1台限りのヴィニャーレ・ボディ アストンマーティンDB2/4 ベルギー国王の特注車 後編

公開 : 2022.05.28 07:06

ベルギー国王がオーダーしたアストンマーティンDB2/4。スペシャル・ボディの貴重な1台を英国編集部がご紹介します。

再製作された直6エンジンは172psを発揮

1台限りが作られた、ヴィニャーレ・ボディのアストン マーティンDB2/4。インターネットの普及が、重要性の確認を助けた。購入したボブ・ファウンテン氏は、レストアするべきだと確信したという。

シャシーとボディの状態は、かなり良好だったらしい。ユニークなアルミニウム・ボディは、ダメージ部分の補修で済んだ。しかし、インテリアの殆どは失われていた。当時の写真を参考に復元する必要があった。

アストン マーティンDB2/4 ヴィニャーレ・ボディ(1955年/欧州仕様)
アストン マーティンDB2/4 ヴィニャーレ・ボディ(1955年/欧州仕様)

オリジナルのエンジンは失われ、残っていた交換用部品も使い物にならなかった。エンジンブロックやピストン、コンロッド、ライナーなどが新たに製作された。専用のカムシャフトと、電子制御の点火システムも組まれた。

作り直された3.0L直列6気筒エンジンの最高出力は、172ps。最大トルクは27.6kg-mを発揮すると、ファウンテンは説明する。オイルポンプは強化されているが、オイルが滲んだような跡もない。

レストアされたヴィニャーレ・ボディのアストン マーティンDB2/4を観察する。標準ではフロントノーズ部分全体が前ヒンジで開くが、LML/802の場合はフェンダーが固定され、小ぶりなボンネットのみが開く。

ベースが英国車だという手がかりは、メッキされたワイヤーホイールと、ラジエーター・グリル上部の翼を広げたエンブレム程度。グレートブリテン島の中央、ペナイン山脈で撮影していると、熱心な男性がどんなクルマなのか尋ねてきた。

アストンの雰囲気が漂う豪華なインテリア

ピーコック・ブルーに塗られたボディが、ヴィニャーレ社のスタイリングと良く合っている。納車当時、ベルギーのボードゥアン国王はピンクとダーク・グリーンというツートーンで乗っていたようだ。現在のカラーの方が好ましいことは間違いない。

ドアを開くと、シャシーを補強する広いサイドシルと、狭いフロアが迎えてくれる。豪華なインテリアには、アストン マーティンの雰囲気が漂う。ダッシュボードはヴィニャーレ社のオリジナルで、大きな3枚のメーターがステアリングコラムを囲む。

アストン マーティンDB2/4 ヴィニャーレ・ボディ(1955年/欧州仕様)
アストン マーティンDB2/4 ヴィニャーレ・ボディ(1955年/欧州仕様)

大きく湾曲したフロントガラスは1955年としては新しく、カロッツエリアのガラス成形技術の高さを示している。一方、リアミラー越しの後方視界はかなり限られている。

フロントシートは左右で独立しているものの、フラットで横方向のサポート性が低い。前後の調整幅も小さい。美しいナルディ社製のステアリングホイールが、胸元に近い。ダッシュボードに並ぶスイッチ類には、なんの機能なのか説明がない。

エンジンルームの低い位置に納められたLB6型6気筒エンジンは、現代的なスターターモーターで簡単に目覚めた。ノイズは大きめでたくましく、低回転域から粘り強い。ハイレシオのギアが組み合わされ、軽快に走るには想像より高めの回転域が必要になる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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