シトロエン2CV + ルノー4 世界で愛されたフランスの大衆車 上級志向の2台 前編

公開 : 2022.03.12 07:05

地方の農民のアシから、クラシックカーへと昇華したフレンチ・コンパクト。2CVと4を、英国編集部がご紹介します。

初めから完璧なレシピだった2CV

フランス人は、市民の大衆車を芸術の域にまで高めた。その先頭を突き進んだのが、実用的でありながら、優雅とさえ感じるデザインのシトロエン2CV。その成功に刺激され、ひと時代を置いてモダンなルノー4(キャトル)が続いた。

画期的といえたシトロエンの2CV、「ドゥ・シュヴォ」が姿を見せたのは1948年。シンプルでありながら実用的。質素でありながら快適な乗り心地。初めから、レシピは完璧なものだった。

ワインレッドのシトロエン2CV AZAM6と、アイボリーのルノー4L
ワインレッドのシトロエン2CV AZAM6と、アイボリーのルノー4L

それから13年後の1961年、ルノーは成功のレシピを独自に展開。パッケージを煮詰め直し、ベストセラーを生み出した。

キャトルも、間違いのない結果を残した。だが、2CVという偉大なライバルも消えずに残った。とりわけ1965年1月にベルギーで誕生した、AZAM6という上級志向のモデルは、強くルノーが意識されていた。

木漏れ日の中を、クリーム色のルノー・キャトルが走る。愛らしいルックスへ見とれていると、空冷2気筒エンジンが放つ、威勢の良い鼓動が周囲を満たし始める。AZAM6のオーナーは、集合場所を間違えたらしい。

2CVが、遅れを取り戻そうと必死に走ってきた。シンプルなシャシーと非力なエンジンが組み合わされているが、驚くようなスピードで、のどかな丘陵地帯を駆けてくる。カーブでは、遠心力と戦うようにボディが傾く。見た目からは想像できない運動能力だ。

2CV以上のクルマへの需要

彼のAZAM6は、フランスの農民たちに戦後から愛された、2CVの直系子孫に当たる。オーナーのジェイソン・ソープ氏は、流石にリアシートへ朝摘みオレンジが詰まった木箱や、産みたての卵が並んだバスケットを積んでこなかったけれど。

補強のリブが入ったボンネットに、ハンモック状の2列シートを採用していた初代。時代が進み自動車市場が変化していくなかで、生産終了までの40年間以上、2CVらしい特徴が変わることはなかった。

シトロエン2CV AZAM6(1965〜1967年/欧州仕様)
シトロエン2CV AZAM6(1965〜1967年/欧州仕様)

発表直後、ベーシックながら優れたシャシーが支持され、2CVは大ヒット級の人気を集めた。耕したばかりの畑でも柔軟にタイヤを上下させる、ロングトラベルのサスペンションが自慢だった。

フランスの道路網は、当時まだ充分とはいえず、オンロードでもその能力はいかんなく発揮された。エンジンはメンテナンスが容易な、375ccの空冷2気筒。少々回転に荒っぽさはあっても、信頼性に不安はなかった。

そもそも、安価で活発に走る個人の移動手段は、医者からの要望だったといわれる。しかし、徐々に経済活動が回復していくと、2CV以上のクルマへの需要が高まっていった。

戦後の緊縮的な空気を反映するように、2CVは極端といえるほどに簡素。しかも、呆れるほど遅かった。エンジンは途中で425ccへ大きくなるが、眠気を誘う加速は変わらず。100km/hなど、夢のスピードだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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