ジャガーEタイプを現代技術で再生 イーグル・ナンバー1 精神と構造は変えず 後編

公開 : 2022.03.06 07:06

イーグル社による慎重な仕事で蘇ったジャガーEタイプ。25年が経過した第1号車を、英国編集部がご紹介します。

新しい技術を巧妙に古い技術へブレンド

イーグル社のジャガーEタイプ再生プロセスを観察すると、元の基本構造が維持されているとわかる。だが美しいボディは、パネルのシル部分が加工されている。ジャッキポイントの間には、追加の溶接が施されている。

「強固で過剰設計かもしれません。でも、製造時の許容誤差は大きいまま。当時のジャガーが、どうやって短時間に多くのEタイプを製造していたのか、理解できないほどです」。と話すのは、イーグル社のポール・ブレース氏。

イーグル・ナンバー1(ジャガーEタイプ/1995年/英国仕様)
イーグル・ナンバー1(ジャガーEタイプ/1995年/英国仕様)

腐食や変形した部分は切除し、新しい部材へ置換。完成したボディは一度仮組みし、トリムなどのフィッティングが確認される。その後、ボディシェル全体へ腐食保護が施され、塗装される。

シートや内装類は、イーグル社の内製。オリジナルのヒーターボックスを利用した、独自のエアコンユニットも製造している。

ワイヤーハーネスは新調され、追加の電装系にも対応。ダッシュボードには、当時のままのスイッチ類が残される。イーグルの車内の眺めは、基本的にオリジナルに正しい。

新しい技術が、巧妙に古い技術へブレンドしてある。工房ではコンピューター制御の成形マシンの横で、年代物の旋盤が現役で動いている。

サスペンションの変更はシンプルながら、確かな改良が施されている。Eタイプは、新車時から独立懸架式だったから、基本的な構造は変わらない。

別のクルマのように感じさせる操縦性は、アームやリンク類の長さや動作角など、ジオメトリの調整で生まれているという。新しいダンパーとタイヤも活きてくる。

大きく改良されたリアサスとステアリング

イーグル社の一員でもあるジョン・マクラーレン氏のイーグル・ナンバー1には、フェンダーとタイヤとの位置をタイトにするため、6.5Jの15インチ・ホイールが組まれている。ピレリP7のサイズは、225/60だ。

実は当初、別のボディシェルをベースに彼のEタイプは作られていた。ところがタイヤが外側へオフセットされたことで、手作りのホイールアーチのラインが左右で異なることが強調されてしまった。

イーグル・ナンバー1(ジャガーEタイプ/1995年/英国仕様)
イーグル・ナンバー1(ジャガーEタイプ/1995年/英国仕様)

そこで大胆にも、ジョンが保有していた別のボディシェルを利用し、再制作したという。その結果、HUF 42Eのナンバーを付けたナンバー1が完成した。

オリジナルと大きく異る部分が、リアサスペンション。標準のプレス製アームではなく、パイプを組んだリンクが充てがわれている。またラバーブッシュではなく、ピロボールで支持されている。

ウイッシュボーンの動きを完全に制御でき、ボディロール時にパッシブ・リアステアを与えることを可能としている。コーナリングが鋭いのは、この影響だ。ネガティブキャンバーも与えられている。

フロント側も、上部のウイッシュボーンを再設計。ロワー側の位置も調整され、こちらもネガティブキャンバーが与えられた。キャスター角も変えられる。

路面の凹凸が操舵に影響を与えるバンプステアを抑えるため、ステアリングラックの取り付け剛性を高め、位置を変更。独自のアームが可能な限り水平に動き、俊敏さを高めている。ノーマルでは、停まった状態でステアリングを回すと、ラックが動くという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ポール・ハーディマン

    Paul Hardiman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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