【ロータス・エミーラ同乗試乗】後編 80セットほどから厳選したタイヤ 驚くほどしなやかな乗り心地

公開 : 2022.01.23 18:30  更新 : 2022.02.02 00:23

ロータス・エミーラのプロトタイプに同乗試乗。膨大な手間をかけて厳選されたタイヤと、そのデータを活かして設計されたシャシーは、これぞロータスという走りを見せてくれました。量産版の試乗が、待ち遠しくなるばかりです。

困難を極めた理想のタイヤ探し

その日は雨降りで、サーキットはすべりやすい路面コンディション。助手席に収まる身としては、むしろ神業ドライビングが見られるのではないかと期待した。その点でカーショウは有名だからだが、彼はそれをこともなげにさらっとやってのけるのだ。

テストコースのエプロンをのんびりと横切り、クラブハウスと書かれたプレハブの前を通り過ぎ、われわれを通すためにあげられた遮断ゲートを潜る。キャビンの背後に横置きされたトヨタ由来の3.5L V6スーパーチャージャーは、ここまで滑らかな低音の轟きを聴かせるばかりで、そのポテンシャルをはっきりと示していない。

ツアー/スポーツどちらのシャシーも、標準装備タイヤはグッドイヤー。ここに辿り着くまでの道のりは長かった。
ツアー/スポーツどちらのシャシーも、標準装備タイヤはグッドイヤー。ここに辿り着くまでの道のりは長かった。    Max Edleston

このテスト車はAT仕様で、ツアーシャシーと呼ばれる仕様。このほかにより辛口なスポーツシャシーも用意される。タイヤは20インチのグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ。ハイグリップのミシュラン・カップ2も選べるが、カーショウはそのオプションがよほど特殊なケースでなければ不要だということを、まずは口頭で、続いて実演で、はっきりさせてくれた。

ツアー仕様でもスポーツ仕様でも標準装備されるのはグッドイヤーだが、それはもちろん、このタイヤが十分すぎる性能を発揮してくれるから。「タイヤテストこそがすべてを決めます」とカーショウは言うが、これは「CAEでのシャシーのモデリングは、大部分のタイヤデータに依存して行われるからです」ということらしい。「スクリーン上でいいクルマにするのも悪いクルマにするのも、すべてはタイヤの挙動次第です。おそらく70~80セットをテストして、採用した銘柄を選び出しました。タイヤ担当者は半狂乱になって試乗を繰り返しましたが、彼らはきっちり仕事を理解して、我慢強くやってくれました」。

なにも、量的に大変だっただけではない。満足感と安全性の両面でキーとなるグリップのクオリティも見極めなくてはならなかったのだという点を、カーショウは力説する。究極的な理想は、彼が「スライディンググリップ」と呼ぶ性質だった。これは、もしタイヤがグリップ限界を超えて流れても、常にリカバーしようとする性質を意味するらしい。

コーナリング挙動を知るために必要なロール量

長い間、おそらくカーショウは、サーキット志向に仕立てた自分の作品のうち、かなりの割合がタイヤスモークを巻き上げたことすらなしに走っていることを残念に思ってきたはずだ。ロータスでGTレースでの成功を収めてきた経験や、エミーラを熟知していることを考えれば、彼だってそうすることは可能だったはずだ。

しかし今日は、飛ばすことに決めたようだ。まずは軽くクルマのご機嫌うかがいをしようと、4500rpmあたりでマニュアル変速していく。V6ユニットのレッドラインまでは、まだ2500rpmの余裕がある。市販車に着く予定のパドルは備えていない試作車だったので、変速はスッキリしたループ形状のレバーを横にずらしてから動かして行う。

路面をしっかり捉えてのスタビリティと、俊敏に駆け抜けるアジリティ。普通、そのふたつは相反するものだが、このクルマに関してはどちらも備えている。
路面をしっかり捉えてのスタビリティと、俊敏に駆け抜けるアジリティ。普通、そのふたつは相反するものだが、このクルマに関してはどちらも備えている。    Max Edleston

スピードが乗ってきた。コーナリングもハードになりはじめ、どんどんハードさを増していく。ツーリングシートは身体をしっかり支えてくれているが、クルマは限界スレスレ、いつブレークしてもおかしくない。ところが、ひたすら真っ直ぐ、前へ前へと進んでいくのだ。しかも、ステアリング操作に四苦八苦している風もない。

標準装着のグッドイヤーは、驚くべきグリップを発揮する。カーショウは穏やかにレーシングラインをなぞっていくが、7000rpmまでパワーもトルクも途切れないV6スーパーチャージャーを、そろそろ本格的に回しだしている。

「レッドラインまできっちり回したときの感じは最高ですね」という彼は、このエンジンに最高回転域でのハスキーな叫びを上げさせた。「まったく邪魔なところがないようにしています。そうするために、さんざん手を尽くしましたから」。

このサザンループには、適切なストレートがないとはいえ、それでもセナ・カーブを抜けてチャップマンへ向かうとき、185km/hにゆうゆう到達した。そこから急減速して、右、左、さらに右の急カーブ。ここはグラハム・ヒルからアンドレッティ・ヘアピンだ。クルマはじつにすばらしい。路面をしっかり捉え、俊敏に駆け抜ける。普通、そのふたつは相反するものだが、このクルマに関してはどちらも備えている。

それこそ、グリップ性能のなせる技だ。その限界へ楽に持ち込める場所は、このコースには3カ所しかなかった。急激な右コーナーではオーバーステア。カーショウはこれを楽しみ、ドリフトアングルを自由自在に操ってみせた。グラハム・ヒルの右コーナーへの進入では、意図的にアンダーステアを出す。ここは高速コーナーからの状況変化が難しいポイントだ。

ボディのロールはわずかに感じられた。無駄のまったくない程度に。そのチューニングについても尋ねてみた。「ちょっとだけロールするほうがいいですね。おおむね、そのほうがドライバーにとって利便性があります。出来のいいクルマは初動があって、それによってドライバーはいつ、どこからコーナリングが始まり、どう進んでいくのか直感的に知ることができるのです。完全にフラットなコーナリングをすると、わからなければいけない小さな変化に気づけません」。

これについて、カーショウはあの偉大なレーシングドライバーのエピソードを引き合いに出した。「アイルトン・セナがいつも言っていました。彼が乗った中で、もっとも運転が難しいフォーミュラ1マシンはアクティブサスペンションを装備したものだった、とね。限界がどこにあるのが、予想するしかないからです。ナーバスなフィールで、そのナーバスさは、ロータスの新型車にとってはもっとも不要なものなのですよ」。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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