出発準備に数時間 マーシャルSクラスへ試乗 1925年式の蒸気機関ロードローラー

公開 : 2023.01.09 08:25

内燃エンジンが一般化する前、道路を作っていた蒸気機関のロードローラー。英国編集部が貴重な1台の運転を試みました。

操縦に気が抜けないロードローラー

いま筆者が乗っているのは、6km/hほどで走るロードローラー。蒸気機関がパワートレインだ。御年97歳。縁石や対向車へ触れないように、操縦には気が抜けない。

そんな最中、英国最速のジェットエンジン・マシン、スラストSSCを運転したアンディ・グリーン氏のことを思い浮かべてしまった。彼はリアタイヤで操舵するマシンを安定させるため、新しいタイプのステアリングが必要だと口にしていた。

マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)
マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)

それが、このマシンにも当てはまる。操舵用のアームが長く、動きが鋭い。直進状態を保つことが難しい。わんぱくな機関車トーマスが、線路の縛りから開放されたようだともいえる。

必死の様相の筆者を横目に、このロードローラーを管理するマーティン・スリーフォード氏が燃焼室の様子を確認する。高温を保たなければ、充分に進まない。

唯一無二といえる運転席だろう。世界のモビリティは電動化へまっしぐらだが、目の前では石炭を燃やしながら水蒸気が生み出されている。マーティンのような経験者が、リタイヤ後に伝統的な技術の維持に貢献することで、動く状態が保たれている。

グレートブリテン島の南部、スワネージには蒸気機関車を保存するための鉄道が約10km維持されている。ここだけで、約1400万ポンド(約23億2400万円)の地域経済への効果があると考えられている。古い技術は、現在でもしっかり役に立っている。

1950年代末までは現役に活躍していた

この蒸気機関ロードローラーのモデル名は、マーシャル社のSクラス。以前はグレートブリテン島東部のリンカンシャー州が所有しており、1950年代末までは現役で地元の道路の敷設に活躍していたらしい。

その頃、すでにジェットエンジンで飛行機はマッハを超えるスピードを実現していた。その下で、このSクラスは石炭を燃やしながら地面を平らに均していたのだ。

マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)
マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)

当時はコンバーチブルと呼ばれていたそうだが、それはフロントガラスもない吹きさらしだからではない。フロントローラー・セクションが丸ごと外れて、別のユニットに交換できるためだという。2つの役目を果たすことができた。

現在のオーナーはマーティンだが、それ以前はちょっとしたコレクターだったロン・ヒュー氏の手元にあった。実は、その人物は筆者の祖父に当たる。

面白いことに、マーティンのお爺さんも蒸気機関ロードローラーをメンテナンスしていたという。血は争えないのだろう。近年まで農場内の道を維持するため、活躍してきた。現在は英国各地で開かれる蒸気機関のイベントへ参加し、勇姿を披露している。

マーティンは、東部のボストンからリンカーンまでの約60kmを、Sクラスで3日間を掛けて往復した経験もある。牽引用のローラーを購入し、つないで帰ってきたそうだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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