カーオーディオが変わる? 高音質&軽量の静電型スピーカーとは

公開 : 2022.11.02 06:25

英国の音響メーカーWarwick Acoustics社は、自動車用の静電型スピーカーを開発。薄くて軽量、省エネ、そしてクリアな音質を実現するとされています。

省スペース、省エネ、軽量かつ高音質

音響の世界では、静電型スピーカーは何十年も前から存在するもので、従来のコーン型スピーカーと比較して、クリアで歪みの少ない音質が注目されている。英国の音響メーカーWarwick Acoustics社は、この技術を自動車に応用し、スペース、重量、エネルギー消費を削減することに成功したという。

同社の「エレクトロアコースティック(ElectroAcoustic)」は、自動車の内装パネルにスピーカーを組み込んだもの。リサイクル可能な材料で作られ、レアアース(ネオジム磁石など)は使用していないとのこと。静電型スピーカーは、マグネット付きでかさばりやすいコーン型とは異なり、フラットなシート状になっているため、パネルや表面に組み込みやすいのだ。

Warwick Acoustics社が開発した自動車用の静電型スピーカーは、従来型に比べ、重量を75%、消費電力を90%削減できるという。
Warwick Acoustics社が開発した自動車用の静電型スピーカーは、従来型に比べ、重量を75%、消費電力を90%削減できるという。    Warwick Acoustics

従来のスピーカーは、ある形のエネルギーを別の形に変換するトランスデューサー(今回の場合は電気から音に変換)と、これに取り付けられたコーンで構成されている。

トランスデューサーは、一般的にドライバーと呼ばれ、永久磁石とボイスコイルと呼ばれる電磁可動コイルからなる。アンプからの電気信号が通過するとこれが動き、取り付けられたコーン(正しくはダイアフラム、振動板)も同時に動くことで周囲の空気を振動させ、わたし達が聞く「音」を作り出す。

永久磁石は、軽量化のためにレアアースを使うことがある。また、従来の鉄磁石よりも強力だ。

静電型スピーカーは、これとまったく異なるものである。3枚の薄いシートがサンドイッチのように密着していると想像してほしい。中央のシートは電荷を帯びており、アンプの信号はそれを挟む導電性のシート(静止しているためステーターと呼ばれる)に伝わる。これを受けて、中央のシートが従来のコーンのように動いて空気を振動させ、音を発生させる。

Warwick Acoustics社が開発した車載用スピーカーの場合、この可動膜の厚さはわずか0.015mmで、人間の髪の毛の約5倍も薄い。静電型スピーカーの利点はここにある。質量がほとんどないため、振動させやすく、アンプの信号に即座に反応する。一方、従来のムービングコイルスピーカーは、可動部が比較的重いため、動かすには慣性を克服する必要がある。

Warwick Acoustics社の「エレクトロアコースティック」は、ヘッドホン用の静電トランスデューサーから派生した技術を応用し、10年の開発期間を経て製品化に至った。パネルは、同社のエレクトロ・スタティック・トランスデューサー(EST)と、特別に設計されたエレクトロニクス・ドライブ・モジュールで構成されている。

ESTは、オープンセル(ハニカム)のスペーサーに張られており、音を伝える小さなドラムのようなものを形成する。セルの形状、サイズ、分布は、周波数応答(低音から高音までの音の周波数)と音の方向に影響を与える。

Warwick Acoustics社の主張通りにうまく機能すれば、持続可能性、重量、エネルギー消費の削減(したがってCO2削減)を実現しながら、プレミアムな音質も再現するという、夢のようなスピーカーに思えてくる。自動車メーカーとしても、内装デザインの幅が広がるはずだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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