【曲線美な2台のクーペ】ロールス・ロイス・シルバーシャドウMPWとメルセデス・ベンツ280 SE 3.5 前編

公開 : 2021.05.16 07:05

柔らかな曲線美に魅了されてしまう、シルバーシャドウMPWと280 SE 3.5。稀有なエレガントさを放つ2台を、英国編集部がご紹介します。

花形の美しさをたたえる280 SE 3.5

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
クロームメッキ・バンパーが与えられたクラシック・メルセデスで、花形といえる美しさをたたえる1台といえば、280 SE 3.5クーペだろう。デザインのオリジナルが誕生したのは1961年だった。

V8エンジンを搭載するW111型の2ドアモデルとしては最終仕様といえ、最高の仕上がりであって然るべき。300シリーズのクーペに採用される、トラブルに悩まされがちなエアサスペンションではなく、ずっと近づきやすい。

メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)

1969年から1971年までの間に、280 SE 3.5クーペは3270台が製造された。フラッグシップ・モデルとして、専用ラインに配属された職人によって丁寧に作り込まれている。

その中で、右ハンドルのピラーレス・クーペは245台。マニアの間では、注目の的であり続けている。後継モデルとしてSLCが登場したが、280 SEのように特別な雰囲気は漂わせていなかった。

スタイリングは、フランス人デザイナーのポール・ブラック。彼が描き出した2ドアクーペ以上に美しいメルセデス・ベンツは、果たして以降に誕生しただろうか。

欧州車らしいアイデンティティを保ちながら、長く低いアメリカン・ハードトップの風情を再解釈し、見事なデザインを完成させている。車内は広く洗練され、極めてラグジュアリーだ。

新車時の英国価格は6700ポンド。220サルーンは2500ポンドだったから、格差は明らかだ。

ステータスシンボルでもあった、280 SE 3.5。その訴求力に近づくことのできた同時期のモデルといえば、ロールス・ロイス・シルバーシャドウ・ミュリナー・パークワード(MPW)くらいだろう。

4ドアのシルバーシャドウとは異なるライン

全体のデザインは、コーニッシュと呼ばれるクーペと大差ない。しかし、2ドアサルーンがコーニッシュという名前を得たのは、1971年になってからだ。

フライングスパーや、クラウドIIIをベースにしたコーチビルドの2ドアボディに代わるモデルとして発表されたのは、1966年のジュネーブ・モーターショー。ロンドン生まれのジョン・ブラッチリーがスタイリングを手掛けた。

ロールス・ロイス・シルバーシャドウ・ミュリナー・パークワード(1966-1971年/英国仕様)
ロールス・ロイス・シルバーシャドウ・ミュリナー・パークワード(1966-1971年/英国仕様)

優雅な容姿は、ロールス・ロイスの家系としての共通性を持ち合わせている。しかし、4ドアのシルバーシャドウとはラインがまったく異なる。

柔らかなカーブを描くテール周りに、シャープなルーフライン。長くスレンダーなドアハンドルなどのディテール。シルバーシャドウ・ドロップヘッド(コンバーチブル)の理想的なベースにもなった。

ドロップヘッド・クーペが導入されて以降、様々な仕様で1990年代半ばまで製造が続けられている。だが、固定ルーフのシルバーシャドウ・コーニッシュは一足早く、1980年に製造を終えた。

シルバーシャドウMPWとしては、568台が製造された。同じデザインを利用し、ベントレーT1は68台が作られている。そんな2ドアサルーンは、6750ccエンジンの後継モデルとの結びつきが薄いためか、光を当てられずにいた。

ところが、シルバーシャドウMPWの独自の魅力は、近年注目を集めている。後に入れ替わるコーニッシュと異なり、チンスポイラーやゴム製のバンパー、派手な配色などのないエレガントな見た目が惹きつけるのだろう。

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