14.1:1のステアリング・レシオはC63ならではの設定。ずっしりとした感覚をもたらすものの、操舵から旋回までに感覚的あるいは時間的なラグは一切ない。精緻さは、シャシーの完成度の高さと同列である。

先代の油圧ステアリングに熱狂的なファンがいることは筆者ももちろん存じ上げてはいるけれど、ひとたび現行型の初期操舵の素早さを味わえば、これはこれで一種の依存性があると感じる。

ワイドになったトレッドと、角度の増したキャンバーがこのような結果をもたらしているのは言うまでもなく、懐の深いステアリング・システムは、無条件に身を委ねられる一貫した安定感も持ち合わせている。

並外れたグリップを発揮するミシュラン・パイロット・スーパー・スポーツと、優れたダンピングのおかげで、かなりの速度でコーナーに侵入し、そこからさらにガス・ペダルを踏み込んでも破綻する気配はない。

気配がないどころか、どのようなコーナーでも ”もっと踏め！” と促されているように感じるほど。電制ディファレンシャルのもたらす常軌を逸したトラクションのおかげで、無敵とさえ思えたのはここだけの話である。

AMGドライブ・セレクト・システムのいかなるモードを問わず、乗り心地はかなり硬め。ただし、ショック吸収からリバウンド・プロパティまでの徹底的な見直しのおかげで、先代に見られた ’頑固さ’ は皆無だ。

しかしやはり走りに特化したモデルだけに、太いタイヤが路面を擦る際のノイズはかなりのもの。路面状況によっては車内にゴーという騒音が反響することがあるため、長距離の安楽さを求めるならば、他をあたった方がいい。

■「買い」か?

走りの面ではメルセデス AMG C63 Sは大成功を遂げたといっていい。先代のC63、いや、現行のBMW M3をも上回る出来栄えであると、自信をもって書いていいだろう。

単にパワフルになっただけではなく、経済性やクルージング性能をきちんと高めてきた点は賞賛に値する。またクラスを牽引する内装の質感が確保されている点は、もはや真似のできない領域に達したと見ることもできる。

群を抜いたレスポンスやバランス、ハンドリングは、ドライバーを安心させてくれるだけではなく、いかなる路面状況でも自信をもってアタックできる。

とてつもなく完成度の高いクルマが誕生した。

(グレック・ケーブル)

メルセデス-AMG C63 S

価格	£66,545(1,223万円)
最高速度	249km/h
0-100km/h加速	4.0秒
燃費	12.2km/ℓ
CO2排出量	192g/km
乾燥重量	1730kg
エンジン	V型8気筒3982ccツインターボ
最高出力	510ps/5500-6250rpm
最大トルク	71.3kg-m/1750-4500rpm
ギアボックス	7速オートマティック