「電池は高価で無駄」 英国人起業家の理念は届く? 小さな燃料電池車にかけた自動車の未来

公開 : 2022.01.24 18:45

英国のリバーシンプル社が開発する燃料電池車「ラーサ」は、自動車業界の未来を見据えた2人乗りのクーペです。

2人乗りの燃料電池車が見せる未来

ヒューゴ・スパワーズ氏は、自動車を再発明するだけでなく、自動車所有のあり方も変えようと考えた。テスラのCEOも、スパワーズ氏の会社リバーシンプル(Riversimple)が自らに課した仕事のスケールの大きさには注目すべきだろう。

2001年に会社を設立して以来、元レーシングチームオーナーであるスパワーズ氏の人生において、最も重要な位置を占めてきたのが、この2人乗りのカーボンファイバー製燃料電池車「ラーサ(Rasa)」である。現在、ウェールズ中部のランドリンドッド・ウェルズを拠点とするこのプロジェクトには、2000万ポンド(約30億円)もの投資資金が投入されたが、生産開始予定日は何度も延期された。

リバーシンプル社の創業者、ヒューゴ・スパワーズ氏。
リバーシンプル社の創業者、ヒューゴ・スパワーズ氏。    リバーシンプル

ラーサの燃料電池パワートレインには、加速を高める「スーパーキャパシタ」バッテリー(電力を素早く放出する)とインホイールモーターが採用されている。これだけでも十分に過激だが、スパワーズ氏はこれを「既製」の技術と呼んで、特にこだわりを見せない。

リバーシンプル社の躍進は「システム」にあると言われている。カミンズ製の10kW(13ps)の小型燃料電池スタックを搭載し、スーパーキャパシタの最大70kW(95ps)を使って加速を高め、静止状態から約10秒で97km/hに到達できるようにした。

カーボンファイバーでできたシャシーの重量はわずか72kgで、車両総重量は580kgになると予想されるため、パワーには余裕がある。それでも、少なくとも現時点では、最高速度は97km/hに制限されている。

わずか1.5kgの水素を搭載した場合の航続距離は480kmと言われているが、ラーサはバッテリーによる長距離走行の不安を解消するためのクルマではない。水素スタンドが設置されている特定の地域に住み、毎週水素を補給できる顧客に向けた「ローカル」なクルマなのだ。

燃料小売店に水素ポンプの設置を促し、英国にほとんど存在しない水素供給インフラを改善することも、スパワーズ氏のとんでもない任務の1つである。

燃料電池車は決して「高くない」

ラーサを購入する際、顧客は月々354ポンド(約5万4500円)と1マイル38ペンス(1.6km/約58円)で契約を結ぶ。料金には保険、メンテナンス、燃料、タイヤなど、すべての費用が含まれている。

「PCP(個人契約購入)の金額と比較するのではなく、すべての請求額を合計してから、高いとは思わないでください」とスパワーズ氏。また、ゼロ・エミッション車は、バッテリーであれ燃料電池であれ、高価である。「内燃機関車の原価は、本当に信じられないほど低いのです」

リバーシンプル・ラーサ
リバーシンプル・ラーサ    リバーシンプル

スパワーズ氏によると、現時点での生産開始時期は、ウェールズにある2つの候補地のうちの1つに建設予定の新工場で2024年を見込んでおり、前回2019年に話を聞いたときの予測(今年)から後ろ倒しになっている。気概に欠ける起業家なら今頃タオルを投げているかもしれないが、スパワーズ氏は違う。

「当社の足かせになっているのは、常に資金です。時代のずっと先を見据えて仕事をしているので、閉ざされたドアに阻まれてきました。しかし、今は、ゼロ・カーボン輸送への関心が高まっています。そのドアは今、開かれつつあるのです」

「昨年はリバーシンプルの資金調達において素晴らしい年になりました」

同社は昨年、エンジェルズ・インベスト・ウェールズとウェールズ開発銀行などシンジケートを含む投資家と150万ポンド(約2億3000万円)の資金調達を成立させたのだ。

また、ウェールズ政府は2015年に200万ポンド(約3億円)を助成するなど、以前からこのプロジェクトを支援している。政府がお金を出して手に入れるのは、220人の雇用と、年間5000台を製造する自動車工場だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。愛知県在住。幼い頃から自動車/戦車/飛行機/宇宙船など乗り物全般が大好物。いつかすべての乗り物を手に入れることを夢見ている。最近はバイクの魅力に気づき、原付と中型を衝動買いしてしまった。大学卒業後、不動産営業と記事制作ディレクターを経て2020年に独立し、フリーランスとして活動開始。現在に至る。

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