還暦のパゴダルーフ メルセデス・ベンツSL(W113型) 時代を超越する優雅 後編

公開 : 2023.06.03 07:07

2023年で誕生から60年を向えるW113型の2代目SL。唯一といえる特有の魅力を、英国編集部が振り返ります。

状態の良い個体を選ぶことがカギ

アンスラサイトと呼ばれる、シルバーメタリックのメルセデス・ベンツ230 SLを所有するのは、トニー・シャープ氏。サビの殆どない1963年式を2019年に購入し、自分たちで丁寧にレストアしたという。

W113型では珍しく、トランスミッションはマニュアル。オプションのパワーステアリングは付いていない。

メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)
メルセデス・ベンツ230 SL(W113型/1963〜1967年/北米仕様)

新車時にアメリカ・ワシントンで販売され、1979年以降は殆ど乗られていなかった。オリジナルはレッドのボディにブラックのハードトップという組み合わせだったが、オーナーの好みで落ち着いた色に塗り直されている。

ボディパネルに修復の必要性はなかったというが、現代的な水準へ仕上げるべく1度バラし、ボルトやナットは交換済みだ。「この手のクルマを購入するなら、状態の良い個体を選ぶことがカギです。部品が入手できないか、恐ろしく高いことがありますから」

小気味いいMTと、軽快に吹け上がるショートストロークの2.3L直列6気筒エンジンが組み合わされ、230 SLは3台のなかで最も走りが好印象。あるいは、比較すればドライバーへの要求が多いともいえる。

右足へ力を込め高回転域まで引っ張ると、テールが軽く沈み、エグゾーストから乾いた唸るようなノイズが放たれる。W113型らしい音響で、積極的に運転したいという気持ちが高まる。

リラックスした雰囲気が漂う250と280

変速時にギアの回転数を調整する、シンクロメッシュはよく効く。シフトレバーは細く長い。直線加速の勢いは、AT版と目立った違いはないようだ。SLらしい動力性能を味わうには、高い回転数を活用する必要がある。

3000rpm以下では、期待するような活発さは得られない。それでも、道路状況を予想しながら適切なギアを選び、シャシーのバランスを探るように加速する、マニュアルならではの喜びがある。

メルセデス・ベンツ280 SL(W113型/1968〜1971年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ280 SL(W113型/1968〜1971年/英国仕様)

対して、中折れした長いレバーが伸びる、オートマティックの印象も悪くない。シフトアップをキビキビとこなし、一般的な発進時は2速でまかなわれる。トルクの太い280 SLの場合、1速で発進させるとフルスロットルでタイヤが空転することもあるという。

AT任せのまま加速していると、4000rpmで次のギアが選ばれる。レバーを倒し3速や2速にホールドすると、明確にピックアップが鋭くなる。MTより素早くギアを選べるわけではないが、動作は滑らかだ。

排気量の大きいエンジンを搭載する250 SLと280 SLは、230 SLと乗り比べると、リラックスした雰囲気が漂う。力強く頼もしく思えるものの、ATの柔軟さがそれを若干覆い隠している。

ブレーキは、3台ともに強力なサーボアシストが加わり確実に効く。優れたロードホールディング性とニュートラルなステアリングも相まって、クラシックカーに不慣れなドライバーでも安心して運転できそうだ。タイトコーナーでも不安感は殆どない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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