社会人1年目、ポルシェを買う。

2016.11.10

第39話:ドライビング特訓 with 編集長編。

「あした時間あるか?」
と笹本編集長が声をかけてくれた。

笹本編集長が社長をつとめる
山梨県は甲府の「常磐ホテル」に行く際
シャカイチ号もいっしょに連れていって
編集長が若かりしころに走りこんだ峠道で
運転特訓をしてくれるということであった。

あの事件’ からしばらくが経って、
‘運転がへた’ というコンプレックスから抜けだせず、
いつか誰かにきちんとドライビングを習わなければ、
と思っていたのでもちろんふたつ返事でお願いした。

適度なアップダウンと廻りこんだコーナー、
傾斜が急で、ヘアピンが連続するコースである。
ついていきなり笹本編集長がシャカイチ号のハンドルを握り
特にスタートを告げることもなく峠に飛びこんだ。

やばい! とアシを突っ張っていたのだが、
しばらく経って、‘あまり怖くない’ ことに気がついた。

とうぜん絶対的なスピードは高いのだが、
横向きのGがあまりかからないのである。

なにより印象的だったのは音だ。
タイヤがギャーー! っと鳴いたりすることが一切ない。
文字にするならばヒャーーとかヒョーーといったところ。
音程が高く、軽いかんじだった。
派手さがまったくないのに、速かった。

乗っている僕からすると、
リアが魚の尾びれみたいに
ひらひらと動いているかんじがした。
RRだから本質的には、そんなはずはないし、
現にドライブしている編集長は
「まちがいなくリアがフロントを押しだしている感覚」
と言っていたけれど、リアは気持ちよさそうに
ひらひらと動いているように感じられた。

編集長はよく、
「ゼロ・カウンターのドリフト」ということばを使った。

‘ここから先はグリップが限界に達する’ というタイミングと
‘ここまでならば車体がねばってくれる’ というタイミングが
ようするにグリップの限界点なわけだが、
そこをうまく見極めながら、コーナーを攻略する。

その際、後輪は滑るか滑らないかのギリギリのところ。
舵角は極限まで小さいままに、
車体は自然なドリフト・アングルになるのだそうだ。

「アクセル操作でノーズの向きを決める」と、
AUTOCAR UKのテスターがよく書いているけれど
こういうことなのか! と、身をもってかんじた。
 
 
理屈はわかった。けれどどうすれば、そうなるのか?

たいせつなのはブレーキのタイミング。
さらにステアリングを切るタイミングと速さ。

ブレーキは、速度を殺さぬように
ギリギリまでガマンするものではなく
あくまで脱出時の姿勢づくりのためにおこなう。

ここができていれば、コーナーでノーズが外をむかない。
内をむいていれば、そこからリアがフロントを巻きこむように
きれいに曲がることができる。

「(996には付いていないけれど)
 トラクション・コントロールを介入させるときでさえ
 意図的じゃなければならんぞ」と、笹本さんはいった。

当の僕は「996って速いんですね……」というのがやっと。
第19話で、リアがとても重く感じると書いたことがあったが
そもそもあの時の速度域は、こんかいと比べ物にならない。

さらに、あのときは、
荷重が前にちっともかかっていなかったことを
身をもって、感じた。

きちんと走らせたときに、ポルシェはとてつもなく
高いパフォーマンスを発揮させることも体感できた。

音がいいなぁ、とか、しっかりしているなぁ、など
それくらいの魅力しか感じられなかったのが悔しい。

もちろん、
速く走ることだけが自動車趣味の醍醐味ではないが
‘やるべきことをきちんとやったときの’
車体のクイックで刺激的な動きは癖になるにちがいない。

オーナーの僕ではない人にドライブしてもらっているのに
喜々として走る996にちょっと複雑な気持ちになったけれど
逆に「ここまで走るんだ!」という単純な驚きもあった。

一度はかならず、うまいひとに
運転を教えてもらったほうがいいともおもった。
自己流で「あぁでもない、こうでもない」とやっても、
模範解答がないかぎりはとうていうまくならなかっただろう。

「いまはおれの運転をみた直後だから
 速く走れるような気がしているだろうけど
 それは勘違いだからな。
 くれぐれも全開はやめるように。
 あたまに血がのぼっていても、
 かならずマージンをとって、
 実力の8割で走ることを約束しなさい」
という注意を受け、レッスンは終わった。

ポルシェはものすごく速い!

でも自分で速く走らせるには練習が必要だ!

と、思っていた矢先に、マツダからとあるお誘いがあった。

第40話:「ドライビング特訓 with マツダ編。」は、後日公開予定。
 

※今回も最後までご覧になってくださり、
 ありがとうございます。
 
 レッスンの日の夜、
 ものすごい速度で眼前の景色が迫ってきて
 あっというまに過ぎ去っていく夢で
 なんども飛び起きたのは内緒です。

 今後とも、[email protected] まで、
 皆さまの声をお聞かせください。
 もちろん、なんでもないメールだって
 お待ちしております。

 
 

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