BMW 218d アクティブ・ツアラー vs フォルクワーゲン・ゴルフSV 2.0 TDI

公開 : 2014.08.06 23:40  更新 : 2021.01.30 21:17

ここ最近、ドイツのプレミアム・ブランドは新たな形を纏った魅力的なプロダクトを次々に産み出している。魅力的というのはつまり、お客様はもちろんのこと、利潤をとってみても、ということだ。

80年間、一貫してFRや4WDのモデルの開発に勤しんできたBMWが、ついにFFのモデルを1シリーズに投入したというのも、目新しいニュースである。

ハッチバックのクルマよりも、いくぶん線の太い、MPVのクラスに属するBMW2シリーズ・アクティブ・ツアラーは、控え目に言っても、2014年を代表するクルマになるのは間違いないだろう。少なくともそうなる素質は十分にある。激戦区とも言えるこのクラスにおいて、BMWはプレミアムと言う言葉を武器に、各メーカーへ直接対決を申し出たのだ。

どうしてBMWがこのような家族向けのクルマを作る必要があったのかと不満ともとれる声を耳にすることもある。しかし、このクルマがレジェンドとなり得るか、あるいは負の遺産になり得るかは、まさに時間が経ってみないと分かり得ない。いまは、後者のようにならないためにも、BMW 2シリーズは自らのアビリティを証明すべき正念場なのである。

では、第一トピックといこう。このクルマはいかに優れているか、である。

それを知るべく、われわれは比較の対象としてフォルクスワーゲン・ゴルフSVを指名した。つい最近新モデルがデビューしたハイルーフ・ハッチバックで、アクティブ・ツアラーの直接的なライバルと言ってよいだろう。アクティブ・ツアラーはオーストリアの地でテストしたモデルと同様に、2.0ℓディーゼルの218dだ。戦いに公平を期するために、ゴルフSVも2.0ℓ TDIエンジンを載せたものとした。

車輪を転がす前から、この両者はほぼ互角の戦いを繰り広げる。BMWの横置き4気筒エンジンは4000rpm時に最高出力である150psを、最大トルクは33.6kg-mを1750rpmにて発揮する。

一方のフォルクスワーゲンも4気筒ディーゼル・エンジンをその心臓とし、最高出力も全く同値の150psだ。ただしピーク出力時は3000rpmとなっておりBMWより1000rpm低い。最大出力はBMWより1.1kg-m大きい34.7kg-mを、これまたBMWと同じ回転数の1750rpmにて発揮する。

両者の車両価格は、スペックほど似通ってはいない。BMWは£24,205(358万円)と決して安くはない。対するフォルクスワーゲンの方も、さほど安価ではなく、デュアル・クラッチATを選ばない2.0 TDI BMTの標準スペックで£23,950(355万円)だ。

もう少しスペックが充実したフォードCマックス2.0 TDCi 163 タイタニウムXが£24,225(359万円)、メルセデス・ベンツB200 CDIの標準スペックで£24,145(357万円)といった価格設定になっていることも参考にされたい。

2台を並べて見てみると、BMWのの方が見た目がシャープで、現代的にみえる。18インチのホイールも、そのルックスの鋭さに一役買っている。もともと、ハイルーフ・ハッチバックを格好よく見せることはなかなか難しいのだが、アクティブ・ツアラーは伝統的なキドニー・グリルや脇腹のキリリとしたラインをもち、なかなか印象的なデザインになっている。

ゴルフSVの場合は、ダイナミックというよりも、どちらかというと静的な印象だが、内装パネルのフィッティング精度はBMWよりも長けている。豪華ではないが質の高いインテリアのお陰で、エクステリアもどことなく精度が高いように感じられるのだ。

BMWより高さがあることによって、必然的に実用性も増している。また17インチのホイールは、ピュアなハンドリングの代わりに、日常的な使用における快適性を提供してくれる。

サイズの比較をしていこう。両者ともに5人乗りであるのは変わりはないが、BMWの全長はVWよりもわずか4mm長い4342mm、全幅は7mm短い1800mm、全高は23mm低い1555mmとなる。

整理すると、全長×全幅×全高はBMWの場合、4342mm×1800mm×1555mm。VWは4338mm×1807mm×1578mmだ。

BMWが動力学において新しいフィロソフィーを盛り込んだことは、なにもサーキットでコーナーを攻めたりすることなく簡単に感じることができる。

なぜなら運転席に乗り込むだけでわかるからだ。シートの高さはいままで慣れ親しんできたBMWのそれより明らかに高くなっているし、分厚いAピラーは、前方の視界制限を余儀なくし、またリア・ガラスの狭さも間違いなく後方視界を制限することになる。したがって、パーキング・センサーをオプション選択することは必須である。

ここではフォルクスワーゲンが優位に立つ。BMWと比べるとわずかに幅の狭いAピラーは視界を良くするし、垂直に近いリア・スクリーンも利便性が高い。

BMWの新設計のプラットフォームは、これから登場する予定のすべての前輪駆動車と、姉妹メーカーのミニに取り入れられるそうだ。

218dの足元は、フロントがマクファーソン・ストラット、リアがマルチリンク式となり、ここまでは最新世代のミニと同じなのだが、ハンドリング性能を高める目的で、施される味付けは全く別のものだ。

ハードに走らせれば、MPVってこんなに俊敏だったかな?と感じることになるだろう。1375kgの乾燥重量のおかげで、パワー・ウエイト・レシオも1492kgのゴルフSVより勝るゆえ、かなり軽快なハンドリングとなっている。

0-100km/hのタイムはBMWが8.9秒、VWが9.2秒。最高速度は前者が212km/h、後者が204km/hというのが各社の公表値だ。

BMWのエンジニアは、前輪駆動車であるにも関わらず、どのグレードも車重による印象に差が出ないようにしようと力を注いでいる。

218dの電子制御のメカニカル・ステアリングは、クラスの標準から比べると明らかに重みがある。またステアリングのシャープな反応を味わえば、なるほどこのクラスのクルマのステアリングが、こうであってもいいのかと唸らされることになるだろう。ただし、手放しで受け入れられるかというと、これはまた話は別で、たしかに街なかでの回頭性はまずまずなのだが、この手のクルマを買う層にとってはもう少し穏やかな味付けでもいいように感じた。

’楽しさ’ の観点でみれば、このクルマはフォードCマックスと同レベルの楽しさをドライバーに与えてくれるはずだ。運転好きの心を掴むことは間違いない。コーナーに向けてステアリングを切っていく際の楽しさといったら、ホットハッチのクルマたちと比肩するレベルだと言っても差し支えないだろう。18インチのタイヤは、アンダーステアをとても律儀に抑えこんでくれた。

幅広のべったりと低いスポーツカーではないのに、コーナーをかなりの速度で攻めても驚くほどに安定感があり、運転していてとても楽しいのだ。一方のゴルフは、正直に言ってアクティブ・ツアラーほどのコーナリングにおける楽しさはない。しかしその分、安定感は抜群だ。その完成度たるや、シャシー設計に一体どれほどの力が注がれているか計り知れないと思ったほどである。

ボディ・コントロールこそ、BMWに一歩譲るところはあるものの、ゴルフSVはドライビング・アシストが介入するぎりぎりのところまで、とにかく勢いよく走りすすめる。コーナリング時のダンピング・マナーも非常によく、安定感は両者ほぼ互角といって差し支えないだろう。

ゴルフの場合、最初から最後まで一貫して同じあんばいでコントロールすることができる。ステアリングはBMWよりも軽いけれど、伝わってくる情報量はきちんと確保されている。事実、リアルではないが、入力に対する反応は非常にダイレクトで研ぎ澄まされているし、ブレーキ・ペダルやガス・ペダルの感覚も軽い。したがってBMWよりも、すこぶるリラックスして運転することができるのだ。

アクティブ・ツアラーの弱点は、静粛性にある。どの速度域でも耳に届いてくる、典型的な ’ディーゼル音’ に悩まされる向きも少なくないだろう。フロント・タイヤの発するノイズも比較的大きいし、巨大なAピラーが風を刻む音も高速では目立つ。

一方ゴルフの場合、それらの欠点は模範的ともいえるほどに解消されている。キャビンから遠く離れた場所にエンジンが置かれているのではないかと錯覚するほど、エンジン音も静かだ。高速域でのウインド・ノイズ、タイヤ・ノイズ両方ともに巧みに抑えられており、オプションで可変ダンパーを選択していたテスト車両は、洗練性をさらに磨き上げる結果となっていた。

ただしBMWには切り札がある。それは燃費とCO2エミッションだ。BMWの公表する複合サイクル燃費はフォルクスワーゲンの21.3km/ℓに対し24.4km/ℓ。またCO2排出量もフォルクスワーゲンの122g/kmに対し、109g/kmを達成している。いづれもBMWの優勢だ。

つづいて、動力以外の観点からもいていくことにしよう。そうすれば、フォルクスワーゲンの長所が目立ってくることになる。特に、インテリア。こちらはフォルクスワーゲンの方が使い手に優しく、美しくありながらフランクな印象がある。この点では、わずかではあるが、ファミリカーとしての購入を検討している層に対して大きくリードすることになるだろう。

つづいてダッシュボード。こちらはBMWの方が、目で見る分には面白い。例えばドライバーの前方に鎮座するディスプレイや、太いラインを基調とした横方向のラインなどがいい例だ。しかしながら、そのどれもがあくまでドライバーを主体として成り立っているように感じられ、パッセンジャーにとっては、大きく張り出したダッシュ・ボードを目の前にすると、実際のスペースよりも狭く感じるはずだ。

高さのあるゴルフSVのダッシュボードは、決して面白みのあるデザインとは言い難いが、簡潔に整頓され、人間工学的にも優れた設計は、本質的な広さをもたらしてくれるのは言うまでもない。

アームレストや、ドアの内張り、さらにはコンソールに用意されや小物入れの豊富さは、現代のクルマの例に漏れず、両者ともに優秀であった。

ゴルフSVの後部座席は、サポートが甘く、クッションも平らではあるが、アクティブ・ツアラーの盛り上がった真ん中のシートは明らかに子どもしか使えないことを考えると、ゴルフSVの方が長距離ドライブに向いているといえる。

テスト車両は、2台ともにリア・シートをスライドさせて、レッグ・ルームとトランク・ルームのバランスを調整することができたが、ゴルフSVの場合、スライド・シートは標準装備、218dアクティブ・ツアラーの方はオプションとなる。

縦方向に高さのあるゴルフSVの荷室容量は、リアのオーバー・ハングが短いにも関わらず500ℓが確保されている。これに関しては、スポーティなルックスを纏うBMWもなかなかの大健闘で468ℓを確保した。

468ℓは、クラスの平均値よりもわずか25ℓ少ないだけなのだから、まずまずだと言っていいだろう。また、ゴルフSVには用意されていないが、アクティブ・ツアラーには電動テール・ゲートがオプションで選択可能だという点も褒められるポイントだ。

両者ともにリア・シートが比較的大きめに作られていることが災いして、折りたたんだ状態で荷室を完全にフラットにすることはできないのは残念な点だ。なお、シートを折りたためば、ゴルフSVのほうが僅差ではあるが10ℓ大きい1520ℓとなる。

では、BMWにあってゴルフSVにない点はなんだろうか。それは、内装の高級感だ。やはり価格の影響を受けて、BMWほど高級感のある素材を見ることはできない。スイッチの押し心地などゴルフSVだって、他のライバル車には全く劣っていないのだが、やはりBMWと並べるとプレミアム感では一歩届かない結果となった。

いよいよ結論といこう。

218dの方が新しいクルマであるし、軽く、活気のあるエンジンを考えれば、218dを勝者とするのはそう難しいことではない。

テスト・コースでも、荷重をコントロールしながらコーナーをこなしていけば、BMWの伝統をきちんと受け継いでいることがよくわかる。そのうえ、環境にも良いことを考えればなおさらBMWの方が光って見えるのも無理はない。

しかしながら、である。アクティブ・ツアラーはゴルフSVほど多芸多才ではないのだ。広いキャビンに、たっぷりとした荷室容量。MPVである以上、この2点をきちんと押さえているのはゴルフSVの方だった。

そして結論を下す際の決定的なポイントとなったのは、全体的な使い勝手だ。ゴルフSVの方が、軽くコントロールすることができ、親しみやすいインテリアをもつ。そして視界が広く、運転を楽に行うことができるのだ。金額を重要視する向きにはなおさら、である。

ほんの僅かな差ではあったけれど、われわれはゴルフSVを勝者とする。しかし、もう一度言うが、差はほんの僅かであった。仮に違うエンジンの組み合わせであれば、結果がひっくり返ることもあり得ると思う。

結論を下さざるを得ないのが、この比較試乗のルールではあるが、それ以上に、BMWがこのクラスの生態系を変容しかねないモデルを出してきた、ということが明らかになった。

どのメーカーも、安心してはいられない。

(グレック・ケーブル)

BMW 218d アクティブ・ツアラー

価格 £24.205(419万円)
最高速度 204km/h
0-100km/h加速 8.9秒
燃費 24.4km/ℓ
CO2排出量 109g/km
乾燥重量 1375kg
エンジン 直列4気筒1995ccターボ・ディーゼル
最高出力 150ps/4000rpm
最大トルク 33.6kg-m/1750rpm
ギアボックス 6速マニュアル

フォルクワーゲン・ゴルフSV 2.0 TDI

価格 £23,950(414万円)
最高速度 212km/h
0-100km/h加速 9.2秒
燃費 21.3km/ℓ
CO2排出量 122g/km
乾燥重量 1492kg
エンジン 直列4気筒1995ccターボ・ディーゼル
最高出力 150ps/3500rpm
最大トルク 34.7kg-m/1750rpm
ギアボックス 6速デュアル・クラッチ

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