「ぽっと出」には負けない ポルシェの伝統が新興ブランドに牙を剥く 差別化の鍵はデザインにあり

公開 : 2023.10.24 18:05

・中国などの新興EVブランドが台頭する中、ポルシェは「伝統」を活かして立ち回る。
・ポルシェの幹部は「デザインが大きな差別化要因」と重要性を語る。
・EV技術の柔軟性を活かし、ミニバンのような革新的なモデルを投入するかも?

ポルシェにとって「伝統」が武器になる

ドイツの自動車メーカーであるポルシェは、その「伝統」を活かして中国などの新興EVメーカーに対して優位に立てるかもしれない。フォルクスワーゲン・グループおよびポルシェのデザイン責任者であるミヒャエル・マウアー氏はそう語る。

近年、多くの中国車が欧州市場に流入し、従来の欧州ブランドの競争力について多くの話題を呼んでいる。フォルクスワーゲン・グループのデザインを統括するマウアー氏は、ポルシェのような企業には、何十年も前に確立されたデザインという秘密兵器があると自信を見せた。

ポルシェは伝統という強みを活かしながら、革新的なモデルも投入するという。
ポルシェは伝統という強みを活かしながら、革新的なモデルも投入するという。

「欧州の自動車ブランドは強い伝統を築き上げており、それが人々に好まれる基盤となっています」

「わたし達にとっては大きなアドバンテージですが、新たな競争相手の動きは非常に速いことを認識しなければなりません。これからはデザインが勝負を分けるでしょう。新興ブランドの場合、ゼロからのスタートとなります。最初のステップは信用を築くことであり、それゆえ、デザイナーは今後さらに重要になります」

マウアー氏は取材に対しこのように述べ、すでに数世代先のポルシェのニューモデルを計画しており、その中にはミニバンの「ビジョン・レンディエンスト」のような革命的なスタイルのものもあるとほのめかした。同時に、ファンにはお馴染みのモデルも登場する予定だと言う。

「古いコンポーネントがあるわけですから、わたし達はその分の自由があるのです。しかし、911は常に911であり、そう認識できるものでなければなりません。ポルシェのデザイナーとして、ここをいじくりまわしてはいけない。EVの技術を使えば、911のオリジナルの形に近づけるかもしれませんが……」

レトロと最先端をミックスしたデザインは、将来のポルシェEVにとって重要な差別化要因となるだろう。マウアー氏は、純粋な直進加速性能の正当性を主張することは難しくなると予測している。

「このような高速性は、クルマに多くのものを追加しなければならないことを意味し、公道ではもはや重要な役割を果たさなくなるでしょう。そうなれば、より軽く、より小さなクルマが求められるようになるかもしれません」

衝撃を与えたミニバンが市販化される可能性も?

2020年、ポルシェはバンタイプのコンセプトカーとしてビジョン・レンディエンストを公開した。スポーティな印象の強いポルシェとしては衝撃的なモデルであったが、マウアー氏は市販化の可能性がまったくないわけではないと述べている。

ビジョン・レンディエンストは1960年代のフォルクスワーゲン・タイプ2のレーシングチーム仕様にインスパイアされたもので、運転席を中央に備えている。正式に市販化が決定したわけではないが、マウアー氏によると、電動パワートレインがこのような突飛なデザインも可能にしてくれるという。

2020年に公開されたポルシェ・ビジョン・レンディエンスト・コンセプト
2020年に公開されたポルシェ・ビジョン・レンディエンスト・コンセプト    ポルシェ

「これは、EV技術がクルマのプロポーションを変えた素晴らしい例です。性能の期待に応えるためには、レンディエンストは前部か後部に大きなエンジンを搭載する必要があったでしょうし、そうなればこのシルエットは不可能だったでしょう」

「やはり、このクルマを作ると決めればよかったと今でも思っています。今のところ決定はしていません。しかし、取締役会にプレゼンテーションをするときには、常にこのモデルを含めており、新しいEV技術によっていろいろなことが可能になっているのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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