運転は驚くほどシンプル AECリージェントI 486へ試乗 1931年式ロンドンバスを修復

公開 : 2022.12.28 08:25

長年放置されていた1台のロンドンバス。見事にレストアされ路上復帰を果たし、英国編集部が試乗の機会を得ました。

自家用車が普及する前の移動手段

90年前、毎日の通勤をアシストしてきた1台のロンドンバス。ところが、耐用年数を迎える前に現役を引退。戦後は、スクラップ置き場に放置されたらしい。幸いにも、破壊は免れたが。

グレートブリテン島の西部、ヘレフォードシャーで住宅として使われているのが発見されたのは1969年だった。ロンドンバスの保存協会が買取り、レストアに挑むものの断念。2012年に再開されるが、交換用エンジンの費用が高すぎ2018年に再び滞った。

AECリージェントI 486(英国仕様)
AECリージェントI 486(英国仕様)

しかし保存協会は諦めることなく、2022年6月にメカニズムのリビルドを完遂。1931年12月4日にバーミンガムで任務を開始したAECリージェントI 486は新車のような姿に復元され、公道を走れるまでになった。

レストアは、バーミンガム都市交通の前身、バーミンガム・コーポレーション・トラムウェイ&オムニバス社によって委託された、60のプロジェクトのうちの1つ。現在はワイサル交通博物館に所蔵されているが、今回は特別に試乗が許された。

自家用車が今のように普及する前、祖父や祖母はこんなバスへ毎日のように乗っていた。当時、リージェントI並みに市街地を快適に移動できる乗り物はなかったといっていい。

このリージェントI 486は初期の金属フレームを備える、貴重な1台に当たる。ボディトリムにはクロームメッキが施され、ウッドパネルには分厚くニスが塗られ、ボディパネルは美しくカーブを描く。フロントガラスはチェーンで上部が開閉する。

エンジンはリージェントの7.4L 直列6気筒

オリジナルのリージェントI 486には、6.1L直列6気筒のエース社製ガソリンエンジンがボンネット内に搭載されていた。豊かなトルクで、石畳の敷かれた道を週に約1300km走っていた。

しかし就航から6年後の1937年、早々に現役を引退。5.0L 5気筒のガードナー社製ディーゼルエンジンを搭載した、デイムラーのバスへ交代している。

AECリージェントI 486(英国仕様)
AECリージェントI 486(英国仕様)

現在は、リージェント用の7.4L 直列6気筒エンジンが搭載されている。オリジナルの6.1Lユニットは、もはやどこに消えたのかわかっていない。燃費は3.2km/Lということで、現在のディーゼルエンジンを載せたバスよりだいぶ良い。

先日といってもだいぶ前だが、レストアを終えたバスの除幕式があった。筆者も、バーミンガムの市街地で行われた試乗会へ招いていただいた。

当然のように、足は自然と階段へ向かった。2階へ登り最前列のシートへ陣取った。シートは肉厚でスプリングが効いていて、レザーで仕立てられていた。クロームメッキで上等に仕立てられた車内から、気持ちよく周囲のクルマを見下ろせる。

ダーク・ブルーとクリーム・イエローのツートーンで仕上げられた2階建てバスが、21世紀の交通をすり抜ける。当時の喫煙者は、揺られながらシートの目の前にある灰皿へ、吸い殻を擦りつけていたのだろう。

停車ボタンへ指を伸ばし、次のバス停で降りる意思を伝える。階段の下り口では、車掌が手を伸ばし料金を求める。スタイルだけ。本当は運転してみたい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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