メルセデス・ベンツSL63AMG

公開 : 2012.08.24 15:12  更新 : 2017.05.23 16:47

■どんなクルマ?

メルセデス・ベンツSL63 AMGのようなクルマがコート・ダジュールのサントロペのような場所で鮮やかにドリフトを決める……なんて、ちょっと想像できないかもしれない。この地中海に面した金持ちと有名人の行楽地として知られる名所を、周辺のカントリーロードで数時間ほどぶっ飛ばしてきたあとにゴロゴロとしたエンジン音を響かせながら走っていて、真紅に輝くメルセデスがちょっとした注目の的になっているらしいことに私は気づいた。

たぶんそれは、この新型ロードスターの外観のせいだろう。高性能を志向したオープントップのライバルたちのなかには、スタイルの優雅さでこれを上回るクルマも少なくない。その点では勝負にならないだろう。だが、強烈な個性という点でいえば、この2代目のSL63 AMGはじつにわかりやすく、ルックスがその目的を明確に示し、それを見事に完遂している。けれど私には、メルセデスがこのクルマのスタイリングをもっとよくできる機会を逃してしまった感を、拭い去ることができない。とくにヘッドライトは大きすぎる。おそらくこれは、スタイリング上の善し悪しよりも、最新の照明テクノロジーを使用するという決定が優先された結果なのであろう。そして、このセグメントの椅子取りゲームで鍵を握るのは、そうした目には見えないテクノロジーなのだ。

■どんな感じ?

ノーマルのSLと同様、この最新のAMGモデルも新設計のアルミ製ボディ構造体をベースにしており、おかげでスティール製だった旧型に比べて125kgの軽量化を実現できたという。しかもこれは、追加された装備の重量を計算に入れての数字である。その軽量な構造体に新型のツインターボ過給5.5リッターV8ガソリンエンジンを組み合わせることにより、いっそう強力な動力性能とシャープなハンドリングを実現している。

出力は12ps向上した537psであり、オプションのパフォーマンスパッケージを装備すればさらに27ps増の564psとなる。その場合の馬力荷重比は306ps/tだ。旧型の263ps/tから43ps/tも増しているのである。トルクの増分にいたっては標準車で17.6kgm、パフォーマンスパッケージ装着車では27.8kgmで、後者のトルク荷重比は49.8kgm/tになる。はるかに高価なSLS AMGを11kgm/tも上回っているのだ。

ドライビングモードはコンフォートとスポーツの2種類が用意されており、センターコンソール上のボタンで切り替えられる。コンフォートの設定にすると、全体のリファインレベルや路面追従性が強調され、市街地走行や比較的低速での長距離巡航に完璧に適した乗り味になる。この設定でのSL63 AMGは、エンジンの本質的なフレキシビリティのおかげもあって、じつにアットホームな雰囲気である。

スポーツモードではそれが一変して、スロットルやステアリングの反応がはっきりとシャープになる。スプリングとダンパーも引き締められ、ポテンシャルどおりの動力性能を引き出すにはそれなりに積極的な走りが要求されるモードだ。さらにAMGモードをオンにすれば、スタビリティコントロールのマッピングも制御が変更され、介入するポイントが遅めになる。

エンジンは明確にパワー志向だ。音を減衰させる効果のあるターボ過給機があるにもかかわらず、右足をいっぱいに踏み込むとNASCARのレーシングカーのような轟音を発する。20秒以下で開閉可能になったアルミ製ルーフをトランクリッドの内側に格納していれば、フルスロットルでは大量の排ガスが渦を巻きながら吐き出されているのを強烈に体感できるだろう。

しかるべき道路をしかるべき条件で走っている限り、このSL63 AMGはモンスター級のスポーツカーと表現してかまわない。加速は暴力的なまでに強烈で、物理的なグリップは莫大だ。ブレーキについても、少なくとも今回試乗したパフォーマンスパッケージの個体が装着していたカーボンセラミックのシステムは、息を呑むようなレベルの制動能力を備えている。この3つの分野に関していえば、スーパーカーとして宣伝できるだけの実力を備えていると断言していい。

ただ、議論の余地もある。例によってトルクコンバータを湿式クラッチに置き換えた7段A/Tのギヤボックスを搭載しているのだが、反応が少々鈍重なのだ。おそらく、トランスミッション自体の動作に責任を帰すべき問題ではない。それというのも、ギヤシフトの動作自体は相変わらず素早いからだ。問題なのは、どの瞬間に電子系統がギヤの変速を実行するのか明瞭な手応えが得られない、シフトパドルのフィードバックである。

SL63 AMGはアルミをふんだんに使用したボディシェルの上に構築されており、スタンダードモデルのSLに採用されている先進的なアクティブボディコントロールシステムを専用にアレンジして搭載している。地上高はドライビングモードと速度に応じて変化し、ピッチとロールは感嘆するほど見事に抑えられていて、かなり荒れた路面でも本気で攻め込んだコーナリングでも、それは変わらない。ペースを上げていけばフロントタイヤの食いつきに驚くはずで、パフォーマンスパッケージの一部としてデフロックが組み込まれたリヤもずっしりと微動だにしない。総合的なグリップレベルは並外れて高いといえる。

これは、旧型に比べて前50mm/後52mmも拡大された幅広いトレッドと、255幅の35扁平19インチフロントタイヤに285幅の30扁平20インチリヤタイヤ(パフォーマンスパッケージなしだと19インチ)の組み合わせによるものだ。AMGモードをオンにすればESPが攻めの設定に切り替わるので、まさにグリップの限界まで味わえる。

ただし、ステアリングに関してはすっきりとしないところがある。電動アシストの動作はリニアでダイレクト感も素晴らしく、ピシッとした切れのいい回頭性を実現している。しかし、軽すぎて手応えが希薄なのだ。4分の1回転まで切った状態でも目立ったキックバックは何もなく、それはかなり速度を上げてもまったく変わらない。同様に、フィードバックもほとんど伝わってこない。AMGの開発責任者であるトビアス・メルスによれば、その原因はすべてタイヤにあるらしい。今回、試乗した個体が履いていたミシュラン・パイロットスポーツ3は最高のグリップを提供してくれる反面、購買時に提示されているもうひとつの選択肢であるコンチネンタル・コンタクトスポーツのようなデリカシーにはやや欠けているきらいがあると彼はいう。

車内に関しては、このSL63 AMGは品質の模範とされるべきものだ。ただ、センターコンソールのスイッチ類の配置が、あまりにも後方に引かれているところだけは惜しまれる。メルセデスがふたつの大きなカップホルダーを前方に配置しようと執着した結果である。つまり、実用性がエルゴノミクスよりも優先されたのだ。また、シートの座面が低いのに、ドライビングポジションは決して完璧ではない。私が攻め込んだ走りをしていると、高く配置されたセンターコンソールに肘が当たってしまった。これはつまり、自分本来の好みの位置よりも座面を上げなければならないということを意味している。

■「買い」か?

総合的にいうと、SL63 AMGは素晴らしいエンジンと音響特性を備えており、ただ交通の流れに乗って流しているだけでも、ひと気のないバックロードを本気で走っても、どちらのシチュエーションでも事件として取り上げるに足るクルマに仕上げられている。しかしながら、トランスミッションやステアリングのフィールには欲求不満を覚えるかもしれず、エルゴノミクスには妥協の跡が見られ、そしてこれはあくまで個人的な意見だが、これだけの血統を誇るクルマとしてはいささか視覚的魅力に欠けている。もっとも、サントロペの人びとにとっては、このクルマはすでに次のマストアイテムになっているようだったが。

(グレック・ケーブル)

メルセデス・ベンツSL63AMG

価格 110,735ポンド(1,380万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.2秒
燃費 12.1km/l
CO2排出量 231g/km
乾燥重量 1770kg
エンジン V型8気筒5461ccツインターボ
最高出力 556bhp/5500rpm
最大トルク 91.7kg-m/2250rpm
ギアボックス 7速オートマチック

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