出発準備に数時間 マーシャルSクラスへ試乗 1925年式の蒸気機関ロードローラー

公開 : 2023.01.09 08:25

蒸気機関を動かすまでに数時間の準備が必要

ここで、簡単にこのSクラスのパワートレインをご紹介しよう。蒸気機関だから、石炭を燃焼室で燃やす。28本のパイプを熱して、タンクからボイラー内に流れてくる水を熱する。水の量は623Lあり、発生した蒸気で1本の大きなシリンダーを動かす。

ピストンはクランクシャフトを介して、前後に2速づつのマニュアル・トランスミッションへ繋がっている。ギアを選べば走り出せる。構造はシンプルといっていい。

マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)
マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)

しかし、動かすまでの準備は遥かに多い。まずは掃除から始まる。28本のチューブをブラシできれいにし始めたのが午前9時。ススを取ることで、水への熱伝導を良くする必要がある。

9時30分に掃除が終了。その頃、同僚のマット・プライヤーは燃焼室に溜まった燃え残りの炭をトレイに流し込んでいた。彼は技術に精通しており、この手の作業にうってつけだ。

9時45分に火入れ。燃焼剤とボロ布、細かく刻んだペレットが燃焼室へ投げ込まれる。充分に火が回るまで石炭は燃やせない。

マーティンは、前日に風向きを考えてSクラスを止める向きを調整していた。火入れの時に風が燃焼室へ吹き込むことで、効率よく炎が回るためだ。

石炭を燃やし、水温が充分に上昇したのは11時過ぎ。蒸気機関を動かすまでに、数時間の準備が必要になる。昔の方が良かったと、安易には郷愁に浸れない。

30秒前の操作が今の瞬間に影響を及ぼす

マットが、運転席で1速からシフトアップをする。マーティンと一緒に。ゆっくりロードローラーが道を進む。スピードは、フォトグラファーが歩いて追いつけるほど。筆者の頑張りを画像に残してくれる。

20分ほど経過し、約1.5km進んだところで筆者が操縦する番になった。歩みが遅いことへ改めて気付くが、運転に必要な集中力はレーシングカー並みかもしれない。

マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)
マーシャルSクラス(1925年/英国仕様)

そもそもの問題は、約6km/hという速さ。ステアリングホイールは、巨大なチェーンを介してフロント側のローラーに繋がっている。周囲の状況から回しすぎたと自覚した時は、既に手遅れ。望まない方向へ進み始めている。

予測が極めて大切になる。30秒前の操作が、今の瞬間に影響しているといっていい。

運転席からの視界は非常に悪い。ランボルギーニカウンタックでバックする時のように。ローラーの端と、フライホイールやアクスルの隙間から、路面との位置関係を確認することになる。

フロントローラーの向きでステアリングホイールを回す判断はできない。幅が広く大きすぎ、どちらに向いているのか理解できない。疲れて一瞬気を抜いたら、思いも寄らない方向へ進んでしまった。

スロットル操作はハンドルレバーで行うが、これは放置状態で大丈夫。マーティンがスピードに気を配りながら、所定の位置で操ってくれている。スピードは遅いものの、ドライバーへの要求はかなり多い。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ピアス・ワード

    Piers Ward

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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