クルマの安全性を高める「衝突ロボット」 ハンドル、アクセル、ギア操作も行う縁の下の力持ち

公開 : 2022.06.07 06:05

1997年に採用されて以来、自動車安全性の向上に貢献してきたロボット。人間には真似できない衝突テストを紹介します。

人間より優秀?なテストロボット

自動車の開発において、安全性のテストは重要な部分を占めている。欧州で実施されているユーロNCAPのような評価プログラムでは、すべての新車が安全基準を満たしていることを確認するために衝突テストを発展させてきた。

衝突テストは一般的に、同クラスのモデルを比較するために同一の条件下で実施されるが、実環境でのテストが重要となる場合もある。NCAPテストとの違いは、レールの上ではなく実際にクルマを走らせる必要があることだが、人間のドライバーを使うのは論外だ。

自動車安全テストで使用される運転ロボット
自動車安全テストで使用される運転ロボット

そこで、人間の代わりにハンドルを握るのが、試験装置メーカーのABダイナミクス社が「プルービング・グラウンド・オートメーション」と呼ぶ、さまざまな運転ロボットである。ロボットと言っても、わたし達が想像するような人型ロボットではない。

ステアリング、スロットル、ブレーキ、マニュアル・ギアチェンジなど、個々の機能を果たすように設計された機械なのだ。「衝突シナリオ」と呼ばれる走行テストに加え、ロボットは再現性のある結果を出すことが得意で、まったく同じ方法で5回、10回と続けて仕事をすることもある。

ABダイナミクスによると、人間のドライバーが1日かけてブレーキテストを行っても、27回の走行で許容できる結果は3回しか得られなかったという。一方、ロボットのブレーキシステムは、数分で完璧な仕事をこなすことができるのだ。人間のドライバーには似ても似つかないが、乗用車からトラック、バスまで、ほぼすべての車両に搭載できるように設計されている。

安全テストの中には、実際にロボットの使用を指定しているものもある。米国では、SUVなど背の高いクルマのボディロールを調べるために「フィッシュフック試験」が義務付けられている。これは、かなり激しいステアリング入力を繰り返すものだが、入力は一定の間隔をおいて行わなければならない。ステアリングロボットは、毎回まったく同じようにこのテストを繰り返すことができる。

レーシングカーでもロボットが活躍

人間のドライバーを事故の危険にさらさないだけでなく、健康上の利点もある。テストドライバーがフィッシュフックなどの横転テストやブレーキテストを行うと、腰や股関節などさまざまな関節に不調をきたすことがある。特に厄介なのは「誤使用テスト」で、傾斜路を越えてジャンプしたり、木の梁や砂州に突っ込んだりと、人間には過酷な状況下で行うものだ。

このほか、ドライバーの有無にかかわらず使用できるCBAR(ブレーキ・アクセル併用型ロボット)や、2つのサーボアクチュエータでギアレバーを水平2軸に動かすギアシフトロボットなど、面白い機械が揃っている。

NASCAR車両の実走行の無人衝突テスト
NASCAR車両の実走行の無人衝突テスト

また、クラッチ操作ロボットもあり、CBARと組み合わせると完全な無人運転とすることができる。どのロボットも、人間が運転するのと同じ操作系(アクセル、ブレーキ、クラッチ、ギア、ステアリング)を使って効率的に車両を制御しており、実環境に近い結果が得られることに疑いの余地はない。

ABダイナミクスは、先日NASCARと提携し、タラデガ・スーパースピードウェイ(アラバマ州のオーバルトラック)で2022年カップシリーズの次世代レースカーの無人衝突テストを実施した。

このテストは、時速130マイル(209km/h)で走行し、正確に24度の角度でSAFERバリアにぶつかるというものだ。ステアリング、ペダル、ギアシフトの各ロボットは、人間のドライバーに恥をかかせることなく、時速130.015マイル(209.238km/h)という正確な速度でバリアに衝突した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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