完璧な無音と無振動 ロールス・ロイス・スペクターへ試乗 卓越のドライバーズクーペ 後編

公開 : 2023.07.11 08:26

英国伝統ブランドの新時代を告げるBEVのクーペ、スペクター。卓越の仕上がりに、英国編集部は感銘を受けたようです。

2ドアクーペの電動ドライバーズカー

ロールス・ロイス・スペクターの車内は、ボディサイズを活かし、前後に大人が2名づつ寛げるゆとりがある。リアシートへの乗降性は、リムジンより僅かに劣る。とはいえ、ロンドンで稀に見かける同社のクーペで、後席に人が座っていることは殆どない。

2ドアクーペのスペクターは、ドライバーズカーだといえる。もちろん、車重が2890kgもあるバッテリーEVだから、ポルシェ911とはまったく特性が異なるけれど。

ロールス・ロイス・スペクター(北米仕様)
ロールス・ロイス・スペクター(北米仕様)

サスペンションは、リムジンのロールス・ロイス・ゴーストからの進化版。フロントがダブルウィッシュボーン式で、リアはマルチリンク式となり、エアスプリングとアクティブ・アンチロールバーが組まれている。

横方向の動きを制限していたアッパー・ウイッシュボーンのダンパーは、ボディのねじれ剛性が30%増したことに伴い、省かれている。またアンチロールバーは、しなやかな乗り心地のため、直進時は完全にアクスル側から切り離される。

ホイールのサイズは23インチ。タイヤは、フロントが255/40で、リアは295/35の、ピレリPゼロを履く。単体としては大径だが、大きなボディとのバランスを考えると、妥当なサイズだと思う。外界との隔離性も担保されている。

ロールス・ロイスの技術者は、スペクターのようなモデルをどう仕立てるべきか、理解している。完璧に落ち着いた乗り心地に、これ以上ないほど正確で一貫したステアリング、発進から停止まで至って滑らかに操れるペダル。すべてが備わっている。

静止状態から見事なほど滑らかに進み出す

バッテリーEVだから、スペクターが静かなことに驚く必要はないだろう。従来のロールス・ロイスでも、V型12気筒エンジンがアイドリングしているのかどうか、判断が難しいことは珍しくなかった。

静止状態でアクセルペダルを傾けると、瞬時的に立ち上がる駆動用モーターのトルクにも関わらず、見事なほど滑らかに進み出す。パワーの立ち上がり方も、レスポンスも、完璧に整えられている。

ロールス・ロイス・スペクター(北米仕様)
ロールス・ロイス・スペクター(北米仕様)

ブレーキペダルを緩めると、クリープ走行へ移る。停止直前の、1.0km/h程度の細かな制御は少し難しいかもしれない。とはいえ、経験を積んだプロの運転手が気を配るような仕草に過ぎないが。

シフトセレクターでBを選択すれば、アクセルペダルだけで発進から停止までまかなえる、ワンペダルドライブにも対応する。この場合、クリープ走行もしなくなる。

必要なら、スピーカーから人工音を響かせることもできる。何種類か音色があり、宇宙船がワープするような電子音から、V型12気筒エンジンのハミングを模したもの、かなり荒々しいノイズまで用意されている。

筆者はいずれも好ましく聞こえたが、人工音はオフにもできる。これまでのロールス・ロイスは基本的に常時静かなままだったから、特に問題は感じないだろう。

高速道路の速度域では、若干加速力が鈍くなる。それでも一般的な感覚でいえば、不満なくたくましい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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