アウディA5ウルトラTDI

公開 : 2014.07.12 23:50  更新 : 2017.05.29 18:15

■どんなクルマ?

この記事を読んだ後には、読者の多くが社用車の候補リストにこのクルマを加えたくなるかもしれない。そんなA5ウルトラは、A4ウルトラとA6ウルトラとの間にすっぽりとおさまるように位置する、アウディ謹製の経済性と環境性能に優れたクルマなのである。

前輪駆動のみ、ギアボックスも一択、ホイールもトリム・レベルも選択肢無し、ドイツの自動車メーカーとしては些か簡潔すぎる設定だ。そのお陰でオプションの選択を誤って、無駄な支出を強いられることもない。どうだろう、そういった意味でもこのクルマは魅力的ではあるまいか。

CO2排出量は慈悲深き109g/km、さらに英国では1年毎の税金が従来の40%分安くなるのである。したがって、あらゆる点でBMW 420dのそれと匹敵する形になる。

TDIよりも長いギア・レシオに変更した恩恵を受けて、削減されたCO2排出量はTDIeレンジの成し得た記録も塗り替えるに至った。

また燃料噴射圧力を高めることにより、排気ガスの再循環システムは、従来よりも広い回転域で163psを発揮することを可能にし、最大トルクもこれまでの1750rpmという回転数を上げることなく38.7kg-mから40.8kg-mにまで増強されたのである。

もう少し数字の話を続けると、A5ウルトラは、176psの標準モデルの複合サイクル燃費である21.7km/ℓに対して23.8km/ℓを達成し、CO2排出量120g/kmから先述の109g/kmにまで削減成功を成し得たのだ。

■どんな感じ?

出来る限り無駄を削ぎ落したシンプルな仕立てにしているというのに、センスよく、豪奢でハンサム、そして目を見張るほどに素晴らしいクルマだと言える。

このモデルが最初にデビューしてから早7年、成熟したA5は今が一番’おいしい’のかもしれない。伝統的なクーペ・ボディは、その色彩を失わせることはなく、またこのクルマのキャビンは相も変わらず乗った者を虜にする。

つい先日、公式デビューを果たしたメルセデス・ベンツCクラスが、素材のクオリティと高級感のレベルを一つ上のレベルに引き上げたことは疑いようがない。だけれども、Cクラスにはまだ2ドア・モデルが存在しないのだ。加えてA5のインテリアにおける、なめらかなクローム仕立てのトリムと、光沢を使い分けた黒いプラスティックの使い方、また柔らかくスムーズな手触りと、ソリッドなタッチを持つスイッチ類の見事な融合は、Cクラスのそれよりも遥かにレベルが高い。

あるいはA5の持つシートは、僅かながらに包容力を欠き、ペダルのオフセットは少しばかり右に寄っていると感じる向きもあるかもしれない。ただしそう長く乗らないうちに、新しいBMWの4シリーズや一つ前の型のCクラス・クーペよりも好印象を抱くことは間違いない。

またBMWやメルセデス・ベンツに比べて、アウディは4気筒ディーゼル・エンジンによる洗練性の与え方に関して卓越したノウハウを持っている。さすがにエンジン始動時にはそれなりの振動を感じることは否定出来ないのだけれど、それ以外には舌を巻くほどスムーズな、振動とはほとんどの無縁のマナーをもって仕事をするのである。

適切なギアで走らせればレスポンスにおいても十分に我々を満足させてくれる。追い越しは4速でも問題なく、高速道路では6速にて静かに走り抜けることができる。

アウディ製のTDIはいくらかの回転数を要するディーゼル・エンジンだと感じる一方、ウルトラTDIは中間トルクが明確に大きいことを感じさせる。

タコ・メーターの針が3000rpmを超えたあたりから、出力が最高になるのに対して、トルクは先細っていくため考えるより先にシフト・チェンジすることになるだろう。強烈ではなく、穏やかなトルクの膨らみ方であるゆえ、感覚としては寛大で、スロットル・ペダルを3分の1程度踏むだけでそのトルクを発生するため、このA5は望外に落ち着いた印象を与える。超距離を走る際も全くと言っていいほど苦労を強いないのである。言うまでもなく経済性も高い。そこそこに混雑したコースを160kmほど走った結果、算出した燃費は21.2km/となった。

この車は、スポーツカーでは無いという事は読者諸兄も百も承知なのだが、組み合わされサスペンションは車高ダウンとエアロダイナミクスの向上に主眼をおいたスポーツ・サスペンションとなる。

ステアリングは首尾一貫性を持ったマナーと、まずまずの重さがあり、比較的マイルドな反応をする。度重なるコーナーにて、乱暴な操舵を行わない限りアンダー・ステアが顔をだすことはなく、総じて高速巡航では高レベルの安定感があり恐れをなすようなシチュエーションに直面することはない。

サスペンションは十分なグリップを発揮する手助けを行い、終始フラットな乗り心地を寄与する反面、ステアリングの重さは、あなたがペースを挙げて走りたいとお思いならば少しばかり退屈に感じるかもしれない。

静かで落ち着いてはいるが、シャシーの味付けはEクラス・クーペや、さらに高レベルの落ち着きとある種の熱狂性を併せ持ったBMW 4シリーズには及ばない。言い換えるならば、A5ウルトラの持ち合わせるスタビリティはキャラクターやアピール・ポイントと言うにはあと一歩なのである。

■「買い」か?

実用性をある程度妥協できるならば、退屈なビジネス・サルーンを買うよりA5ウルトラを買うほうが魅力的だ。ただし後部座席はティーン・エージャーにとってはまずまずのスペースがあるのだが、同僚を乗せようなどと考えることはやめて頂きたい。

4ドア版は、A5ウルトラ・スポーツバックとして今年末にデビューを予定している。ただし、筆者としては2ドア・クーぺを買うほうがスマートだと考える。

峠を攻めるタイプではないけれど、長距離を走るにはうってつけの一台であるし、トランク等の実用性も高い。フォルクスワーゲン・シロッコをリースするよりも、一ヶ月のコストは安く上がることも最後に記しておく。

(マット・ソーンダース)

アウディA5ウルトラTDI

価格 £31,470(545万円)
最高速度 225km/h
0-100km/h加速 8.3秒
燃費 23.8km/ℓ
CO2排出量 109g/km
乾燥重量 1530kg
エンジン 直列4気筒1968ccターボ・ディーゼル
最高出力 163ps/3000rpm
最大トルク 40.8kg-m/1750-2750rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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