小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 後編

公開 : 2022.11.20 07:06

小柄なボディに大排気量のV12エンジン。ブランドの象徴といえる、アナログなグランドツアラーを英国編集部がご紹介します。

リズミカルにコーナーを縫える

グレートブリテン島中南部、ウォリックシャー州の一般道でアストン マーティンV12ヴァンテージを駆る。3速へシフトアップすれば、フルスロットルを一層不安感なく与えられる。

引き締められたサスペンションは、英国郊外のザラついたアスファルトへ追従。リズミカルにコーナーを縫える。

アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)

高性能なマシンを直接操っているという感覚に満たされる。しかし57.9kg-mの最大トルクを許容するように、6速MTのシフトレバーの動きは硬い。フライホイールは、時折やや軽すぎるような印象も受ける。

レブリミット付近でのエネルギッシュさには圧倒される。強力なブレーキが、それをほぼ確実に受け止めてくれる。少し気持ちが落ち着くと、V12ヴァンテージのシャシーが、不満ないフィードバックを与えることにも気付くことができた。

2013年にバトンタッチしたV12ヴァンテージ Sには7速セミ・オートマティックが採用され、6速マニュアルを操るような肉体的要求はない。左足で踏むクラッチ・アッセンブリーがなくなったことで、25kgの軽量化にもつながった。

より優れたパワーウエイトレシオは、ブランドにとって重要だと考えられていた。だが、アナログな体験を求める声も存在した。2016年には北米市場向けに100台のみ、1速が横に飛び出たドッグレッグ・パターンの7速MTが投入されている。

いつでも臨戦態勢の5.9L V12エンジン

ブラックのボディにイエローのアクセントが映える今回のV12ヴァンテージ Sだが、それはインテリアにも展開されている。アルカンターラ仕上げの彫りの深いバケットシート中央に、イエローのストライプが1本伸びる。

エグゾーストノートは、エッジが効きシャープ。シルバーのV12ヴァンテージのサウンドが、文化的に感じられるほど生々しく勇ましい。

アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)

7速セミ・オートマティックは低速域ではややぎこちなく、ゆっくりギアを選ぶ。V12のSは、市街地をこれ見よがしに流すタイプのクルマではない。

大排気量のアストン マーティン製5.9L V型12気筒エンジンは、いつでも臨戦態勢。吸気と排気の両方に新設計の可変バルブタイミング機構が投入され、1000rpmから51.6kg-mという極太のトルクが生み出される。そのたくましさは、回転域を問わない。

V12ヴァンテージで体感できるクルマとの一体感は、V12 Sでは一層濃密。バケットシートを最も低い位置へ固定すると、硬めの乗り心地を通じて路面がより近くに感じる。クイックなレシオが与えられたステアリングホイールは、過敏すぎず適度に重く鋭い。

V型12気筒エンジンの動力性能は野蛮とさえいいたくなるほどだが、奏でられるサウンドは厚みがあり重層的。トップエンド目掛けてドラマチックさも増していく。視界に広がる道路状況が許せば、右足へ力を込めずにいられない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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