ジャガーF-タイプRクーペ vs ポルシェ911ターボS

公開 : 2014.05.28 23:50  更新 : 2017.05.29 19:34

昨年コンバーチブルのF-タイプがデビューした際、ポルシェ・ボクスターよりも遥かに高価で、911に迫らんとする車両価格にわれわれはヤキモキしたものだが、今回比較テストを行うジャガーF-タイプRはその価格に引けをとらない、紛れもないハイパフォーマンス・カーと言っても過言ではない。

まずはじめに、われわれはV8エンジンを積んだジャガーのオープンカーに対して尋常ならざる愛を注いでいることをここに公言する。ただし同時に911ターボ・カブリオレと較べてどうか。これに関してはテストをするまでは想像さえつかなかった。その時に分かっていたことといえば、アルミニウム製のシャシーを用いたオープン・トップのジャガーF-タイプは、快楽の果てまでいざなってくれる純粋なスポーツカーだということだ。

一方クーペはー、特に最上位モデルに位置するF-タイプRはーハード・トップの恩恵を受けて強固なキャビンを手にしている故に、コンバーチブル・モデルとはまったく違った一面があるようだ。

まずはそのパワーから見ていくことにしよう。F-タイプRのアルミニウム製V8エンジンが発する550psと言う数字は、コンバーチブルのV8 Sよりも55psの強化がなされていることになる。そんなエンジンがさらにXKR-SとXFR-Sよりも軽いボディに搭載されていると考えてみれば、いったいどれほどのパフォーマンスを発揮できるのか想像に難くないはずだ。

更に価格を考えれば、どうだろう、ポルシェ911ターボSが射程距離範囲内に入ってきたとしても、ことさら不思議でないと思えてくるのではないだろうか。

まずはF-タイプのコックピットに身を収めて高速道路に乗り込む。空気はからりと乾燥し、太陽が燦々とボディを照らす。F-タイプRはまるで、イビーサ島でターン・テーブルを回すDJのようにご機嫌に、そして心地良く100マイルの距離を走り抜ける。

コンバーチブルのF-タイプがデビューした際に、多くの人がそのボディに息を呑んで見入ったはずなのに、クーペになったそれを目の前にすると、更に洗練されたデザイン処理に思わず見惚れてしまうのである。しばらく走るうちに、今回の比較テストにおいてデザインの観点から両者を見た際の勝負は既についてしまったように思える。

なにも美しさは、外観だけではない。ひとたびキャビンを覗き込み、両サイドのショルダー部分が優美に隆起したシートが並べられた姿を見れば、誰もがうっとりとしてしまうに違いない。

デビュー当初、大げさに突き出した4本のマフラーから聞こえる、これ見よがしなエグゾースト・ノートに対してわれわれは度々冷ややかな目線を送ったものだ。今回はどうなのだろうかと思いながら(やや心配しながら)ダイナミック・モードにスイッチしてスロットルを開けてみる。答えはすぐにわかった。大げさなんてものではない。バルブは全開になり、8つの気筒から発生する鼓膜まで震わすようなサウンドは、気の利いた比喩さえも浮かばないくらいの盛大な音量だった。

「さぁ俺を見るんだ!」と言わんばかりの音量に、かなり引け目を感じる人だっているはずだ。筆者でさえも一人の時以外はダイナミック・モードにはできやしないなと周囲の目を気にしながら考えたのだった。

より高価な911ターボSの、セクションが305mmのタイヤや、堂々たる可変ウイングを目の前にしても、それらの迫力は借りてきた猫のように思えるほどの代物である。

ただし、そんな911にはなかなか真似の出来ない魅力があるのことも事実だ。それはツインターボで武装された560psの3.8ℓフラット・シックスの絶大なるパワーだ。エンジンを掛ける、PDKをドライブに入れる、アクセルを踏み込む。たった3つの当たり前の動作のみで、光速より速く地平線の遥か彼方まで飛んでいきそうな加速を一瞬にして引き出すことが可能なのだ。

ポルシェのエンジニアは日常の使用においても不快感を与えないように、特に20インチのホイールとアダプティブ・ダンパーの相性に注力して改良を進めてきた。それだけに、その安定性たるや、ゆるやかなカーブならば240km/h前後でも特に緊張せずに曲がれるほどである。

その反面、不意にキャッツアイや路面の凹凸を乗り越えた場合には不快な突き上げを余儀なくされる。そもそも、表面がつるりとしたアウトバーンを走る時はこの車のピンと張り詰めたサスペンション・セッティングでも問題がないのだが、英国の路面のように凹凸が激しい道路だらけの場合はバランスを損なうことが度々見受けられた。

F-タイプの場合は、そんな国で作られただけに、ジャガーらしいともいうべき器用ないなしを披露してくれる。その上、コンバーチブルのF-タイプに使用されるものより、わずかに高められたバネ・レートはボディ・コントロールの向上にも大きく寄与している。

69.4kg-mのトルクはZF製の8速ATを介して路面に伝えられる。ギアボックスのマナーは追い越しの際にも非常に優秀であった。感心しているうちにウェールズの料金所を越え一日目のテストはあっという間に終わりを迎えた。

テスト2日目。セニーブリッジ北部の田舎道、むせ返るような霧の中にてテストを開始する。最初に走らせたのは911ターボSだ。濡れた路面であるにもかかわらず、一切の不安を与えるなく、ただただひたすらに道路を突き進む。

金属製のシャシーと、重くダイレクトに設定されたステアリングはアダプティブ・サスペンションと相まって、ボディのロールが生じる気配さえも感じさせない。コーナーへ多少のオーバー・スピードで突っ込んだとしてもダイナミック・エンジン・マウントのおかげで、オーバー・ブースト時は76.5kg-mものトルクを車輪に送りながら、涼しげにコーナーをすり抜けていく。

まるで吸い付くかのように路面にピタリと食いつき、途方も無いスピードで空気を劈いていく様は、まさに血の気が引けるほどだ。それもまた、どんな環境であろうが、関係なしにである。車を運転するというよりもむしろ、実弾射撃を行ったときの緊張感に近いのかもしれない。

対するはF-タイプ。粘り強さに関しては今一歩といったところだ。とくに濡れた路面では明白なトラクション不足を感じることがある。ただしコンバーチブルのモデルと比較すると、どの動作においてもワンランク上の剛性であることを誰もが感じられるはずだ。

F-タイプ・コンバーチブルを運転することを”少し危険なエクササイズ”と喩えるならば、Rを運転することは軍隊の演習に近い。絶え間なく流れこむトルク、止まる気配もなく空転し続けるタイヤなど凄烈なキャラクターにひとたび触れれば簡単に納得できるはずだ。優れたモノコックを肌で感じながらエグゾースト・ノートに耳を傾け、数マイル走ればこの車の溢れんばかりの活力を充分に感じられるだろう。

リア・アクスルの直前に腰を下ろす格好で、そう重くないステアリングを慎重に扱いながらロング・ノーズの鼻先を寸分の狂いなく狙った方向へ向ける。電子制御を緩め、FRならではの挙動をあらゆる動作から感じ取りながらコーナーへと飛び込む。ひらりと抜けきったあとはアクセルの繊細な操作により刻一刻と微調整をくわえる。

後輪駆動の車の中でも、これほどまでに従順な車があるだろうか。そう思ってしまうほどの緻密な操作感覚に唸らされる。2世代目にあたるEデフの完成度には四輪駆動のライバルも躍起になって追従してくるはずだ。そう911ターボでさえも。

オフィスへ戻る帰路でも興奮が冷め止むことはなかった。終わりに見えない渋滞の中で、充足感にひたりながらただただ考えるのはF-タイプRの熱狂的な走りだった。

幅広い能力と、コーナーを抜ける度になされる強烈な主張を目の前にして、ジャガーF-タイプR クーペは今現在、最も敬意を払うべきスポーツカーであるというだけでなく、最高のスポーツカーだという結論に至ったのである。

(ニック・カケット)

ジャガーF-タイプRクーペ

価格 £85,000(1,259万円)
最高速度 299km/h
0-100km/h加速 4.2秒
燃費 9.0km/ℓ
CO2排出量 259g/km
乾燥重量 1650kg
エンジン V型8気筒5000ccスーパーチャージャー
最高出力 550ps/6500rpm
最大トルク 69.4kg-m/3500rpm
ギアボックス 8速オートマティック

ポルシェ911ターボS

価格 £140,000(2,073万円)
最高速度 317km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 10.3km/ℓ
CO2排出量 227g/km
乾燥重量 1605kg
エンジン 水平対向6気筒3800ccツイン・ターボ
最高出力 560ps/6500-6750rpm
最大トルク 71.4kg-m/2100-4250rpm
ギアボックス 7速デュアルクラッチ

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