小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 後編

公開 : 2022.11.20 07:06

より完璧な体験としている「S」

ご登場願ったV12ヴァンテージ Sには、当時のパフォーマンス・パッケージにオプション設定されていた、チタン製マニフォールドが組まれている。オリジナルも悪くないが、その金管が生み出す音響はレーシングカー然としていて惚れ惚れする。

実際、アストン マーティン・レーシングはV8ヴァンテージをベースとしたV8ヴァンテージ N24を開発。ニュルブルクリンク24時間レースへ参戦し、クラス優勝を遂げている。

アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)

ステアリングホイールの操舵感は一層磨かれ、シャシーは正確性と安定性を大幅に向上。輝きを増した大排気量エンジンとの組み合わせによって、SはV12ヴァンテージの体験をより完璧なものにしている。

セミ・オートマティックは、本域で意欲的に運転すると迅速に次のギアを選ぶ。6速MTの重たいシフトレバーを上下させるより、だいぶ扱いやすい。

ステアリングホイール裏のパドルを弾くだけだから、減速すべきか悩む必要もない。他のヴァンテージに設定されていた6速セミ・オートマティックのように、アクセルレスポンスへ若干の違和感が出ることもない。

防音材が省かれ、温められたピレリ・タイヤが跳ね上げた小石がホイールアーチへ当たる音も僅かに聞こえる。シリアスなモデルであることを、暗に示すように。

アストン マーティンなのに、車外との隔離性が不十分だという批判もなくはないだろう。2013年より現代の方が、それに対する理解は大きいといえるが。

アナログな自動車の最後のモデル

スーパーカーに対する見通しが明るく、自然吸気の大排気量エンジンと油圧アシストが主力だった時代でも、技術はよりベターなクルマを作ることに注がれていた。究極の目標に運転する楽しさが掲げられつつ、同時に上質であることも求められていた。

V12ヴァンテージ Sはレーシングカー未満ではあるが、サーキットへ近い位置にあった。アストン マーティンの熱心な支持者でなければ、理解しにくい存在だったことは事実だろう。

シルバーのアストン マーティンV12ヴァンテージと、ブラックのアストン マーティンV12ヴァンテージ S
シルバーのアストン マーティンV12ヴァンテージと、ブラックのアストン マーティンV12ヴァンテージ S

一方のV12ヴァンテージは、過激すぎない内容で訴求力の幅は広かった。スタイリングは伝統的で控えめなグランドツアラーでありながら、極めてエキサイティングな動力性能が与えられていた。

そこへ組み合わされた6速MTは、非常に重要な要素といえた。多くがクラッチを介するATへ移行する中で、オールドスクールな魅力を守り続けたといえる。

V12ヴァンテージを運転すると、ここ10年前後で大きくクルマが変化したことを実感する。進むべき道に迷っていることも。

この時代のアストン マーティンには、伝統的な信念を持つ人が少なくなかったことに、感謝せずにはいられない。アナログな最後のモデルとして、あえて彼らが選んだパッケージングだからこそ、他では得られない喜びを全身で味わうことができるのだ。

協力:アストン マーティン

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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