フォルクスワーゲンe-Up!

公開 : 2013.12.12 21:30  更新 : 2017.05.29 18:58

■どんなクルマ?

フォルクスワーゲンが市場に投入する初めての最新型EVがやってきた。英国ではすでに販売が開始され、デリバリーは2014年1月からだという。芽生えたばかりのEV市場へこのクルマがやって来るのは興味深いことだ。なぜなら、どうにも面白みに欠けていそうなもので。

詰まるところ、これは今までのUp!とまったく同じに見える。フォルクスワーゲンのコンパクト・カーがまた一台増えただけなのだ。Tezzleと名付けられたホイールや、ほんのちょっと変化があったエクステリア、それにモデル名を見落としたら、これが新世代のクルマだなんて絶対気づかないだろう。ルノー・ゾエや、ヴォグゾール・アンペラといったEVと一緒に扱われるチャンスを失ってしまうのだ。

とはいっても、フォルクスワーゲンが自身初となる大量生産型EVの発表をあまり騒ぎ立てないのは、むしろエンジニアリングを第一に考える会社の典型に思えるのだ。

ガソリン・エンジン・モデルとプラットフォームを共用するEVの設計を行うなら、生産ラインは同じものを使えるし、大量生産化のメリットを得ることもできる。一から新しく設計したEVを作るより、財政的なリスクを大いに減少できるから、絶対にそうするべきなのだ。

あえて言うなら、フォルクスワーゲンにはその環境が揃っていた。e-Up!は中途半端なEVにはならなかったのである。ガソリンモデルの75psを発する1.0ℓエンジンに代わって、82ps、21.4kg-mを発する交流モーターが搭載される。燃料タンクの代わりには電力量18.7kWhのリチウムイオン・バッテリーが搭載されている。フォルクスワーゲンが言うには、キャビンのスペースはまったく同じまま、0-100km/h加速のタイムはガソリンモデルより速く、英国で一般的な3ピン・コンセントで9時間充電すれば、約150kmの走行が可能だという。

■どんな感じ?

運転はまったく簡単で、それでいて非常に安心感のあるものだ。航続距離の件を考えなければ、手を抜いているところなどほとんど見当たらない。

一般的にEVの運転というのは、こういうものだと理解できるようになるまでは好奇心をそそる点が多い。エンジン音が無いというのは、これまで気にならなかったヒュー、キキー、ゴツンという様々な物音が2倍は大きく感じるのだ。作動している機器類に100%の信頼がないと、妙に心を乱されるものだ。

正確な裏付けがないと言われるだろうが、まず第一に、e-Up!は気に障る雑音が他のEVより少ないのだ。ヒーターは静かだし、バッテリーは他のEVほど冷却に手間取らないようである。パワートレインがうなったり、コツンと音をたてることもない。そしてこれらの動作は円滑で、ほぼ検出不可能な領域にあるのだ。新し物好きには、たまらない魅力だろう。

走りの大部分は、一連のUp!シリーズと変わりはない。これは、この種のコンパクト・カーとしては優秀なことである。e-Up!になって増えてしまった重量、その増加分を補うための足まわりの(具体的にはリア・アクスルの)剛性強化はすぐに気付くことができる。しかし、シャシーは路面の様々な起伏を柔軟にやり過ごし、ピッチングも大きくない。ルノー・ゾエよりも街乗りや低速度域では快適であるのは確実だ。

特徴的な大径ステアリング・ホイールは、他のコンパクト・カーに比べUp!のハンドリングからダイレクト感を奪っている。路面のグリップ感も165mm幅の低燃費タイヤによってあまり強くは感じられない。それにしてもハンドリングは優れている。いくぶんボディロールが生じるのだが、コーナーを攻め込んでもステアリング操作は正確に反映され、操舵感にも一貫性がある。それに過剰なアンダーステアに悩まされることもない。

パワートレインは、ドライバーの好きな運転感覚に調整できるよう多くのドライビング・モードを備えている。もしも、昔からあるトルクコンバーター式ATのようにEVで惰性走行をしたいなら、トランスミッションを「D」にするだけで可能だ。もう一つの方法として、シフトレバーを右に動かせば、ずっと強力な再生ブレーキ(あたかもエンジン・ブレーキのような)がスロットル・ペダルから足を離すなり作動してくれる。メルセデスのSLS E-セルを除けば、これをやってみたいと思わせるクルマはe-Up!が初めてである。素晴らしい出来と言える。

シフトレバーの前方にはドライブモードのボタンがあり、「ノーマル」と並んで「エコ」や「エコ+」を選ぶことができる。これはモーターの出力を制限し、駆動力以外への供給を減らすことで航続距離を伸ばすものである。「エコ+」の最高出力は55psに制限されている。わたしはテスト中にこのボタンを押していたのだが、試乗ルートの半分ほどは、出力制限があるなんて想像すらせず走っていた。必要なパフォーマンスやトルクは、スロットルペダルを半分も踏み込めば手に入る。高速道路に入りe-Up!の力不足を感じたときになって、ペダルストロークの残り半分を踏み増すくらいだ。

ブレーキのフィーリングは完璧ではないのだが、他のEVやハイブリッドカーに比べれば優れている。航続距離については、コンパクトサイズのEVとしては標準レベルにある。我々のテストでは多様な乗り方を試したが、フル充電で100〜130kmほど走行できそうだ。

■「買い」か?

どこへでも行けて気軽に走り回れる便利さより、街乗りの現実的な手段としてEVを使うつもりなら、買うに値する。e-Upはあらゆる点で、我々がフォルクスワーゲンに望む几帳面な作り込みを味わわせてくれるモデルだ。Up!シリーズの中でも象徴的な位置づけになるだろうし、このクルマ自体も魅力に富んでいる。

手頃な価格でないのは残念だ。政府の補助金5,000ポンド(約80万円)を計算から外すと、£25,000(約400万円)を支払わなければならない。しかし、ルノー・ゾエのようにバッテリーのリース代金を毎月支払うこともない。e-Up!に掛かる合計費用は、かなりの燃費性能を備える高性能なゾエと比較しても帳尻が合うだろう。

ただ、これではルノー・ゾエの使い勝手やサイズの違いに対する答えにはならない。Up!はミニバンではないし、後席は大人には少々狭く、トランクにはベビーカーの類を入れるのは困難だ。このことを考えると、本来ならゾエより安くなければならない。

しかし、サイズがすべてではないのだ。経済性に特化していて、自分の使い道に合っているクルマが欲しいという人にはお勧めだ。そういう人には、大きいだけのクルマを選ぶよりも、e-Up!は多くのメリットを提供してくれるだろう。われわれもその点は納得なのだ。

(マット・ソーンダース)

フォルクスワーゲンe-Up!

価格 £24,250(約408万円)
最高速度 130km/h
0-100km/h加速 12.4秒
燃費 NA
CO2排出量 NA
乾燥重量 1139kg
エンジン モーター
最高出力 81bhp
最大トルク 21.4kg-m
ギアボックス ダイレクト

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