運転は驚くほどシンプル AECリージェントI 486へ試乗 1931年式ロンドンバスを修復

公開 : 2022.12.28 08:25

紆余曲折のレストア費用は約8300万円

博物館へ戻ると、リージェントIを運転してみないかと提案してただいた。レストアに50万ポンド(約8300万円)の費用が掛かった、貴重なクラシックカーを。

重心位置はかなり高そうだ。運転席は狭く、大人1名ぶんのスペースしかない。責任は重大だが、もちろん喜んでお誘いを受けることにした。基本的にはクルマの1つだ。

AECリージェントI 486(英国仕様)
AECリージェントI 486(英国仕様)

運転を指導してくれたのは、博物館のボランティア・チームの支援を受けながらレストアを率いた、ロブ・ハンドフォード氏。ロンドンバスの愛好家が発見し、メタルフレームの貴重な例が復活するまでの思い出を交えながら。

修復作業は紆余曲折を経ながらも進まず、やむなく1973年にハンドフォードがバスを買い取った。レストア・プロジェクトをバーミンガムで立ち上げたという。

1978年に、ワイサル交通博物館へ老朽化した状態でバスは届けられるが、2012年までは資金難でカバーが掛けられた状態だった。費用のめどが立つと、ボディとシャシーはロンドンの南、ドーキングを拠点にする職人のイアン・バレット氏へ託された。

彼はオリジナルの原寸大図面を偶然発見。それ以降は比較的順調に進み、2018年におおかたの作業は仕上がった。だが、肝心のエンジンがまだった。

「メカニズムのリビルドは、別の会社へお願いしていたんです。ところがエンジンは磨かれ、塗装されただけでした」。ハンドフォードが振り返る。

高級車のような風情の運転席

「コンロッドを支える、ビッグエンド・ベアリングが壊れていました。冷却系は詰まっていて、最終的に165か所の不具合があったんですよ。リビルドにはかなりの費用が掛かりましたが、ボディとシャシーは見事に仕上がっていたので、断念できませんでした」

彼はボンネットを持ち上げて、真新しいエンジンを見せてくれた。ボディのディティールにも見入ってしまう。フロントガラスを固定するボルトが、一列にピシッと並んでいる。

AECリージェントI 486(英国仕様)
AECリージェントI 486(英国仕様)

塗装だけでなく、ボディサイドのレタリングとストライプも完璧。モケット張りの運転席は、高級車のような風情がある。

ハンドフォードは、この水準の修復技術を持つ職人が減っていることへ、危機感を抱いている。「エンジンをリビルドした人はCOVID-19の流行で仕事が減り、そのまま引退してしまいました。彼にはスタッフがおらず、貴重な技術が失われたんです」

高い位置の運転席へ、ハンドブレーキ・レバーやシフトノブへ傷をつけないよう、慎重に乗り込む。「クラッチを切って2速へ入れて、ブレーキペダルを踏みながらハンドブレーキを解除します」。ハンドフォードが外で説明してくれる。

「少しアクセルペダルを倒せば発進できますよ」。約6.3tの重さがあるバスが、ガイドなしに駐車場から出発した。リージェントIは4速マニュアルを介して、リアタイヤを駆動する。滑らかな変速をするには、ダブルクラッチが欠かせない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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