退屈しない自動車デザイン 大手を負かしたクリス・バングルは「先駆者」か「破壊者」か

公開 : 2024.08.10 18:05

その斬新かつ大胆なスタイリングから、おそらく最も賛否両論分かれるであろう自動車デザイナー、クリス・バングル。オペル、フィアット、そしてBMWで手掛けた代表的なモデルを振り返る。

大胆さゆえに好みが分かれるデザイナー

クリス・バングルほど世論を二分した自動車デザイナーはいないだろう。しかし、これほど幅広いクルマに深く関わったデザイナーもまた少ない。

オペルでの初仕事から、大手デザイン会社の案を退けたクーペ・フィアット、そしてやや物議を醸したBMWのフレイム・サーフェシング(炎のような表面処理)に至るまで、バングルは自動車業界とその関係者に永遠の足跡を残した。

クリス・バングルが手掛けた代表的なモデルを振り返る。
クリス・バングルが手掛けた代表的なモデルを振り返る。

メルセデス・ベンツのデザイン・チーフであるゴーデン・ワグネルでさえ、こう語っている。「クリスは先見の明があり、枠にとらわれない発想を持つ。常に時代を先取りし、同じようなクルマや製品を生み出してきた。彼はすべての若いデザイナーにとってのインスピレーションであり、わたしにとってもそうだった」

バングル自身もメディアに対し、さまざまな見識を披露してくれた。彼はAUTOCARの取材で、こう語っている。「BMWのCEOから、新デザインのE46世代3シリーズには “線が多すぎる” と言われたことを覚えていますよ。わたしは、モーツァルトが国王から “音符が多すぎる” と言われたときの言葉を言い換えて答えました」

「クルマには、時代を超越した古典的な美しさを求める役割があります。しかし、他の芸術もそうであるように、何が素晴らしいかというわたし達の考えを変えるような新しいコンセプトを生み出し、それに合わせてわたし達の心を伸ばすことが、本当のコツなのだと思います。そのようなデザインが長持ちするのであれば、さらにいいことだと思います。しかし、世代ごとに見る目は変わります」

2009年2月にバングルが社を去った後も、BMWが異彩を放つクルマを発表し続けていることを考えると、この思想はBMWの現在のデザイン哲学と重なるところがある。

では、バングルのヒット作についてはどうだろう? バングルが自ら描いた、あるいは指揮を執ったクルマたちを振り返ってみよう。

オペル・ジュニア(1983年)

米オハイオ州生まれのバングルは、1981年にドイツのGMオペル本社で自動車デザインのキャリアをスタートさせる。1983年のフランクフルト・モーターショーで発表されたコンセプトカー「ジュニア」のインテリアデザインを担当。独創的なダッシュボードレイアウトを採用し、メーターやスイッチをそれぞれ個別のポッドに収めた。

今にして思えば、ジュニアのエクステリアデザインの一部(ヘッドライトやシルエットなど)は、1992年にデビューした2代目コルサを正確に予見していた。しかし、バングルの貢献はコンセプトのインテリアに限られており、市販モデルには引き継がれなかった。

オペル・ジュニア(1983年)
オペル・ジュニア(1983年)

記事に関わった人々

  • AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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