WRCで活きた技術と経験:オペル・モンツァ FF 攻め立てると才能が輝く:アウディ・クワトロ (2)

公開 : 2024.01.21 17:46

四輪駆動の速さを証明したUrクワトロ 極めて希少な同時期のモンツァ FF オフローダーではない四駆クーペの魅力を、英国編集部が振り返る

少し無骨な機械感が漂うクワトロ

アウディ・(Ur)クワトロでは、オペル・モンツァ FFのように、リアタイヤが外側へスライドするような挙動を楽しめない。1988年に2.2Lの後期型MBシリーズへアップデートした段階で、トルセン式ディファレンシャルを採用。その弱点は改められた。

5気筒ターボエンジンのトルクは、最大75%までリアへ分配可能に。ドライコンディションでのアンダーステアも、大幅に軽減された。あいにく、今回は最後までウェット状態だったけれど。

アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)
アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)

インテリアは、クワトロがブラック基調。シートは硬めのクロスで包まれる。モンツァ FFも黒い世界だが、ベロア生地とウッドトリムで飾られ、豪華なグランドツアラー感を漂わせる。

低速域での乗り心地も、モンツァ FFの方が快適。防音性に優れ、3.0L直列6気筒エンジンのリニアなパワーを、しっとり味わえる。かといって、ロー&ワイドなプロポーション通り、スポーツカーらしさもしっかり備わる。

運転席からの視界は広く、ハイペースでの運転もしやすい。乗り比べてみると、モンツァ FFの方が挙動を予想しやすい。限界領域も、予め感じ取りやすいようだ。

クワトロは、低速域では少し無骨な機械感が漂う。シフトレバーとクラッチペダルのストロークは長めで、ステアリングホイールは理想より若干大きい。1980年代らしいターボラグは、滑らかな体験と相容れない。

6台しか製造されなかったモンツァ FF

しかし、ハードに攻め立てると才能が輝き始める。ターボブーストを保つ限り、5気筒エンジンは夢中にさせるパワーを繰り出す。シフトレバーのぎこちなさも、運転へ集中すれば気にならなくなる。

比較すると硬めのサスペンションは、英国の傷んだ路面を流暢にいなす。適度に引き締まり、充分しなやか。凹凸を均し、ある程度のボディロールを生むものの、フロントに荷重を移しながら左右へ活発に回頭していく。

アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)
アウディ・クワトロ(Urクワトロ/1980〜1991年/英国仕様)

コーナーの内側が盛り上がっていても、フロントタイヤが積極的に食らいつく。後輪駆動へ乗り慣れている人にとっては、新鮮な体験だろう。

加えて、クワトロは約20psも最高出力で勝り、遥かにパワフル。自然吸気のモンツァ FFの方が扱いやすいとしても、車重が軽く、その差は大きい。新車時代から、比較試乗で指摘されてきた事実だ。

この2台は、四輪駆動のスポーツクーペが、秀でた動的能力を発揮することを証明した。だが、モンツァ FFは市場を掴むことができなかった。1981年からの6年間に、6台しか製造されていないのだ。

四輪駆動化のコストが、約5500ポンドと安くなかった。モンツァ FFの英国価格は、当時で1万9363ポンド。アウディは、クワトロを1万4500ポンドで提供していた。

1981年のモーター誌の取材で、技術者のトニー・ロルト氏は次のように述べている。「アウディは、わたしたちの主張を受け入れ、素晴らしいクワトロを生み出しました。しかし、50:50のトルク分配率が正しいとは思えません」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

アウディ・クワトロ オペル・モンツァ FFの前後関係

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