アウトウニオンにサーブ、ネッカー、ランチア 1960年代の小さなファミリーカー 後編

公開 : 2022.02.13 07:07

約60年前に作られたコンパクト・ファミリーカー。コレクターが集めた個性的な4台を、英国編集部がご紹介します。

4台で最も運転が楽しいアッピア

1959年発売のランチア・アッピア・シリーズ3は、その気になれば130km/h近いスピードを出せる。120km/h程度での高速巡航も可能で、燃費は10.0km/Lから14.0km/Lの間だ。

V型4気筒エンジンは、上から見ると正方形に近いブロックに、両バンクへ独立したヘッドが組まれている。アクセルペダルのレスポンスは鋭い。パワー感が落ち込む谷もなく、高回転域まで滑らかに回る。

ブルー・ツートーンのアウトウニオン1000 Sと、レッドのサーブ96
ブルー・ツートーンのアウトウニオン1000 Sと、レッドのサーブ96

味わい豊かなサウンドを放ち、変速をサボっても受け止められる充分なトルクがある。思わず、意欲的に運転したい気持ちにさせられる。

ランチアの中間ギアは、アルプス山脈の峠越えに丁度良さそうだ。シンプルな構造のステアリングは正確で、コーナリングはニュートラル。4台のなかで、最も運転が楽しいといえる。

タイトなコーナーを曲がると、適度にボディが外へ傾く。グリップ力に不足はない。ボディが歪んで、ドアがきしむようなこともない。乗り心地も良く、路面の凹凸を超えてもスムーズにいなしてくれる。

滑りやすいロータリー交差点では、軽くテールスライドさせることも容易。一方のネッカーは、ステアリングホイールの感触が曖昧。アンダーステアも強い。

それでも、戦前にフィアットが設計したプッシュロッド直列4気筒エンジンは、ランチアに迫る洗練度を備えている。発進時はたくましく、トップギアでも充分に加速させる余裕もある。

リジットアクスルで支えるリアタイヤは、挑発的な操作せずとも、グリップ力を超えてしまう。ブレーキも、アウトウニオンより感触は確かなものの、ランチアが採用する大きなドラムブレーキほど制動力は強くない。

基本的に安定したサーブとアウトウニオン

3気筒の2ストローク・エンジンを積むサーブ96は、コーナリングが軽快でフラット。ステアリングが重いアウトウニオンより、機敏に旋回していく。

サーブもアウトウニオン1000 Sもフロントドライブで、走りは基本的に安定している。最低地上高は高く、乗り心地は少々落ち着きに欠けるものの、人を乗せて重くなるほど改善するようだ。

サーブ96(1960〜1967年/英国仕様)
サーブ96(1960〜1967年/英国仕様)

今回の4台は、ともに0-97km/h加速時間が20秒前後。唯一、サーブが19秒代に乗せているが、スピード違反に怯える心配はないだろう。

そんな動的能力以上に強い印象を与えてくれるのが、明確な個性。どれもが、当時の生産国の色合いを良く表していると思う。グローバル化が進んだ21世紀の同等モデルでは、叶えることが難しい。見た目だけでなく、音や匂いですら、そう感じさせる。

順番に試乗してみると、陽気で活発な性格を持つフィアット1100のライセンス生産版、ネッカー・ヨーロッパに思わず心が奪われる。運転のしやすさへ軸がおかれた、幅広い訴求力を備えたコンパクト・ファミリーカーだ。

それと好対照なのがサーブ96。すべてが、ラテンとは違った考え方で作られている。ドアのガラスですら、開き方は個性的。過ごす時間が長くなるほど、良くわかり合える。96も、ドライバーを満たしてくれる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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