快適ですべてが良くまとまったクルマ

傍らのスパイスは幸せそうだ。「確かにカプリはとても良いクルマでしたが、もうレースはしたくありません。生まれながらの僅かな才能があったおかげで、勝つことができたのだと思います。身体を鍛えるためにジムへ通ったこともありません」

「レースの前夜はいつも喧嘩をしていました。若かったので、頭を振って忘れて、クルマに乗りました。引退した理由のひとつは、グリッドに飲酒検知器を持ち込む話を聞いたからです。わたしがよほど心配だったのでしょう」

「レーシングカーやロードカーとして最も重要な点は、運転が簡単かということ。不安がなくなり、リスクも減り、計算もできるようになります。安全に運転へ集中することができるのです。カプリは挙動も予測が可能で、空力特性にも優れ、スタイリングも魅力的。すべてが良くまとまったクルマでした。今でも快適に感じるほどです。カプリにもう一度乗ることができて幸せです」　とスパイス。

「わたしは当時の成功を振り返ることができて幸運ですね。沢山の友人を作ることができたことも、幸せに思います」

番外編：耐久レースという長く孤独なゲーム

ゴードン・スパイスはツーリングカー・レースだけでなく、耐久レースにも熱心だった。1978年のスパ24時間レースでは勝利している。改修を受ける前の14kmの長いストレートを持つコースで、テディ・ペレットとともにカプリをドライブしたレースは、彼のキャリアの中でも最も自慢できるものだという。

スパイスは他にも、いくつかのスポーツカー・レースでタイトルを獲得し、ル・マン24時間レースでは2回表彰台に登っている。宿った才能の表れといえるだろう。

「閉鎖感のあるスポーツカーに乗っていると寂しく感じます。自分との戦いです。前を走るクルマを眺めながら、追い越すために必死にドライブするのです。自分以外のドライバーは馬鹿で、なにか愚かなことをすると信じることが、レース界で生き残るために、わたしが見つけた唯一の方法ですよ」

画像　フォード・カプリ3.0S　全16枚