クルマ漬けの毎日から

2015.05.29

寝覚めのお告げ

Awoke from slumber knowing I had to own that Elise

 
フェラーリに乗ってイングランド中部の町、ソリハルへ向かった。1948年以来ランドローバーの本拠地として有名なソリハルのロードレーン工場に、ジャガー・ブランドが公式に迎えられる。今後、ジャガー XEFペースのアルミボディはソリハルに新設された巨大なボディプラントで作られ、その後、同じく最新の最終組立工場でレンジローバー・スポーツと合流することになる。

数人のスピーチが終わった後で、工場の操業が一時中断された。そして9000人の全従業員が工場の道路に沿って並び、50台余り集まったさまざまな時代のジャガーの行進を見物した。先頭はジャガーSS100であったが、光栄なことに私はこのクルマの助手席に座っていた。ジャガー・ランドローバーのCEOのラルフ・スペッツがタタグループ(JLRのオーナー)の役員に会うためにこの式典を欠席しなければならないのは残念だったが、素晴らしいひと時だった。スペッツはいつも彼自身の業績に対する賛辞には謙遜しているが、この光景を見たら、きっと誇りに思ったにちがいない。

 

 
他の取材で忙しい長期テストカーのフェラーリFFに今日は乗らず、代わりにフォルクスワーゲン・クラブUp!に試乗した。私やオートカーの読者皆様とは異なり、それほどクルマにこだわらない人も世の中にはいる。そういう人たちが選ぶモデルというのは、大して期待できないだろうとお思いかもしれないが、そうではなかった。Up!は少し古くなってきているかもしれないが、いまも並外れた存在であり続けており、小型車の長所(敏捷性、扱いやすさ、視認性の素晴らしさ、燃費の優秀さ、混雑した市街地での走りやすさ)を見事に実現しているクルマだ。それに、洗練性と快適さという点でも、もっと大型のクルマと比較してほぼ引けを取らない。例えば、スーパーカーはもちろん素晴らしいものだし、スーパーカーを造る時にはあり余るほどの予算が割り当てられる。だが、本当に何か確信がほしく、現代の自動車産業の機知と高度な専門技術を楽しみたいならば、Up!のようなクルマから乗り始めるのがよいと思う。

 
飛行機でドイツへ行き、シュトゥットガルトのポルシェ本社へ向かった。今回の取材の目的にはここでは触れないが、空港に着くと、ポルシェで働く人が918スパイダーで迎えに来てくれ、アウトバーンを時速225kmで走り、私を打ち合わせの場所まで運んでくれた。そして到着後すぐに、私を助手席に乗せたまま、今度は極めてタイトで怖いバイザッハのテストコースで最高速度を時速274kmまで上げて走った。

率直に言って、918は素晴らしいをはるかに超えている。ガソリンと電気のパワートレーンのレスポンスに “瞬間” という新たな特徴を加えたのだから、素晴らしいを超えている。また、もしバケットシートにシートベルトがなく、座っている人を適切な位置に保持できる素晴らしいデザインがされていなければ、コーナリング時のグリップは、ドライバーがドア上部を越えてコックピットの外に投げ出されてしまうほど十分だ。その一方で918は、わずかに大きいボクスターのようにスムーズに街中を走ることが可能な、極めて普通のクルマでもある。

ポルシェはいつも、どのクルマにも “ポルシェらしさ” を維持するという点で卓越している。今回918に乗った時も、この評価の高い2015年モデルと、1980年代後半に数年間わが家でファミリーカーとして乗っていた懐かしい911との間にさえ、ほんの1、2回ではあるけれど、わずかな関連性を感じることができた。

 

 
ロータス本社へ行き、CEOのジャン-マルク・ゲールに会った。今回の取材目的は、ロータスの中国における新たなジョイントベンチャーという素晴らしい計画について、より詳しい話を聞くためだ。新型ロータスSUVを誕生させるというアイディア自体が、人々の注目を十分集める。ロータスのSUVは、世界最大マーケットの新工場で生産され、本格的な台数が販売される見込みだ。複雑でコストのかかる内部コンポーネンツ(ワイヤー・アッセンブリー、インフォテインメント、暖房と換気システム)を採用する可能性が極めて高いが、これらはロータスの次世代スポーツカーにも利用できることは、実に興味深い。ご存じかもしれないが、これはポルシェが以前行ったのとまったく同じ手法だ。ポルシェは2002年に本格的な台数が見込めるカイエンを導入し、その後、このスケールメリットを使って、ポルシェの俊足モデルの見た目には見えないコンポーネントを向上させた。とても効果的だったと思う。

 

 
友人のポール・マッティが経営するロータス販売店は、イングランド中西部のブロムズグローブにあるが、この町から30km圏内を通る時は必ずマッティの店に立ち寄り、お茶を飲んで帰ってくる。初めてこのロータス販売店を訪れたのは、ちょうど28年前に記事を書くのに必要なネタを集めに行った時だった(結局この時、ごく初期のウェストフィールド・セブンを買った)。それから数え切れないほど何度も足を運んでいるが、マッティと私には定例になっていることがある。毎回必ず、店内の在庫車両とワークショップに置かれた珍しいクルマを見るツアーを行うのだ(今回興味深かったのは、レストア中のエランだったが、このエランは長期間ガレージに置かれていたため、クルマ好きのネズミがキャブレターの上に巣を作ってしまい、キャブレターはネズミのおしっこで溶けてしまっていた)。

他にも2台、素晴らしいクルマがあった。1台は、SIDという名で知られている、エスプリをベースにした可変サスペンションの有名なプロトタイプだった。マッティはSIDの行き先を見つけるために、昨年のクリスマスにこのクルマを手に入れた。もう1台は、とても程度のいい後期のエリーゼS1で、価格は1万ポンドだった。10年ほど前に私が所有していたエリーゼS1にとてもよく似ていた。あのエリーゼはとても楽しいクルマだった。

 

 
マッティの店を訪ねた翌朝、目覚めた瞬間に、あのエリーゼS1を手に入れなければならないと思った。私がそう思っていることをマッティはすでに昨日気がついていたらしい。だが、彼は客の決断には首を突っ込まない主義だ。数分後には商談がまとまり、私は知らせるべき人にこのことを伝えた。かみさんは、純粋に喜んでくれた(彼女のことを知らない方は、あまりよい顔をしなかったのではと予想したかもしれないが)。私はいつも、次にどのクルマを買おうかという話ばかりしているが、その話にじっと耐えて耳を傾けてくれた友人たちは(読者の皆様も含めて)、ほっとしていることだろう。エリーゼを買った瞬間は、嬉しさでいっぱいだった。そして、今も同じ気持ちだ。2週間後にカムベルトが交換されて納車されれば、再びエリーゼを自分のクルマとして運転できる。

 
アウディのトップ、ルパート・シュタートラーがオックスフォード大学で学生向けに行う講演に招待されたので、夕方、現地へ向かった。講演のテーマは、未来のモビリティに対するアウディのコミットメントだった。当初、私はシュタートラーがこの講演を行う動機に懐疑的だった。というのも、メルセデスベンツのトップ、ディーター・ツェッチェも似たようなことを少し前に行っていたので、流行なのかもしれないと思ったからだ。だが、その後、シュタートラーに質問する機会をもらって詳しい話を聞くことができ、考えを変えた。

シュタートラーは、デジタル化と相互通信能力はクルマを進化させると考え、確信を持っている。その恩恵として、事故が極めて少なくなり、都心の秩序が回復され、自動車ドライバーは貴重な時間をもっと活用できるというのだ。

アウディによれば、都市部を中心に運転するドライバーのなかには、年間1ヶ月を渋滞の中で過ごす人がいるという。また、駐車場を探すという単純な行為に、年間1週間を費やすドライバーもいるという。この状況を続けるべきではない。もしクルマ同士が互いに通信し、コンピューターの導きによって走行量の少ないルートを走って予約された駐車場へ向かえば(これらはすべてそれほど難しいことではない)、メキシコシティのように大渋滞を起こしている街にも、変化が起きるかもしれない。この講演の内容に好感を持った。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)


 
 

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