクーペ

価格 £124,000(2,140万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.2秒
燃費 9.9km/ℓ
CO2排出量 237g/km
乾燥重量 2070kg
エンジン V型8気筒5461ccターボ
最高出力 584ps/5500rpm
最大トルク 91.7kg-m/2250rpm
ギアボックス 7速オートマティック

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