新型マセラティ・グラントゥーリズモ 大谷達也が試乗 トロフェオ/フォルゴーレの2種

公開 : 2023.05.06 05:45

新型マセラティ・グラントゥーリズモのうち、ネットゥーノ・エンジンを積んだトロフェオと3モーターEVフォルゴーレに試乗。

新型グラントゥーリズモ

「もともとはセルジオ・マルキオンネの発案でした」

MC20、それにグレカーレと、ここのところマセラティのクルマとしての完成度、そしてクオリティが格段に向上していることを指摘すると、新型グラントゥーリズモの開発でチーフ・ビークル・エンジニアを務めたダヴィデ・ダネーシンはそう語り始めた。

プロダクトとしてのグラントゥーリズモ(イタリア語でグランドツーリングを意味する)は、マセラティの何たるかを端的に示す、ブランドにとっての最重要モデルといっても過言ではないだろう(筆者)
プロダクトとしてのグラントゥーリズモ(イタリア語でグランドツーリングを意味する)は、マセラティの何たるかを端的に示す、ブランドにとっての最重要モデルといっても過言ではないだろう(筆者)    マセラティ

「マルキオンネは、グループ内で唯一のラグジュアリーブランドがマセラティであることに気づきました。そしてマセラティというブランドには高い価値があり、製品開発に大きな投資すれば大成功を収められるであろうことを、彼は見抜いたのです」

この日、わたしは新型グラントゥーリズモに試乗するため、イタリア・モデナのマセラティ本社を1人訪ねていた。

グラントゥーリズモこそは、マセラティの真髄というべきモデルである。1914年の創業当時からモータースポーツへの挑戦に情熱を抱いてきたマセラティは、これまで数々のハイパフォーマンスカーを作り続けてきた。

そんなマセラティとライバルたちが手がけるロードカーとの最大の違いがどこにあるかといえば、それはぜいたくさや快適性をほどよくブレンドしたグランドツーリング性にあるとわたしは捉えている。

それゆえに、プロダクトとしてのグラントゥーリズモ(イタリア語でグランドツーリングを意味する)は、マセラティの何たるかを端的に示す、ブランドにとっての最重要モデルといっても過言ではないだろう。

アルミやマグネシウムを多用した軽量かつ高剛性なボディ構造を新開発したり、MC20と基本的に同じF1由来の「ネットゥーノ」3.0リッターV6エンジン(トロフェオとモデナのみ。なお、潤滑方式はMC20と違ってウエットサンプ)をフロントに搭載しているのは、すべてハイパフォーマンスとグランドツーリング性を両立するのが目的といって間違いない。

さらに、新型グラントゥーリズモはエンジン車と電気自動車(EV)の2タイプを用意。フォルゴーレと呼ばれるEVはフロント2基、リア1基の3モーター方式で、フロントの左右輪を個別に駆動することでトルクベクタリングを実現しているのも特徴の1つだ。

まずはトロフェオに試乗

2台が用意されたグラントゥーリズモのうち、まずはネットゥーノ・エンジンを積んだトロフェオに試乗する。

その最高出力は550ps、最大トルクは650Nm=66.3kg-m(モデナは490psと600Nm=61.2kg-m)で、トルコン式8段と油圧多板クラッチ式トルク配分機構により4輪を駆動する。なお、新型グラントゥーリズモはエンジン車、EVともに全モデルが4WDとなる点もニュースの1つだ。

グラントゥーリズモ・トロフェオ
グラントゥーリズモ・トロフェオ    マセラティ

乗り心地はちょっと硬めだが、ボディ剛性が高くて振動吸収性にも優れているため、不快な印象は持たない。

いっぽう、ハンドリングは極めて正確で、直進性も良好。イタリアでよくありがちな狭い地方道で対向車とすれ違う際にも、右側の路肩いっぱいまで安心して寄せられるので、全幅1957mmのボディを持て余すことはない。

しかも、ハンドリングのレスポンスは過敏過ぎず、リラックスしてステアリングを握っていられる点が嬉しい。この辺がいかにもマセラティらしいキャラクターで、ハイウェイではロングクルージングも楽々こなすスタビリティを、そしてワインディングロードでは痛快なハンドリングを示してくれるのである。

最新のF1パワーユニットに通ずる副燃焼室方式(マセラティ・ツインコンバスチョン・テクノロジーと呼ばれる)を用いたV6エンジンは、MC20同様、レスポンスが際立って良好なだけでなく、低回転域でのトルク特性やパワーのリニアリティといった面でも優れているので、550psの大パワーでも極めて扱いやすい点が特徴。

それとともに魅力的なのが、90° V6特有の個性的なビートが常に感じられて、ドライバーに心地よい刺激を与え続けてくれることにある。

この、ほどよい緊張感とリラックスしたドライビングの両面を楽しめるキャラクターは、先ほど説明したハンドリングとまったく同じ。いわば、この二面性こそがグラントゥーリズモの本質といってもいいものなのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。

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