【レジェンドのツートーン】ブガッティ・タイプ59 白と黒のグランプリレーサー 後編

公開 : 2021.05.23 17:45  更新 : 2022.08.08 07:31

戦前のグランプリレーサーは入手困難。ブガッティを専門とする職人が、理想とするカラーリングでレストアしたブガッティ・タイプ59をご紹介しましょう。

225km/hでストレートを駆け抜ける

text:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)
photo:James Mann(ジェームズ・マン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
乾燥した路面なら、グランプリレーサーのブガッティ・タイプ59はパワーを解き放てる。レストア職人のニル・ジョーンズが笑顔で話す。「メタノールを燃料にすれば、6500rpmまで吹け上がり、225km/hでストレートを駆け抜けられます」

「自分の視力はあまり良くないので、とても速く感じます。パワフルで、タイプ35Bより着座位置も低い。ずっとクルマや路面との一体感を感じます。リミテッドスリップ・デフが付いていて、コーナーの立ち上がりも力強いです」

ブガッティ・タイプ59(1933〜1936年)
ブガッティ・タイプ59(1933〜1936年)

「しかしタイプ59は、幅の広いタイヤを履く同時期のマセラティやERAには敵いませんね。ステアリングは軽快でブレーキも優秀。でもフェードを防ぐために、フロントのドラムはワイドなものが必要になります」

「初期のクルマはオーバーステアに悩まされ、制御が難しくなる可能性もあります。ジャン・ブガッティがドライバーの意見を取り入れていれば、タイプ50Bのようなハンドリングを得られていたでしょう」

キャブレターの調整を決めれば、タイプ59は公道でも非常に扱いやすいクルマになるという。「キャブレターの図面は手元にあります。ニックのフェラーリ250 GTOを整備した経験から、チューニングの正しい内容を理解しています」

今回ご紹介する、モノトーンのボディが美しいブガッティ・タイプ59は、ニル・ジョーンズが営むトゥーラ・プレシジョンで仕上げた最新の1台。スコットランドから2016年に電話が入ったのが始まりだった。

まったく運転されていなかった1台

「前のオーナーは、ブガッティ・ヴェイロンに並べるのに応しいクラシックとして、2009年にアメリカのオークションで購入したそうです。スコットランドの博物館に展示されていたクルマで、地元のガレージではエンジンを始動できなかったようです」

事前の説明では1600kmを走行し、240km/hのスピードまで出せたという話だったが、そのタイプ59は明らかに調子が悪かった。そこでニル・ジョーンズは完全にばらし、運転しやすいクルマへ生まれ変わらせる提案をした。

ブガッティ・タイプ59(1933〜1936年)
ブガッティ・タイプ59(1933〜1936年)

オーナーは費用の掛かる内容を聞き、タイプ59への感心を消失。売却を希望した。タイプ59はシャシー番号BC123のクルマで、ブラッドフォードの専門業者によって一度修復を受けていた。

ラジエターやゼニス52KIキャブレター、カムボクス、ステアリング・ボックス、オイルポンプとウォーターポンプなど、オリジナルの部品は残っていた。前後のスプリングやブレーキレバー、リアアクスル・チューブ、LSDなども当時ものだった。

宙に浮いたタイプ59だったが、偶然その翌年に購入希望者が現れる。デンマークのエンスージァストとの会話がきっかけだったという。

「ブガッティのレストア・プロジェクトは魅力的な内容でした。彼は購入を希望し、わたしたちがレストアを引き受けることになったんです」

「いざタイプ59を分解してみると、恐ろしい状態でした。クルマはまったく運転されていないようでしたね」。シャシーはむき出しにされ、2019年にボディなしの状態で試運転。その後、塗装の問題が生まれた。

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