【電動化の矛盾】EVへの移行を急ぐ欧州 需要も拡大 しかしメーカー資金面で課題も

公開 : 2021.08.18 06:05

欧州ではCO2排出量削減のため、EVへの移行を急いでいます。販売が伸びる一方で、ある矛盾が生じています。

順調に拡大するEV市場

text:Jim Holder(ジム・ホルダー)
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

欧州で電動モデルの登録台数が急増している。EVへの移行を急がなければならない業界にとっては良いニュースかもしれないが、決してそうとは言え切れない。

市場の変化に詳しいアナリストでジャーナリストのマティアス・シュミットは先日、2021年前半の西ヨーロッパに関する自身の見解を発表した。

欧州では2035年までにエンジン車を実質禁止する措置が検討されている。
欧州では2035年までにエンジン車を実質禁止する措置が検討されている。

注目すべき点は、6月にバッテリー電気自動車(BEV)の登録台数がプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の登録台数を上回ったことであり、これは今年に入って初めてのことだ。同月はまた、EVおよびPHEVの登録台数が全体の20%を超えたが、これも史上2度目の出来事である。

BEVの登録台数が最も多かったのはドイツ(14万8700台)で、2位は英国(7万3900台)だった。そのうち、フォルクスワーゲン・グループが25.4%のシェアを占め、圧倒的な強さを見せている。

ここまでは順調だ。しかし、この成功と、気候変動への懸念の高まりから、行政はさらに電動化を急ごうとしている。欧州委員会は、2030年の乗用車の平均CO2排出量の目標を、現行の37.5%減から、2020/21年の平均値の55%減に変更しようとしている。

需要が旺盛で、市場も拡大しているにもかかわらず、なぜこのことが問題になるのだろうか。それは、クルマを作ること自体は問題ないが、その開発コストを誰かが負担しなければならないからだ。

ICEの売上で移行資金を確保

BEVの利益率が非常に低く、政府の補助金に大きく依存している現状では、自動車メーカーは未だにガソリン車やディーゼル車(ICE)の売上に頼らざるを得ない。クルマの開発とEVへの移行には莫大なコストがかかるが、その資金を稼げるのはICE車なのである。

そして、資金を確保する時間が減れば減るほど、できるだけ早く、多く売らなければならない。

EV移行のために身を切る企業は少なくないだろう
EV移行のために身を切る企業は少なくないだろう

先週、フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース会長はこの問題に関して、「ICE事業からの高いキャッシュフローを維持して移行資金を確保することが最も重要である」と述べた。

多くの人が環境保護の妨げになると考えている中、勇気ある告白といえる(フォルクスワーゲン自身は、世界のCO2排出量の約2%を占めていると推定されている)。

問題視されているのは、変化が必要かどうかではなく、変化のペースである。EVを普及させるためにICE車を売らなければならないという、明らかな矛盾がある。自動車メーカーに移行を急がせることは、果たして地球のためにも良いことなのだろうか?そして、このことをあえて主張する人はどれだけいるのだろうか。

関連テーマ

おすすめ記事

 

EVの人気画像