【戦後の高級サルーンを遺す】ベントレーとアームストロング・シドレー 後編

公開 : 2019.12.15 18:50  更新 : 2020.12.08 10:56

混迷の英国から誕生した、ベントレーMkVIとアームストロング・シドレー・サファイア346という2台。重役に束の間の休息を与えた、高級なミドル・サルーンでした。極めて状態の良い2台を所有するオーナーは、次代への継承を心配しています。

時間と費用を掛けて維持してきた2台

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
今回取材したベントレーMkVIとアームストロング・シドレー・サファイア346は、その独創性と歴史で、比較対象として面白い。

どちらも、エンスージァストでジャガーの専門家でもある、ロバート・ヒューズが所有する。これまでに相当な時間と費用を掛けて、2台のクルマを維持してきた。特に走行距離2万2530kmのサファイア346への思い入れは強い。

アームストロング・シドレー 3.4/346(1953年〜1959年)
アームストロング・シドレー 3.4/346(1953年〜1959年)

6ライト・ボディのサファイア346オートマティックは、1990年代初頭まで現役で、オーナーが亡くなったのと同時に休眠。オーナーの娘に引き継がれ、2015年にヒューズのガレージにやってくるまで、何度も修復を受けていた。

エンジンはリビルトされ、エンジンルームもリフレッシュ。ボディの塗装は一度剥がされ、塗り直されている。インテリアも丁寧にレストアを受けている。ウッドパネルはオリジナルを用いて丁寧に磨き込まれ、若返った。

レザーシートは特注のシートカバーで覆われ保護されていたが、オリジナルのカーペットは虫食いで傷んでいた。ヒューズは新しいものに張り替えず、コストを惜しまずカーペットとラグを修復に出した。

仕上がったサファイア346は、2019年7月に開かれたアームストロング・シドレー・オーナーズクラブ・センテナリー・ラリーに参加。103台がエントリーしたが、ベスト・サファイア賞とベスト戦後シドレー賞をダブル受賞している。

一方のベントレーMkVIは6年前に入手したそうだ。1952年式で、走行距離は9万9800kmほど。1家族によって大切に所有されてきたクルマで、小さい荷室に大きなエンジンを搭載した珍しいベントレーだ。

スフィンクスのマスコットにジェットエンジン

当時は明らかになっていなかったが、158psの最高出力を持つ、フルフロー・オイルフィルターを備える4.6Lエンジンを搭載。初代オーナーはベントレーMkVIの納車から3年後に亡くなり、兄弟とその息子へと引き継がれた。

1950年代に家族とともにスコットランドへ出かけた時の写真と、供給元のディーラーによる書類も残っている。2013年までの70年近い経緯ははっきりわかっていないものの、ヒューズの友人が3年間所有し、ヒューズへと譲り渡された。

アームストロング・シドレー 3.4/346(1953年〜1959年)
アームストロング・シドレー 3.4/346(1953年〜1959年)

フロントシートを傷めないように神経を使ってきたそうだが、1952年当時のオリジナル・レザーをヒューズが偶然入手し、張り替えた。「まだ新品のように見えました。風合いを出すためにボール状に丸めて毛布でくるんで、数日クルマの中に放置したんです」

ボディサイズはサファイア346よりわずかに短く幅も狭いが、ベントレーMkVIの方が存在感が強く堂々としたクルマに見える。どちらも航空機とのつながりを感じさせるデザインだが、アームストロングの方には、ノーズのスフィンクス・マスコットにジェットエンジンが付いている。

ちなみにターボジェット・エンジンを発明した、フランク・ホイットルは、サファイアの有名なオーナーでもあった。

ボンネットを開けると、シリンダーヘッドの中央にプラグが並ぶ。エナメル・ブラックで塗装されたヘッドを持つベントレーより、現代的でコンパクトに見える。ベントレーのボンネットは、中央ヒンジで左右にウイング状に開く点も古さを感じさせる。

おすすめ記事

 
最新試乗記