メルセデス・ベンツSL 500へ挑んだ AC ブルックランズ・エース 英製GTロードスター 後編

公開 : 2023.07.09 07:06

1980年代後半に登場した、R129型SLへ影響を受けたACカーズ。僅か58台が作られたロードスターを、英編集部が振り返ります。

自信が溢れ品格を漂わせるスタイリング

R129型メルセデス・ベンツ500 SLのシャシーを構成するスチール材は肉厚で、先代から剛性は30%も向上。リア・サスペンションにはマルチリンク式が採用された。車重はAC ブルックランズ・エースより約400kg重かったが、有能なエンジンが補った。

4代目SLのボンネット内に当初収まったのは、M119型のV型8気筒エンジン。ダブル・オーバーヘッド・カム(DOHC)の32バルブで、内部構造は鍛造で形成され、ほぼ振動を生じないほどスムーズに回転した。ほかに、M103型の直列6気筒も用意されたが。

ダークグリーンのAC ブルックランズ・エースと、ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SL
ダークグリーンのAC ブルックランズ・エースと、ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SL

電磁式の吸気カムコントロール・システムは、直6エンジンと共有。アイドリング時のノイズは大きめながら、6000rpmまでストレスなく吹け上がった。

技術的な内容に興味はなかったとしても、500 SLはメルセデス・ベンツの頂点だと購買層は理解していたはず。路上の1つの頂点といっても良かった。V型12気筒エンジンを積んだ600 SLが、1993年にその座を奪ったが。

ボディはシャープなラインで構成され、ボンネットの長いプロポーションが特徴。テールライトは、細かな凹凸があるブラフ・デザイン。今でも自信が溢れ、品格を漂わせる。

500 SLで路上に出ると、V8エンジンが小さくささやく。通常は2速から発進させる4速ATは、メルセデス・ベンツらしくゆったりと確実に次のギアを選ぶ。稀に予想より長時間、同じギアが保持されることもある。

合理的にシンプルで落ち着ける空間

乗り心地はブルックランズ・エースより硬め。傷んだアスファルトにも動じない、安定性と一貫性がある。複雑に組み合わされたアームとブッシュが小さくノイズを漏らすが、衝撃は見事に吸収される。

ステアリングホイールは、パワーアシストが加わり軽く回せる。正確性も高い。

ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SLと、ダークグリーンのAC ブルックランズ・エース
ダークブルーのメルセデス・ベンツ500 SLと、ダークグリーンのAC ブルックランズ・エース

インテリアは、ドイツらしい実直なレザーにウォールナット・パネルで仕立てられているが、一部には合皮も混在している。ブルックランズ・エースのようなクラフトマンシップは感じないものの、合理的にシンプルで、速度に関係なく落ち着ける空間だ。

ストロークの長いアクセルペダルを深く倒すと、心地良いV8ノイズが響いてくる。踏み込む勢いによっては、4速ATがキックダウンし、4000rpmのパワーバンドを活用してくれる。6000rpmでシフトアップされるが、回転数には明らかに余裕がある。

目一杯引っ張っても、息苦しいようなサウンドへ転じることはない。場面によっては、300rpmさらに回転数を高められることを発見した。ブレーキは、シャシーの落ち着きと同調するように淡々と速度を落とす。

今回のダークブルーの500 SLは初期型に当たる1990年式で、当時の新技術だったスタビリティ・コントロールは備わらない。限界領域まで攻め込むと、ステアリングには好ましくないフィードバックが伝わってくる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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