プジョーRCZ-R

公開 : 2014.01.27 17:00  更新 : 2017.05.29 19:01

■どんなクルマ?

プジョーの市販モデル史上、最もパワフルで最も速いモデルがこのプジョーRCZ-Rである。だが、英国のショールームに並ぶタイミングはあまり良くなかった。信頼性に優れるフォルクスワーゲン・ゴルフとマーケットを争うべく、新型プジョー308の販売が開始されたばかりなのである。そのクルマによって、フレンチ・メーカーに対する世の中の評判はますます上がっていくだろう。

一方、エンスージアストである皆さんとわたしの心を掴んだのは、昨年ではプジョー208GTIという素晴らしいホット・ハッチバックだけであった。皆さんの中には、プジョーがパイクスピークのコース・レコードを突破した光景を鮮明に覚えている人もいるだろう。この会社はなんの前触れもなく、すべてを可能にする力を手に入れたように思える。

この新型車RCZ-Rの生産を担当するのは、セバスチャン・ローブが記録更新を達成したあのヒルクライマーを組み上げた人々である。すなわちプジョーのモータースポーツ部門、プジョー・スポールである。彼らは徹底的なチューンアップを施したという。このクルマには拡大されたトレッド、19インチのホイール、380mmの大径フロント・ブレーキ・ディスク、ピックアップ・ポイントとジオメトリーを新しく構築したサスペンション、そしてフロントにはトルセンLSDが備えられている。

プジョーが過去10年余りに送り出してきたスポーツ志向モデルとは違い、全てにおいて完璧を目指したモデルなのである。

■どんな感じ?

英国のカントリーロードをゆっくり走らせると、このクルマはこうした乗り方に適した印象の薄いモデルに感じる。

乗り味は固くて引き締まっているが、荒々しいものではない。おそらく19インチ・ホイール仕様のRCZ標準モデルよりも静かである。ダンパーの設定は素晴らしく、乗り味が不快にならない程度に十分な柔軟性が与えられている。トルク・センシングLSDによる効果は、その存在にほとんど気づかないほどのものである。また、このクラスのベンチマークと言えるフォーカスRS Mk1を思い起こさせるようなステアリングのキックバックやキャンバー変化時の接地性は、このクルマには見られなかった。

しかし、ステアリングからのフォードバックは十分で、このクルマの持ち味であると言えよう。これは、太くなりグリップを増したタイヤと、より固くなったスプリングとブッシュによるところが多い。いずれの効果であるにせよ、ステアリングは素晴らしい作り込みがなされており、指先の操作ひとつでいとも簡単にドライビングの醍醐味を味わえるものなのだ。こんなクルマに出会えるなんて嬉しいことじゃないか。

RCZ-Rのエンジンは、5000rpmを過ぎても回転の伸びが衰えない。最大トルク40kg-m級の最新式2.0ℓターボ・エンジンですら、低中回転域の力強さはこれほどではない。このエンジンは思い切って回転を上げれば、相当なスピードで前へ前へとクルマを進めるのだ。それでもBMW M135iに肉迫するほどの速さはないので、RCZ-Rの購入希望者はパンチの効いたオプションが手に入れられることを覚えておこう。

こうした速さが、スリリングな走りや多大な安定感と調和する例はほとんど存在しない。このクルマについて見ていくと、シャシーはロールを伴わないもので、ターンインでのグリップは非常に優れている。コーナーの中ほどまで差し掛かると、他のグレードのRCZと同様、このフロントタイヤの能力ならコーナリング・スピードの限界を記録できそうだと感じるのだ。あとわずかにバランスが優れていてくれればと思ったり、オーバーランに対してデフがもっと介入すればノーズをスムーズに内側に向けられるのに、と言いたくなる人もいるだろう。

しかし、コーナー半ばからストレートへ向かうとき、このクルマはその真価を発揮する。デフの働きは非常にスムーズだし、始めに想像していたより多くの駆動力を素早く路面に伝えているのだ。路面の状況は滞りなくステアリングに伝わり、なにが起きているか十分判断できるものだ。さらに滑りやすいコンディションにおいてさえ、一貫した横方向のグリップが得られるのも魅力である。

■「買い」か?

もしも手に入れたいという気持ちが半分でもあるなら、その気持ちに従うべきだ。パリは本当に納得させられるものを作り出した。ハレルヤと賛美の叫びを上げたくなるひと時をこのクルマは与えてくれるのだ。ルノー・スポール・メガーヌ・カップはもう少し軽快なハンドリングを味わえるし、フォルクスワーゲン・シロッコRならより洗練されていて使い勝手も優れている。

しかし、このプジョーには、気の合う相棒という存在に留まらない魅力がある。ガレージのフォルクスワーゲンを売り払い、はるかに素晴らしい走りのRCZ-Rを手に入れてたとして、このクルマならターマック・ラリー・チャンピオンの世話になる必要はないのである。ドライバーズ・シートに収まるのは、あなた自身で十分なのだ。

(マット・ソーンダース)

プジョーRCZ-R

価格 £31,995(540万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 6.1秒
燃費 15.9km/ℓ
CO2排出量 145g/km
乾燥重量 1355kg
エンジン 直列4気筒1598ccターボ
最高出力 267ps/6000rpm
最大トルク 33.6kg-m/1900-5500rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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