BMW i8

公開 : 2014.07.12 23:40  更新 : 2017.05.29 17:59

■どんなクルマ?

歴史上のほとんどのスポーツカーよりも、深く、幅広い動力性能をもっている。簡単に言うとBMW i8はそんなクルマである。

パワー・トレインはハイブリッド、カーボンとアルミニウムを併せてできたミド・エンジン・シャシーは0−100km/h加速を4.4秒でやってのける。それだけではない、スコットランドの魅力的な九十九折に連れ出せば、これまた楽しくて堪らないのである。

右側のボタンを押しこみ、多数用意されたダイナミック・メニューから適切なモードを選び、発進する。今となってはスポーツカーにおいてお馴染みの光景である。いざ乗り出せば、このクルマがいかにシャープで、速く、熱狂的なドライビングを与えることができるのかを感じることができる。落ち着き払っていながら速く、音や操舵、発信、停止、どれをとっても’本物’。従来のスポーツカー目線で見ても一流なのである。

それぞれのモードで、文字通りこのクルマは豹変する。がみがみと言いながら、そこらじゅうを闊歩していたかと思えば、一方ではしつけの行き届いた飼い犬のよう。おとなしく、スムーズに、そして特別な苦労を強いることなくドライバーの入力に従順になるのである。実際の使用においては22.2km/ℓ(もしくはカタログ燃費では47.6km/ℓ)、1kmあたりのCO2排出量は49gとなる。

これほどまでたくさんのキャラクターを、1台のクルマが演じたことは無いと言い切っていいだろう。しかもそれぞれのキャラクターが、すべて高レベルで隙を見せる気配がないのだ。本当に。英国では、エコカー補助が適用されれば£95,000(1,407万円)を下回り、仮に適用されなかったとしてもミュンヘンのお偉い様の注意をひくことが出来たとしただけで、十分な未来への展望を得るに等しいと言えるのではないだろうか。

よく考えて頂きたい。カーボン・ファイバーとアルミニウムを余すことなく取り入れたことを考慮すれば、このクルマの価格は妥当なのではないのだろうか。あるいは素材はこのクルマの価値を決定づける、ほんの氷山の一角なのかもしれない、とさえ筆者には思えてくるのである。

また、i8のように洗練された3気筒ターボ・エンジンを携えたスーパーカーをほかに思い浮かべることができるだろうか。

もう少し視点を広げたならば、四輪駆動の、2機のギア・ボックスを持った、3つの電気モーターと200kgのリチウム・イオン・バッテリーを組み合わされたスーパーカーがi8の他に存在するのかということになる。それだけではない、アルミニウムと炭素繊維強化プラスチックを素材の中心として採用した恩恵を受けて乾燥重量は1560kg、大型ハドロン衝突型加速器をも動かせそうな無数のソフトウェアを兼ね備えたクルマはi8の他にあるだろうか? 今のところ、地球上には存在しないはずだ。

その上ポルシェ918 スパイダーマクラーレンP1と同等の複雑怪奇な技術を持ち合わせ、ポルシェ911と同価格なのである。

このクルマが果たしてBMWに利益をもたらすのかは判断しかねるが、新たな顧客が、このクルマの対して並々ならぬ興味を抱いていることは疑いようがない。

■どんな感じ?

高く開きすぎるワイドなドアを上に開けて、体をキャビンにねじ込めば、シートは良好だ。

走りだせば、エンスージアストの心をわし掴みにすることは間違いない。支払った金額を裏切ることは、いかなる路上でも無いと言っていいだろう。

一日かけて、すべてのドライブ・モードを試しながらスコットランドにてテストした結果、誇張なしに筆者を魅了したのである。

まだまだ、現実的にはこの車に馴染めない向きが多いのは認めざるを得ないのだけれど、高速でも低速でも一貫して多様なドライビング・エクスペリエンスを提供してくれることは保証する。

どうしてこれほどまでに、ドライバーを楽しませてくれるのか。これは案外シンプルな仕掛けによるものなのかもしれない。スポーツ・モードでアクセルを踏み込めばかなり速く駆け抜けることができ、高い燃費を誇り、e-モードで走ればほとんどゼロに等しいCO2排出量まで抑え、高速道路ではリムジンのようにスムーズに走る能力を持つ。すべての動作が、当然のように、しかしながら到底真似することのできないほどの高いレベルに仕上がっているのだ。

と、ここまで筆者としては珍しく褒めるだけ褒めてきただけに、不平不満がそろそろ恋しくなってきた読者もいらっしゃるかもしれない。ステアリングのタッチは軽く、そして味気ないと感じた。しかしながら、ターン・イン時の精密性は疑いの余地なく高い。

スポーツ・モードでの乗り心地はかなり硬いため、読者が試乗する際にはパワー・トレインはスポーツ・モードにしたまま、ダンパーのセッティングはコンフォートにして欲しいのだが、残念ながら現時点ではそれは不可能だ。また、トランク・ルームには期待すべきではなく、荷物の出し入れも非常に行いにくい。

■「買い」か?

僅かな欠点があることは致し方ない。しかし、その他の点ではi8はこれまでのスポーツカーの定義を完全に覆したといっても過言ではない。二兎を追うものは一兎をも得ずという諺があるが、i8の場合は二兎を追いながら二兎を得たのである。言うまでもなく、買いだ。

(スティーブ・サトクリフ)

BMW i8

価格 £94,845(1644万円)
最高速度 250km/h
0-100km/h加速 4.4秒
燃費 47.4km/ℓ
CO2排出量 49g/km
乾燥重量 1560kg
エンジン 直列3気筒1499ccターボ+130psモーター
最高出力 360ps/5800rpm
最大トルク 58.0kg-m/3700rpm
ギアボックス 6速オートマティック

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