エンジンはポルシェ356のフラット4 VWタイプ1がベースのスポーツカブリオレ 後編

公開 : 2022.08.07 07:06

オリジナルモデルの創造を志した2人による、スポーツカブリオレ。ビートル・ベースの希少なクラシックをご紹介します。

ポルシェ356のランニングギアを組む夢

ダネンハウアー&シュタウス(D&S)は、マーク・レイノルズ氏が30年前にヴォルフスブルクのフォルクスワーゲン博物館を訪問した際、心が奪われたモデルだったらしい。たくさんの写真を撮影したと話す。

彼は、これまでに200台以上のフォルクスワーゲンとポルシェを所有し、英国では空冷フラット4とフラット6の第一人者と呼べる人物。両ブランドの殆どのエンジンに関わった経験を持つが、D&Sは初めてだった。残存するスポーツカブリオレは、19台のみだ。

ダネンハウアー&シュタウス・スポーツカブリオレ(1951年/欧州仕様)
ダネンハウアー&シュタウス・スポーツカブリオレ(1951年/欧州仕様)

レイノルズは、シュツットガルトで自動車修理工場として今も営業を続ける、D&S社のワークショップを訪問。歴史的な価値を判断し、事業を起こしたカート・シュタウス氏の娘、ジセラ・シュタウス氏へスポーツカブリオレを引き継いでもらうために。

一方のジセラは、自社の歴史に関心を寄せる人物と出会い、興奮したそうだ。レイノルズへ、D&Sの当時の看板やボディ成形に用いた木型などをプレゼントした。数十分前に届けられたばかりの、D&Sスポーツカブリオレも。

彼女の父は、ポルシェ356のランニングギアを組みたいと、以前から口にしていたという。ジセラは、レイノルズがスポーツカブリオレを父が描いた完璧な状態にできる人物だと考えたのだった。

ほぼすべてのスポーツカブリオレと同様に、レイノルズのクルマにもフォルクスワーゲンのエンジンが載っていた。当時はチューニングも施していたが、殆どがオリジナルの30psのままだった。

タイプ1比で50%以上もパワフルな46ps

そこでレイノルズは、1955年のプレAと呼ばれる356用エンジンを搭載したビーチバギーを入手。ポルシェの部品を買い揃え、カートが夢見ていたクルマを作り上げた。ボディは、彼の会社の向かいにある、FHエリス・コーチワークス社がレストアした。

ボディの状態自体は悪くなかったが、シャシーは変形し左右で長さが変わっていたため、別のタイプ1のものへ交換されている。若干手が加えられたダッシュボードに並ぶポルシェ用メーターは、ビーチバギーから抜き取られた。

ダネンハウアー&シュタウス・スポーツカブリオレ(1951年/欧州仕様)
ダネンハウアー&シュタウス・スポーツカブリオレ(1951年/欧州仕様)

スポーツカブリオレは、グレーでボディが再び仕上げられ、ブラックのコノリーレザーで内装が仕立てられた。見事に、カートが思い描いていた理想のD&Sが完成した。

トランスミッションもポルシェ356譲り。リビルドされたばかりで馴染んでおらず、まだシフトフィールは渋い。それでも一度ギアが噛み合わされば、同時期のタイプ1より間違いなく加速は鋭い。オリジナルのD&Sよりも。

最高出力は46psと驚くほどではないが、タイプ1比で50%以上もパワーアップしている。778kgの車体を公道で走らせるのに、まったく不足は感じられない。

ステアリングホイールを回していくと、印象はタイプ1と重なる。敏捷性は程々でも、運転自体が楽しい。ブレーキも356用の部品で組まれており、ドラムながらよく止まる。

安全性を担保するため、マスターシリンダーは1970年代のタイプ1に搭載されていた高性能なものを用いている。目立たないよう、フロントの荷室の裏側に隠してあるが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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