ポルシェ911にF1エンジン 600馬力超のレストモッド「TAGターボ」はなぜ生まれたのか

公開 : 2024.07.26 18:05

930型911に本物のF1エンジンを載せ、レトロなカラーリングを施して14台だけ売る。なぜこんなクルマが生まれたのか? 突飛なアイデアを実現した英国企業ランザンテのトップに話を聞いた。

本物のF1用V6ターボを使用

レストモッド界隈では、ポルシェ911を取り扱うのはもはや定番中の定番になっている。アナログ的なスリルとレトロモダンな外観を売りにした新企業が毎週のように登場しているからだ。

しかし、マクラーレンF1のメンテナンスやレーシングカーの公道仕様の製作で知られる英国のランザンテ(Lanzante)は、一味も二味も違う911を作り上げた。

2台の「チャンピオンシップ」仕様は1986年のアラン・プロストのヘルメットにインスパイアされたカラーリングを採用する。
2台の「チャンピオンシップ」仕様は1986年のアラン・プロストのヘルメットにインスパイアされたカラーリングを採用する。

ランザンテは、よくある現代のフラット6のアップグレードではなく、マクラーレンが過去に使用した本物のF1用V6エンジンを911に搭載する。

ポルシェが開発し、当時のスポンサーにちなんで “TAG” と名付けられた1.5L V6ターボエンジンは、予選で1000馬力を超えたと噂されている。

1984年から1986年にかけてマクラーレンを3年連続でドライバーズチャンピオンに押し上げたが、その後はアイルトン・セナに3度のトロフィーをもたらした伝説のホンダ製ユニットに引き継がれた。

このような強力なエンジンをクラシックカーに載せるのは魅力的な提案だが、同社を率いるディーン・ランザンテ氏がAUTOCARに語ったところによると、それは当初の計画にはなかったという。

彼はただ、マクラーレンのレーシング部門から、TAGのオリジナルテスト車両である930世代のポルシェ911ターボを購入したかっただけなのだ。チーム代表であるザック・ブラウンには丁重に断わられたものの、ランザンテ氏はめげなかった。

「彼らはエンジンをたくさん積んでいました。これらのエンジンは80年代からあったものですが、すべて保管されていました」と彼は言う。

チャンスだと思った彼は、オリジナルテスト車両を参考にしたロードカーを少量生産するというビジネスケースを作り始めた。エンジンの信頼性と公道での扱いやすさを向上させるためにコスワースを選んだが、コストがかさんだ。

「2、3台を作るだけでは莫大な費用がかかることに気づきました。もっと数が必要だったんです。当初は(エンジンの)レース勝利数と同じ25台を作ろうと考えていましたが、エンジンの数が足りなかった。そこで各シーズンのドライバーにちなんで、計11台を用意することにしました。奇数の理由は、1985年にニキ・ラウダの代役としてジョン・ワトソンが起用され、ドライバーが3人になったからです」

顧客の声で作られた3台の特別仕様車

彼は、当時の車両と同じような外観にする必要があると「断固として」主張し、顧客にもポルシェの色や素材から選ぶよう頼んだ。TAGターボ911にはサンルーフや電動ミラー、オリジナルのステアリングホイールが装備されていることに触れ、「ピンプ・マイ・ライド(自動車改造番組)みたいなクルマではないんですよ」と冗談めかして言う。

しかし、特に重要な顧客がいた。1985年のチャンピオンシップで優勝したアラン・プロストのマクラーレンMP4/2のオーナーで、 “標準” のTAGターボ911の510馬力以上のパンチを求めていたのだ。

ディーン・ランザンテ氏(左)と記者、ランザンテ930 TAGターボ・チャンピオンシップ
ディーン・ランザンテ氏(左)と記者、ランザンテ930 TAGターボ・チャンピオンシップ

「マクラーレンは4barのブーストで走っていました。わたし達は3barです。彼らはレース用燃料を使っていましたが、わたし達は通常の燃料を使うので圧縮比を下げました」これはパワーと使い勝手の「トレードオフ」だとランザンテ氏は言う。

彼はこの1人の顧客の影響力を見込んで、TAGエンジンのマクラーレンが獲得した各タイトルを称える3台の “チャンピオンシップ” エディションを製作する計画を立てた。625馬力にパワーアップし、400kgの軽量化によって乾燥重量920kgに抑えている。

そして、3台にはドライバーのヘルメットにちなんだカラーリングが施される。2台はアラン・プロストのフランス国旗、もう1台はニキ・ラウダのオーストリア・マールボロである。

チャンピオンシップ・エディションの詳細について、ランザンテ氏は次のように述べている。

「シートベルトにはヒューゴ・ボス(Hugo Boss)と書かれています。ステアリングホイールはパーソナル製で、アルカンターラではなくスエードを使用しています。すべて時代を反映したものです。シフトレバーはF1マシンと同じデザインで、ホイールはダイマグがオリジナルの図面を拡大して作ったもので、スポークのパターンはF1ホイールと一致しています」

ドライバビリティへの譲歩(「安全対策」)としてトラクションコントロールが搭載されているが、ランザンテ氏は「少しだけ凶悪」だと言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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