モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 英国で歓迎されたソ連の大衆車 前編

公開 : 2021.11.28 07:05

冷戦時代のソ連で作られていた、簡素な大衆車。1970年代の英国家庭に迎えられた3台を、英国編集部がご紹介します。

充実装備と安い価格で英国に参入

執筆:Simon Hucknall(サイモン・ハックナル)
撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1970年代の英国の朝。新聞の広告へ目を通すと、威勢の良い見出しが目に飛び込んできた。「モスクヴィッチ、レース初シーズンで総合優勝」。驚いて、喉に朝食を詰まらせそうになった紳士もいたことだろう。

実際、全29戦が繰り広げられた1973年の英国グループ1プロダクション・サルーンカー・チャンピオンシップに、モスクヴィッチ412がノミネート。ほぼノーマル状態にも関わらず、28戦で勝利を収めていた。

ペールブルーのモスクヴィッチ1500、ターコイズブルーのヴァルトブルク・ナイト、スカイブルーとアイボリーのツートーンのラーダ1200
ペールブルーのモスクヴィッチ1500、ターコイズブルーのヴァルトブルク・ナイト、スカイブルーとアイボリーのツートーンのラーダ1200

そんな好戦績を残したサルーンの価格は、717.38ポンド。784ポンドでBMCミニを購入したばかりだと嘆いた人も、いたとか、いなかったとか。

レースで圧倒的な強さを残した理由は、モスクヴィッチ412の破格の値段にある。そのレースの参戦クラスはエンジンの排気量ではなく、公道モデルの定価で分けられていたためだ。

1.5Lエンジンを搭載する412は、トニー・ランフランチ氏のドライブで、排気量の小さいBMCミニやヒルマン・インプと戦った。格違いの戦いとなっても当然といえた。

フォードや英国オペルヴォグゾールオースチン、モーリスといったファミリーカー・メーカーが、日本からの安価な輸入車に押されていた1970年代。そこへ、東欧からも強敵が参入してきた。

今回取り上げる、モスクヴィッチにヴァルトブルク、ラーダといったクルマたちだ。ミドルサイズのサルーンでありながら、価格はミニ並みに安く、英国人を誘惑する充実した装備も搭載していた。

1950年代のデザインに不安定な走り

2段階スピードのワイパーにバックランプ、ロック式の燃料キャップを備える、5シーターのサルーンが、中古車並みの価格で購入できた。産地や銘柄を気にしなければ、冷戦時代の英国ながら、訴求力のあるファミリーカーを新車で選べた。

1969年から1973年にかけて、モスクヴィッチ412は、ステーションワゴンなども含めると1万4500台が英国で売れている。輸出名はモスクヴィッチ1500で、ロンドン郊外の家庭にも浸透したモデルといえた。

モスクヴィッチ1500(1969〜1976年/英国仕様)
モスクヴィッチ1500(1969〜1976年/英国仕様)

製造は当時のソ連、モスクワを拠点としたAZLK社。デザインは古臭さを隠せなかったものの、広々とした車内が特長だった。オールアルミ製のエンジンは最高出力81ps。SOHCの4気筒で、BMWのクロスフロー・ユニットを真似たものだ。

サスペンションはフロントにダブルウイッシュボーン式を採用し、アンチロールバーも装備。0-97km/h加速は15.3秒、最高速度は148km/hと、当時のフォード・コルチナを凌駕した。加えて、1年間か1万6000kmの保証も付いていた。

一方、英国の自動車メディアの評価は振るわなかった。ある雑誌では1973年にモスクヴィッチ1500を試乗し、価格に対する動力性能の高さ讃えた。だがスタイリングと実際の走りには、辛口な内容でまとめている。

「見た目の雰囲気は、1950年代の不完全なデザイン。ステアリングは漫然としていて、サスペンションは減衰力が不十分です。速めのコーナリングでは、ボディロールが大きく不安定になります」

だが、購入を考えている多くの人には、さほど響かなかったようだ。破格の値段に惹かれていたのだから。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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