ミッレ・ミリア 2016

2016.5.19-22

text & photo:Kunio Okada (岡田邦雄)

 
5月から6月は昔も今もモータースポーツのハイ・シーズンだ。いつからか、世界3大レースなどと称されるようになったモナコ・グランプリ、ル・マン24時間レース、インディ500マイル・レースもこの時期に開催されている。ミッレ・ミリアもまた同じ時期に開催されているが、もしも1957年で中断しないで、そのまま続いていれば、ミッレ・ミリアも含めて、世界4大レースと称されていたことだろう。それぞれが際立つ特徴があり、また長い歴史もある。そして何よりも人々を熱中させ、興奮させ、感動させるドラマが起きるレースとなっている。それだけにドライバーにとっても、あらゆるレースのなかで最も価値のある栄誉となっている。

周知のとおり、スピードレースだったミッレ・ミリアは1927年に始まり、1957年で中止となった。そして1980年代からは、往時のミッレ・ミリアに参加していたヒストリックカーによるラリーとして復活した。しかも、イタリアの公道を当時と同じ、ブレシアを出発してローマで折り返して、またブレシアに戻るという、イタリア半島の北半分を周回するルートを、当時と同じ距離、すなわちミッレ・ミリアとは1000マイルという意味なので1600kmという長距離を走る。当時は連続して走り、最速のクルマは10時間あまりで走っていたから、平均速度は150km/hを超えていた。

現代の復刻版ヒストリックカー・ラリーでは4日に分けて走る。それでもヒストリックカーにとっても参加者にとっても、過酷でチャレンジングだ。最初はノスタルジーから再開されたのであろう、現代版ミッレ・ミリアは回を追うごとに人気を集めてきた。ヒストリックカーのラリーとはいえ、公道を何百台もの参加車が走る様は、見学者にとっても見応えのあるものだ。参加者にとっても自分自身が往年のミッレ・ミリアの参加者と同化するような錯覚を覚えるほどお膳立ての揃った舞台になっていて、そこが人気の理由だろう。

イタリアでは公道を走るヒストリックカー・ラリーは多く開催されているが、ミッレ・ミリアほど、たくさんの観客が沿道で声援を送ってくれるようなイベントは他にない。これこそ往時からの伝統のなせるわざだろう。今年も世界中からやってきた参加者たちが、かつてこのルートで活躍したクルマたちを走らせた。これこそは、自動車の100年を超える歴史へのリスペクトを込めた21世紀にふさわしいモータースポーツといえないだろうか。私は現代のミッレ・ミリアも含めて、世界4大レースと称してもいい時代にそろそろなりかけてきているように思うのだ。

  • 1955年型ランチア・アウレリアB24S。かつてのミッレ・ミリアはここヴィットリア広場から始まった。今でも、参加手続きの最後にこの広場の出口でVERIFICATO(合格証明)をもらってから、スタート会場に向かう。

  • 1953年型OSCA MT4 1500 2AD。マセラティ兄弟がマセラティ社を手放し、故郷のボローニャで設立したのがオスカだ。戦前のマセラティのようにジェントルマン・レーサーを顧客とし、高い志でレーシングカーを作り続けた。

  • 1954年型アーノルト・ブリストル。アメリカ人のスタンレー・ハロルド・アーノルトの企画により、ブリストル403をベースにスカリーオーネ時代のベルトーネによるボディを載せた。エンジンの基はBMWの設計だ。

  • 1952年型フェラーリ225Sベルリネッタ・ヴィニャーレ。戦後のミッレ・ミリアを支配したのはフェラーリだった。1947年に再開されてから1957年までの11回のうち8勝を挙げている。225は、2700ccのエンジンを意味する。

  • 1947年型チシタリア202B。2次世界大戦後のイタリアで最初に大活躍したメーカーがチシタリアだ。実業家にしてレーサーのピエロ・ドゥジオにより創立され、夜空に輝く大輪の花火のように美しい思い出を残して消滅した。

  • 1954年型アルファ・ロメオ1900スポルト・スパイダー。アルファ・ロメオは戦後にレース活動を再開するとグランプリを席巻した。これはプロトタイプのバルケッタでムゼオ・アルファ・ロメオ所蔵品車である。

  • 1950年型フェラーリ275S/340アメリカ。1950年のミッレ・ミリアではツーリング・バルケッタでアスカリが乗った。その後、大排気量の340エンジンが搭載され、1954年のミッレ・ミリア後に現在の姿に変わったという。

  • 1955年型フェラーリ857S。V12のイメージが強いフェラーリだが、様々なタイプが存在する。スポーツカーでもランプレディ開発の4気筒エンジンを積む857S活躍した。この857Sに乗るのはマーク・ニューソン夫妻である。

  • 1953年型フィアット 8V。フィアットの技術力は高く、GPから撤退するまで最速のマシンを製作していた。その技術陣の希望で1952年に独創的なベルリネッタ8Vが誕生。同時期に開発したタービンカーと共通のイメージだ。

  • ランチア・ラムダ・ティーポ221。ヴィンチェンツォ・ランチアはフィアットお抱えのレーサーとして活躍したが、やがて、高品質高性能の独自のクルマを開発する。ラムダは特に当時の水準超えるクルマとして高く評価される。

  • 1955年型ポルシェ550RS。第2次世界大戦後のポルシェはチシタリアへの技術支援により復活し、自前のスポーツカーの開発に乗り出した。ミッドシップのRS(レンシュポルト=競争自動車)は1953年から登場した。

  • 1953年型 HWM。HWMはイギリスで品質の高いアルタのエンジンを搭載し、1950年代に活躍したレーシングカー・コンストラクターである。スターリング・モスやピーター・コリンズなどの活躍で歴史に残っている。

  • 1949年型ジアンニーニ 750S。ジャンニーニはローマのフィアットのチューナーとして技術力があった。このシルッロ(魚雷型)の車両は1950年ミッレ・ミリア出場車。奥は4気筒1484ccの1956年型マセラティ150S。

  • 1956年型フィアット1100TVヴィニャーレ。一見して何かわからない車両だろう。’50年代にはイタリア中に多くのカロッツェリアがあり、フィアットの大衆車をベースに一品制作のクルマを顧客の好みで造れた時代だった。

  • 1951年型エルミーニ1100S。フィレンツェのパスキーノ・エルミーニによって開発されたスポーツカー。オスカより速く、最近再評価され人気も高い。この1100Sは日本からの参加で1951、1952年のミッレ・ミリア出場車。

  • アルファ・ロメオ6C 1750ザガート。戦前のミッレ・ミリアの主役はアルファ・ロメオ。12回中10勝を挙げスクーデリア・フェラーリの勝利も含まれる。ミッレ・ミリアは、イタリア人のためのイタリア人によるレースだ。

  • アルファ・ロメオ6C 1750 GSカスターニャ。定番ボディはザガートとトゥリングだ。19世紀創業のカスターニャは馬車の時代から貴族のための豪華な車体を制作しており、クルマにおいても伊達なスタイルで人気があった。

  • アルファ・ロメオ6C 1750GTカブリオレ。アルファ・ロメオが高性能スポーツカーとしてのイメージを確立したのは、GPカーに加え、市販車である6気筒の1500と、その拡大版である1750によるところが大きい。

  • 1951年型シアタ・ダイナ・グランスポーツ。シアタはフィアットの技術陣と交流があり、時にはフィアットの技術実験の車両開発を行った。ダイナは4気筒1400ccエンジンを搭載し、ベルリネッタとスパイダーがあった。

  • 1948年型ザヌッシ750S。フィオラヴァンテ・ザヌッシが知られたのは1939年に彼が改造したFIAT508がイタリアのチャンピオン獲得だ。戦後は主に750ccクラスで活躍。このザヌッシ750は1951年ミッレ・ミリア出場車。

  • 1950年型エルミーニ1100S。このマシンはピエロ・スコッティが乗り、1950年のイタリア・チャンピオンになったという。ならば筆者が以前所有していた車両だ。リボディされシルッロからバルケッタへの移行期スタイル。

  • 1954年型フィアット1100ザガート。ザガートはレース用ボディに長け、他のカロッツェリアより軽量で空力に優れる。特にリヤに向かいすぼまる形態が理に適っている。日本にも同型車が存在するが永らくレストア途上にある。

  • 1951年型エルミーニ1100S。ブガッティの修理などで経験を積んだパスキーノ・エルミーニは高性能ビアルベーロ(DOHC)エンジンを開発し、ジルコ製の堅牢な鋼管フレームに載せた。これは1951年ミッレ・ミリア出場車。

  • 1955年モレッティ750S。1926年創業のモレッティは2輪車から始まり、戦争中は石油不足から電気自動車を生産。戦後は750ccのセダンからビアルベーロのスポーツカーやレーシングカーを生産。これはル・マン出場車。

  • 1929年型OM 665シュパーブSS。1927年第1回目のミッレ・ミリアの覇者はOM665だった。今回もゼッケン2から12まではOMだった。夜のローマに到着したOMは1930年のミッレ・ミリア出場車。6気筒2200cc。

  • 1938年型BMW 328。BMWはオースチン7のライセンス生産から自動車を作り始めたが、1937年には最も進歩的なスポーツカー328を生み出す。1939年のミッレ・ミリアは休止となったが翌年に再開され328が優勝した。

  • 1947年型ヒーレー2400エリオットA。トライアンフの技術者兼レーサーのドナルド・ヒーレー。戦後は自らの名を冠したクルマを作り始める。エリオットAは初期タイプで13台、Bに発展し86台、最終のCは5台作られた。

  • 1948年型ヒーレー・ウエストランド・ロードスター。1950年までのヒーレーはシルバーストンを含め、一部を除きライレーの4気筒2400ccエンジンで、ミッレ・ミリアやル・マンにも積極的に出場した。またロードスターやシユーティングブレークも用意された。

  • 1949年型ベルナルディーニ1100S。戦後のイタリアでモータースポーツが人気で、各地で公道を閉鎖してレースが催された。そこで各地で町工場に中古のフィアットを持ち込んでレーシングカーが造られた。このベルナルディーニもその1台で、508Sがベース。

  • フィアット1100Eザガート。さすがに町工場とはレベルが違い、ザガートのようなカロッツェリアに持ち込めば、マシなものが出来上がった。これもフィアット508から進化した1100がベースだが、美しいベルリネッタとして生まれ変わっている。

  • 1938年型フィアット508 C MM。フィアットはGPから撤退すると大衆車の開発に専念した。そこで生まれたのが508バリッラとトポリーノだった。素性が良いだけにスポーツカーも派生した。この508MMは最先端の空力を纏い、戦後は1100MMに進化した。

  • 1948年型マセラティA6GCS。戦後すぐのフェラーリやマセラティはフェンダーを外せばフォーミュラとして走れるシルッロ(魚雷型)から始まる。グリルにライトが1灯からモノファーロ(一つ目)と呼ばれた。OHC6気筒1978ccエンジン。日本からの参加車。

  • 1951年型シアタ・アミカ。可愛らしいカブリオレの前期型では独自のチューブラー・フレームを持つが、後期型ではフィアット・トポリーノのラダーフレームをそのまま使う。エンジンはトポリーノ用をシアタでチューンした。日本にも前期型が1台のみ存在する。

  • 1956年型OSCA S187。初期のオスカはOHC4気筒だったが、ビアルベーロ(DOHC)に進化。主に1100〜1500ccの各クラスで最速の活躍をした。1956年に登場したS187も、1957年から1960年まで4年連続で750ccクラスのイタリア・チャンピオンとなった。

  • 1955年型OSCA MT4 1500。オスカには様々なボディがあるがこのロングテールとほぼ同じスタイルで1955年のル・マン24時間レースでは総合11位でフィニッシュした。こちらは同年のミッレ・ミリア出場車で、その時のゼッケン番号が558番だった。

  • 1954年型OSCA MT4 1500。スポーツカーレースでオスカは多くのクラス優勝を遂げ、時には大排気量車を打ち破り総合優勝を飾った。このMT4はツイン・プラグの新型エンジンで1955年のミッレ・ミリアに出場したが、ポルシェ550RSに阻まれクラス2位。

  • 1949年型ジャンニーニ750 S。女性同士の参加車両も1台や2台ではない。こちらはロシアのアンナさんとタチアナさん。参加車中最も非力といえるトポリーノのちっぽけなエンジンを搭載した無防備なジャンニーニ・シルッロで、いつも笑顔で駆け抜けていった。

  • 1955年型ランチア・アウレリアB24S。ヴィットリオ・ヤーノが手掛けた高性能V6エンジンを持つアウレリアのスパイダーがB24で、Sはシニストラ=左ハンドルを意味する。標準は戦前から高級車の伝統を守る右ハンドルだった。マガリアーナ姉妹が乗る。

  • 1957年型サーブ93。航空機会社のサーブが第2次世界大戦中から開発を始めたクルマは、何よりスウェーデンの風土にあった国民車だった。果たして雪道に強く、国際ラリーで活躍した。最近、とうとうその名前も無くなってしまい、哀悼の意を表しておく。

  • 1927年型ブガッティT37A。レースの世界で最初にブガッティの名前が評判になったのはブレシアのレースでT13の活躍だった。T37はT13の後継車といえる4気筒の扱い易いグランプリカー。Aは37のスーパーチャージャー装着モデル。ゴールまであと500mだ。

  • 1935年型フィアット508バリッラS MM。ミッレ・ミリアのベテラン・コンビのバリッラ・スポルト。当時このクラスで最もバランス良く高性能で、戦後の1100に進化して長寿を全うする。ミッレ・ミリアでも長い間508Sや1100ベースのバルケッタが活躍。

  • 1954年型ジャガーXK120ロードスター。今やミッレ・ミリアは世界中から参加者が集まる国際ラリーだ。今回も40カ国以上の国からエントリーがあった。これだけ多くの国からの参加するモータースポーツは他に無いだろう。こちらは日本からの参加者が乗る。

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