想像以上に「歴然な変化」 ポルシェ911 GT3 RSへ試乗(2) 魅力的なマシンへ進化させる楽しさ

公開 : 2024.01.24 19:06

最新の911 GT3 RSへ実装された、広範なシャシーの調整機能 細かな設定は明確な違いを生むのか 英国編集部がシルバーストン・サーキットで確認

差は想像以上に歴然 攻め込む自信が高まる

基本的な特性は、ある程度理解している。高速コーナーでボディロールを最小限に抑えれば、タイヤとアスファルトが接する面積が維持され、高いグリップ力を保てる。旋回速度が高まり、ラップタイムも縮まる。

すべてのコーナーの条件が理想的で同じなら、ダンパーを伸縮と伸長でそれぞれ+4にし、一番引き締めれば良いのかもしれない。ポルシェ911 GT3 RSの設定は終了だ。

ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)
ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)

ところが、路面温度が低く若干滑りやすい状態では、クルマの挙動が尖すぎると感じるはず。操る自信を抱きにくくなる。机上では最速の設定でも、路上ではさほど速くない可能性がある。

最初に、すべての設定を初期値の「0」にし、朝露で濡れたシルバーストン・サーキットを数週。技術者のアレハンドロ・ヒメネス氏は、路面を乾かすため再びコースインを指示する。理想値を見つける以前に、限界領域の挙動へ慣れることも意図している。

次に、ダンパーの圧縮と伸長を−4の最もソフトな状態へ変えて4周。その後、+4のハードにして4周。その差は想像以上に歴然だった。

最もソフトな状態では、操舵感はダルくなるものの、流れるような身のこなしでバランスを探りやすい。攻め込む自信が高まる。トリッキーな路面状態にある、シルバーストンのレイアウトを覚えるのにはベストに思えた。

他方、最もハードな設定では、弾いたようにノーズが向きを変える。しかし、明確に安心感が薄まる。オーバーステアとアンダーステアの境界が狭く、リズミカルにラインを追求するのが難しい。

徐々に魅力的なマシンへ進化していく

まるで、異なる2台のポルシェへ乗り換えたよう。しかも、ジャッキアップすることなく、この変化を与えられることへ驚く。

ベストラインだけだが、路面が徐々に乾燥し、細かな調整が始まる。フロントのダンパー以外を0にし、圧縮のみ−1にしてコースイン。次に+1、更に+3で数週づつ走る。集中することで反応の変化へ敏感になり、違いを理解するだけで満足感が得られる。

ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)
ポルシェ911 GT3 RS(英国仕様)

フロントダンパーの圧縮は、変化を感じ取りやすい。クルマとの絆が増す。グリップ力も変わる。トリッキーなコーナーの連続が、魔法をかけたように滑らかな一連の曲線に思えてくる。

それ以外の変化は、理解が難しかった。リアダンパーの圧縮は、大きな違いを生まないように感じた。対して伸長側は、ハードブレーキング時にリアタイヤの安定性を高めるのに効果的なようだ。

それでも、細かい調整を重ねることで、911 GT3 RSは徐々に魅力的なマシンへ進化していく。すべてのパラメーターを確認し終えた段階で、同時に組み合わせてみる。以降の調整は、繊細に施す必要がある。予想ではなく、結果を受けて決めていく。

調整には、終わりがないようにも思える。ダンパーのパラメーターを1つ選ぶだけでも、無駄に想像力を使い、混乱してしまうかもしれない。

悩んでいる間に、シンプルなシャシーのフォルクスワーゲン・ゴルフ GTIのドライバーは、素直に楽しんでいるだろう。ドライバーの技術ではなく、シャシーの技術で楽しもうとしてしまう可能性もある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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