麗しきフェラーリ初ミドシップ・スポーツカー ディーノ206GTに試乗 後編

公開 : 2019.09.07 16:50  更新 : 2021.08.05 08:11

英国では絶滅状態となってしまった、ディーノ206GT。フェラーリが設計したクルマとしては初めてのミドシップ・モデルであり、マラネロにとって特別な1台であることは間違いありません。貴重な1台を、英国で試乗しました。

居心地のいいコクピット

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

ディーノ206の重いクラッチペダルを踏み込み、とても居心地が良いコクピットで、シフトゲートの隅にある1速を探す。デザイナーやエンジニアは初めから、我慢を強いることなく、どのようにドライバーがクルマに座れるのかを真剣に考えていたのだろう。

低速域では、リミテッドスリップデフからのギアの唸りが耳に届く。ステアリングホイールの重さは適当だが、ブレーキペダルのフィーリングは温まるまで皆無だった。クラッチはスムーズだが、かなり重い。

ディーノ206GT(1967年〜1969年)
ディーノ206GT(1967年〜1969年)

写真撮影に狭い道を1速と2速を使いながら走る。ゆっくりと水たまりを縫っていても、206GTの本性はわからない。3速へと入れてみる。246と比較して低速トルクの細さはあまり気にならなくなるが、4000rpm以下の加速は鈍く、5000〜6000rpmで走るのが良さそうだ。ここまで回せば、力強くクルマは加速し、聞き惚れるような金属的なノイズが響き始める。変速の度に聞こえるトランスミッションからのノイズを、エンジンからの素晴らしいサウンドが打ち消してくれる。

それぞれのギアにピッタリの道がありそうだが、イタリアのアウトストラーダなら、5速だろう。7500rpmで、230km/hに届くはず。今回はその半分もスピードを出さなかったが、問題はない。シフトアップすると、官能的なラインを持つノーズ越しに流れる景色は早くなる。フロントフェンダーの魅力的な峰に、ペナイン山脈の大自然が映り込んでは、大きく湾曲したフロントガラスへと消えていく。着座位置は路面に近く、完璧なコントロール性が他にはない興奮を引き出す。

軽快なステアリングに鋭いスロットル

実際のスピード以上に、エンジンサウンドは速く感じられる。246より活発な性格に感じる。206が路面を滑らかにいなしていることに気づくまでに少し時間がかかったが、カーブのきつさを問わずニュートラルな操縦性を保って、軽々とこなしていく。ほとんどボディーロールはせず、フラットな姿勢のまま刺激的に走る。ステアリングのレスポンスもカートのように鋭い。

ステアリングフィールは軽くデリケート。スロットルレスポンスは電光石火で、オープンゲートに伸びるシフトノブはソリッド感があり自由に操れ、206は極めて機敏に動く。ディーノは希少なだけでなく、速く美しいフェラーリでもある。206か246かは問わず、ディーノは同年代のクルマの中では最も優れたドライバーズカーだと実感する。1960年代後半から1970年代前半の中では、最もワインディングを速く走ることができるマシンだったはず。

ディーノ206GT(1967年〜1969年)
ディーノ206GT(1967年〜1969年)

軽快で美しいディーノ206GTは、フィアットとエンツォフェラーリとの結びつきを強固にする糸口となり、1969年にはフェラーリはフィアット傘下となる。裕福なら手の届くスポーツカーであり、実業家にとっては所有することが目標にもなる、現代のフェラーリ像を構築したクルマだといえる。フェラーリによるコンパクトなミドシップ2シーター・スポーツの量産化の起源だ。

だが現在のディーノ206GTは、すっかり雲の上の存在になってしまった。世界的な残存数は80台にも満たず、極めて高額な値段が付いており、ディーノの中でも最も特別なモデルとなっている。今のオーナーは80万ポンド(1億400万円)でこの純粋なディーノ206GTを手に入れた。しかし、数百万ポンド(数億円)を積まれても、手放そうとは考えないだろう。それほどに、途方もない存在なのだ。

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