クルマ漬けの毎日から

2016.05.28

わたしと愛車の約束ごと

Driving is something we must plan to deliberately enjoy

 
テスラの創始者でCEOのイーロン・マスクは高慢な人間ではない。彼が珍しくイギリスにやって来た時に二度インタビューしたことがあるので、このことを知っている。だから、テスラが発表した3万5千ドルのモデル3は、新型モデルとして一週間で史上最高の受注台数を記録し、その数は現在約40万台に達していると彼が明らかにした時、これは自動車の131年間の歴史上、1台の新型モデルに対する消費者からの異例な支持だと思わずにはいられなかった。

もちろん過去にも、クルマの需要に関するおどろくべき統計はいくつもある。たとえば、ヘンリー・フォードは1925年の一年間だけで200万台を超えるT型フォードを販売した。つまり、当時の販売店は日曜が休業だったとすると、一日に6400台を販売した計算になる。さらにその40年後には、フォード・マスタングがデビューから18か月間で販売台数100万台を突破した。当初、マスタングの販売見込みは年間10万台ほどにすぎないだろうと予想されたのだが。

 
むろん、ジャーナリストはマスクの発表に反論しようと列をつくって待ちかまえている。新たにテスラのオーナーになる30万人以上の人たちが、一人あたり1千ドルを支払っているとはいえ、この前金は払い戻しが可能で拘束力を持っていない。モデル3に関心があると意思表示をしただけで、契約が成立したわけではないと主張する。モデル3は現在注文を受けつけている段階で、その台数を実際に製造し、納車するという仕事がまだマスクには残されている。とはいえ、このエピソードは歴史的な出来事だと考えずにはいられないし、われわれみながこの出来事を喜ぶべきだと思う。

 

 
シルバーストンへ行き、世界耐久選手権(WEC)の初戦を観戦した。LM-GTE Proで大きな注目を集めたのはフォードだった。というのも、今年からフォードはル・マンを目指してWECのグリッドに姿を見せているのだ。彼らがル・マンで1-2-3フィニッシュを果たしてからまもなく50年になろうとしている。この日のレースが重要だった理由は、ラジ・ネアを筆頭にフォードの上層部が顔を見せていたからだろう。ラジ・ネアはフォードのグローバルプロダクト開発担当副社長で、レースに熱心な人物である。

ネアが6時間ずっと見守ったレースで、フォードは3位と4位に入った。ドライバーのラインナップがベストであることを考えれば、素晴らしい結果とは言えないが、新型GTには実績のあるパワートレインが備わっており、このクラスに非常によく適している。だが、モータースポーツに精通した人たちは、シーズン当初の結果には注意するようにと言う。なぜなら、 WECのマシンは成績がよいと性能調整を課せられるからだ。フォードは、6月にフランスで行われる24時間レースまで一歩も譲りたくないだろう。

 

 
週末が近づくたびに、生産終了前にランドローバー・ディフェンダーを買わなかったことをわたしはくよくよ悩み始める(マット・プライアーが長期テストで乗ったディフェンダーの価格を問い合わせたが、とんでもない高値だった)。ディフェンダーはわたしにとって、週末に乗るクルマの典型なのだ。

かみさんはこの状況にうんざりしていて、こんな事実をわたしに突きつけてくる。今、PistonHeads(自動車情報ウェブサイト)には、462台のディフェンダーが売りに出されている。これにAuto Trader誌に掲載されている台数を合わせると、このふたつの情報は多少重複しているだろうが、それを見込んでも700台を超える。高値がついているものを対象外とし、また販売地域をわたしの家から半径100mile(約160km)までに限定しても、まだ300台余りのディフェンダーが売りに出されている。もう買うしかない。

 

 
ピカピカの白いフォード・マスタングのコンバーチブルに乗って、イングランド南西部のグロスターシャーを朝6時に出発した時、太陽はすでに照りつけていた。目的地はグッドウッドだ。“ソフトトップ・サンデー” と名づけられた今年最初のグッドウッド・ブレックファーストクラブに参加するため、(場所取りをすることもあり、)わたしたちは8時前に到着した。そしてバラエティに富む極上のクルマが並んでいるのを見て、思わず歓声をあげた。それに、駐車場に向かう車両で渋滞になるほど大勢の観客が詰めかけたことにも驚いた。

マスタングはハイギヤードだったから、グッドウッドまでの道中は楽しかった。わたしの後ろを10年前に登録されたアストン・マーティンのV8ヴァンテージ・ロードスター(価格は4万ポンドを超える)が走ってきた時、4万ポンド(650万円)以下で手に入るマスタングは、その存在感とパフォーマンスを考えるとお買い得なクルマだと思った。この日、新型マスタングでやって来ていた人は他に見なかったが、順番待ちリストに名を連ねて新型の納車を心待ちにする人たちにはたくさん会った。

 

 
週末にグッドウッドで見たクルマが、新しい週が始まってもまだ気になっている。われわれが注目したのは、陽気な二人の男性が乗ってきたミニ・モークだった。ポルシェ911はいつも人目を引くクルマだが、ミニ・モークは、これまで見たどの911よりも大勢の人を引き寄せていた。いったいモークの価格はどのくらいなのだろうと思い、こんな時だれもがそうするように、わたしも情報を探し始めた。ちゃんと動かない個体が6千ポンド(約100万円)、程度がよくて錆ついていない個体が1万2千ポンド~1万4千ポンド(約180~220万円前後)、そしてレストアされたばかりで新品のような個体は2万5千ポンド(約400万円)もするのをご存じだろうか?

この情報は、クラシックカーの販売をしている友人、ニール・ディクソン(ウィルトシャーのザ・ヘアピン・カンパニー)から聞いたのだが、ディクソンの店では今、程度のよいミニ・モークを2台売りに出しているという。聞いた話では、ミニ・モークにとりつかれた人は、走行距離の少ない完璧な個体ならば、4万ポンド(650万円)以上の価格がでも買うという。モークが魅力的なのは、風雨にさらされていても運転が楽しめる古いクルマはめったにないからだ(最近では、そういうクルマはさらに少ない)。2CVベースのシトロエン・メアリに異常な高値がつくのも同じ理由だ。

 

 
最近、 “ドライブ” についてますます思いが強くなっていることがある。今の時代、クルマの運転は毎回楽しめるのが当然のものではなくなり、楽しいドライブになるように意識的に計画するものに変わってきている。わざわざ混雑する時間帯に渋滞する道を走っても楽しくないというボヤキはもう聞き飽きた。それよりも服を選び、靴を選び、ルート、天候、クルマも選ぼう。そしてドライブに出掛けられる日に焦点を合わせるのだ。早起きも忘れてはならない。そうすれば、この時代でもきっとクルマで出掛けるのが楽しくなるはずだ。

translation:Kaoru Kojima(小島 薫)



AUTOCAR 英国版 編集長 スティーブ・クロプリー

オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。新しく独特なものなら何でも好きだが、特に最近はとてつもなくエコノミカルなクルマが好き。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。

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