ヨーロッパ・フォード・ミーティング 2015

2015.03.08

text:Tetsu Tokunaga (徳永徹) photo:Keisuke Maeda(前田恵介)

 
われわれオートカーは英国の媒体である。ニュース・ソースの大半は本国イギリスから発信されるもので、英国人特有の言葉の運びやクルマ愛を皆さんに感じていただくのが日本版の目指すところだ。けれど現地の評価を正しく伝えるのはなかなか難しい。その最たるものがフォードに関する記事であろう。英国版では “2012年度ホットハッチ・ワールドカップ” をフォーカスSTがとり、”2014年度Bセグメントのベストモデル” にはフィエスタが選ばれている。日本で目にする機会が少ない欧州開発のフォードは、かの地でなぜ高評価を得るのか。そんなモデルが集まるイベントの存在を知り、われわれは取材に向かった。その名もヨーロッパ・フォード・ミーティング。つまるところこれは、オートカーの原点を見つめなおすことでもあるのだ。

わたしの疑問に応じてくれたのはイベントの若き主催者、吉田さん。その見解は明確だった。

「走りがいいのに、大衆車なので維持費がそれほどかからないんです。走りに特化したらお金がかかるじゃないですか。でも、そのバランスが取れているんですよ。それに走りの良さが、モデルの世代が変わってもブレないですね」

そばにいたフォーカスRSのオーナーはこう続ける。

「走る、止まる、曲がるがしっかりできるクルマは希少だと思うんですよ。整備士の方が足まわりを見て “全然他のクルマとは違う。きちんと作ってある” と話していました。多くのメーカーはナビや収納装備といった見て分かるところにお金をかけるじゃないですか。でも、このクルマは見えないところにお金をかけているんです。だから、フォードは乗らなきゃ良さが分かりません」

乗らなければ良さが分からないクルマがこの日、フォーカス、フィエスタ、モンデオ、クーガ、C-MAX、シエラ、エスコートと50台以上集結した。それもそのはず、これほど集まるのにはわけがあった。イベントのスケジュール表に見慣れない企画が記されていたのだ。相互試乗である。

「欧州フォードの他のモデルに乗ってみたいという参加者が多いんです。あそこの緑のRSのように元々数が少ないモデルばかりですから。相互試乗というのは、自分のクルマを他のオーナーに運転してもらうものです。欧州フォードの魅力はなんといってもハンドリングなので、今回はサーキット開催としました。フォードの良さをもっと知ってもらいたいんで」と吉田さん。

愛車のステアリングを他人に委ねる。それもサーキットで存分に楽しんでくれと。その志に賛同した数なんと30名。この日、欧州フォードの新旧モデル30台が、ドライバーを次々に入れ替え名阪スポーツランドを走り込んだ。試乗希望者がフォード乗りなら、助手席に収まるオーナーもフォード乗り。インタビューすると、参加者はかなりの確率で欧州フォードを乗り継いでいることが分かった。そのお話がなかなか面白かったので、また別の機会にご報告を。

イベントの後半、コース内に全車両を並べての記念撮影があった。これほどの台数をカメラに収めるのは一苦労だが、風吹きすさぶサーキットで待ち時間が発生しても小言を漏らすドライバーはひとりもいなかった。オーナー諸氏の表情からは、もっと大きなことのために参加しているという様子が伺えるのだ。走り出すと胸が高まるクルマがここにある。フォード乗りの方と過ごして、クルマ好き本来の姿を思い出させてもらった。

  • 1周800mの名阪スポーツランドEコースが今回の会場。イベントの始まりはサーキットを3周するタイムアタック。

  • エスコートRSコスワースがコースイン。14年間乗り続けているオーナーは「初めって乗ったときは怖かったが、いまは他に欲しいクルマが見つからない」という幸せ者。

  • 日本未導入モデルのフィエスタS1600。ひと際目を引くモータースポーツ・ストライプとスポーティなエアロが特徴の限定モデル。

  • シエラRSコスワース。それも4ドアのサファイアベースのモデル。メインストレートのフルブレーキングで会場を沸かせた。

  • モンデオに3ℓV6、6MTを搭載したST220。「バランス取り、ポート研磨というメカチューンしたエンジンを積みながら、これみよがしな見た目にしなかったところが魅力」とオーナーの石原さん。

  • 奥様の愛車がフォーカス・スポーツという西田さん御一家。6台の欧州フォードを乗り継いできた。きっかけを伺うと「乗ったらハンドルがしっかりしていて、それに海外に行くとイギリスでもフランスでも目につくのはフォードだったんです。ヨーロッパで運転してもやっぱり良いなぁと思いました」

  • 相互試乗で引っ張りだこのフォーカスRS Mk2。YMワークスで仕上げたこの車両は350psを発揮。試乗するのは西田さん御一家のお父様。

  • イベントに協賛しているフォード・ジャパン・リミテッドは、フォーカス・スポーツ・ドライバー・アシストパッケージの自動ブレーキ体験を開催。

  • イベント主催者の吉田さん。「実は自分自身がフォードの他のモデルにも乗りたくて、このプログラムを思いついたんです」相互試乗という難しい企画を立派にやり遂げた。

  • フィエスタをお借りしてひとっ走りさせて頂いた。重量級のドアをバスンと閉め、いざ走り出す。しっかりして欲しいところがしっかりしている乗り味。

  • 0.9ℓ3気筒EcoBoostエンジンには痺れた。これは若返る。10歳若返るエンジンだ。スロットルを踏み込めば、10代のころの心臓を取り戻した気分。

  • グループA時代に活躍したシエラから、現在のグローバル・モデル、フォーカスやフィエスタまで集まった。”モデルの世代が変わっても走りの良さがブレないクルマ” にあっぱれ。

記事に関わった人々

  • 徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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