スバルWRX

公開 : 2014.03.26 22:50  更新 : 2017.05.29 18:42

■どんなクルマ?

スバルWRXの最新型は、インプレッサの名に別れを告げた。

この新型はまるで、何年もの間ノーマルのWRXを誤った方向に導いてしまったスバルが、本来やるべきことは分かっていると言っているようなのだ。新型WRXはねじれ剛性を41%向上させ、スプリング・レートはフロントで39%、リヤで62%高められている。これらはもちろん鋭いハンドリングを実現するためのものだ。

こうした改良は、新型WRXがサルーンだけの設定だから実現したことである。実用性やスタイリングの観点から考えるとこれは期待に反することだが、何よりもボディ剛性を高めるには正しい選択なのだ。

WRXに搭載されるのはターボチャージャーを採用した2.0ℓ水平対向エンジン、FA20の最新バージョンである。英国ではフォレスター2.0i XTにも搭載されるものだが、WRXではカムシャフトとバルブ・スプリングを異なるものに変更している。これはBRZ(つまりトヨタGT86)に搭載された自然吸気エンジンの発展型で、直噴化により圧縮比が10.6:1となり、デュアル・アクティブ・バルブコントロールシステム(D-AVCS)も備わっている。

最大過給圧はフォレスターの17.1psiに比べてやや小さい15.9psiであるにもかかわらず、最大トルクの35.7km-gは2000rpmから5200rpmの全域で発生する。米国における複合燃費で換算すると、WRX STIに搭載される従来型から引き継いだ2.5ℓエンジンに比べ燃料消費率が25%も改善している。また、新開発のCVTオートマティック・トランスミッションが用意され、パドルでの操作が可能になっている。

6段マニュアル・ギヤボックスと従来型のハンドブレーキはこのクルマのルーツがラリーカーであることを証明している。同様に、スタビリティ・コントロールは素早くシンプルに完全解除することができる。こうしたこだわりがWRXにおいては大きな意味をなすのである。

■どんな感じ?

ドライバーズシートにおさまれば、WRXが不要な装飾を排除しようとしていることに気づき、多くの人がホッと胸を撫で下ろすはずだ。イグニッションにオーソドックスなキーを差し込み手首をひねると水平対向エンジンが独特のサウンドを響かせ目を覚ます。こんな喜びはもう忘れて久しいものだ。それにドライブモードの採用が見送られたことさえ喜びを感じる。オーナーはWRXに乗り込んだら後はスロットルを踏み込むだけなのだ。

強固なボディ・シェルに収まる新型の2.0ℓエンジンは溢れるほどのパワーを生み出すし、ターボラグも最小限に抑えている。歴代WRXのエンジン・キャラクターとは異なるものかもしれないが、依然として想像した以上の魅力を味わうことができる。不満なところと言えば、少しスロットルを踏んだだけでも不安を感じるブースト・コントロールと、6000rpmを超えると力強さに欠けるところくらいなのだ。

走り始めると真っ先にボディ剛性の高さを感じ取ることが出来る。ステアリングは緻密で正確だし、電気制御にしては非常に多くのフォーリングが伝わってくる。これにはBRZからのフィードバックが反映されているのは明らかである。

スプリング・レートが固くなったのは分かりやすいが、一方でダンパーもきちんと動作している。見事な走りとまでは言えないが、このクルマの方向性と優れたボディ・コントロールを考慮すれば、セッティングは素晴らしいと言えよう。もちろん、米国でテストした限りの話だが。

ターボチャージャー搭載のボクサー・エンジンと、落ち着いたシャシーの組み合わさせによって、ハンドルを握るとWRXを激しく攻め立てたくなる。走り込むと、ある領域までは素晴らしいが、ギリギリまで攻めきるとニュートラルだったバランスにアンダーステア傾向を加わってくる。

WRXはフロント、リヤ共にオープン・デファレンシャルなので、ESPを解除し荒くれ者のような運転をすると、気持ちのいいスライドをせずに内側のタイヤがホイールスピンしてしまうのは残念だ。

車内に目を向けるとインテリアに改善は見られるが依然としてスバルの悪しき伝統を引き継いでいる。それでも4.3インチのセンターLCDディスプレイの出来はよく、過給圧などの情報を表示する仕組みになっている。とりわけステアリングは優れものだ。われわれはスバルがフラットボトム・タイプでなく、BRZのような適切な丸いステアリングを採用するのを期待している。

布製のシートはホールド性に優れ、座り心地も快適である。日本人がこのセグメントでドイツメーカーと同じ水準に達していないのは、細かい作り込みとプラスチックの扱いだろう。

■「買い」か?

残念なことに英国にノーマルのWRXは導入されない予定だ。だから£28,995(約490万円)のWRX STIを買うか、なにも買えないか、このどちらかしか選択肢はない。不満を口にする人もいるかもしれないが、一概にそうとも言えない。STIの310psのエンジン、油圧パワステ、ハンドメードの6段マニュアル・ギヤボックス、高性能のデファレンシャル・ギヤは大歓迎だ。さらに新型のWRX STIは、先代のSTIより£4000(約65万円)も安いではないか

STIの価格低下は、ノーマルWRXを正規ルート以外で手に入れても金銭的な魅力に欠けることを意味している。理想的には、新型WRX STIのコンプリート・チューン仕様を見てみたいし、WRXの2.0ℓエンジンではるかに燃費に優れた305ps超え仕様を望みたい。それに5ドア・モデルも。

こんな取り留めのない話も、スバルが本来の魅力を取り戻したらきっぱりと議論が終わるだろうに。

(マーク・ノールデロープス)

スバルWRX

価格 £16,432(280万円)
最高速度 234km/h
0-100km/h加速 5.1秒
燃費 12.0km/ℓ
CO2排出量 185g/km
乾燥重量 1482kg
エンジン 水平対向4気筒1998ccターボ
最高出力 272ps/5600rpm
最大トルク 35.7kg-m/2000-5200rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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